第4話 このクラス、終わってる
砂月は、眉をひそめて動向を見守っていたが、いい加減うんざりして視線を窓辺に向けた。
無事、教室に辿り着けたものの、一時間目が始まって直ぐだった。
パンダ顔の学級委員長が、椅子から立ち上がって、プリントを配り始めたのだ。
彼、近藤 樹は、坊主頭を光らせて教壇に立つと、重要事項であると言わんばかりの顔付きで話し始めた。
「えー、えー、二週間後の文化祭ですが。あ、先に、プリントに目を通して下さいね。えー、僕ら三組は、劇をします。あ、それ、脚本です。新しく書き換えたので、線を引いてる所を確認して下さい」
独特な語り口と嗄れ声を、砂月は不快に感じた。
配られたA4のプリントに向き直ると、砂月は、静かに嘆息を漏らした。
それから黒板に目を遣った。あんまりな脚本に胸が痛んだ。
(これ、わざわざ英語の授業を潰してまで決める事!?神経を疑うわ。タイトルからして絶望的。こんなアホらしい劇を観たら、誰だって嫌気が差すわ)
脚本の内容を聞かされて、砂月は、そう確信した。
「あ、三上くん、書記やって。配役、決めるから。名前、書いて」
「えっ、俺?」
前列に座る金髪の美男子が名前を呼ばれて、黒板に書くよう促された。
「何で、俺?めっんどいわ~」
ぶつくさ言いつつも、大人しく椅子から立って教壇に上がった。
黒板に背を預けて腕を組むと、頭を後ろに反らして愚痴をこぼした。
「ほんま、だっるいわ~。はよ、決め~」
そう言うと、足まで組んで目を瞑った。
(うわー、やる気ゼロ。気持ちは、分かるけど……)
砂月が、横目で担任(ベス39歳)を見遣ると、熊のようにでかい体を窓ガラスに押し付けて、グラウンドを見ていた。
それから、大口を開けて呑気に欠伸をした。
ベスというのは、ベビーフェイスの略らしい。顔だけが幼いのだ。
(このクラス、終わってる。まあ、私の仕事も、昨日終わったんだけどね。首になったから……)
砂月は、一瞬目を伏せて、再び黒板を見た。
パンダ顔の後ろで、こくりと船を漕ぎ始めた、気怠げに揺れる金髪を凝視したが、やはり疑問が湧く。
(三上くんて、なんか懐かしい気がするのよね……)
砂月は、不思議に思って首を傾げた。
(うーん。何でだろう?)
「それでは、配役を決めたいと思います。立候補があれば、名乗り出て下さい。劇の名前は、『 かまぼこ姫』です。 脚本は、 演劇部の部長、我らが期待の星!星野 《ほしの》 裕くんが考えてくれました!はい、拍手~」
パチパチパチと、まばらな拍手に苦笑した。
(やる気ゼロね……)