第一章 届かない想い ①
六月末日、十六時。仲夏の明るさが残る都内に、激震が走った。
大地が揺れ、ビル群の窓々が震え、片側三車線の大通りが混乱で満ちていた。
断続し轟く数多の銃声が、途切れる。
乗り捨てられた車列の間を、パニックに陥った人間が走り抜けていく。
歩道も同様に、血相を変えた人々が、まるで何かから逃げるかの如く。
そんな中、緊迫渦巻く人々の流れに抗い、逆方向へと駆ける一人の少年がいた。
身長一〇〇センチにも満たない小さな身体で。
背丈の倍はあろうかという大剣を背負って。
その少年は、ガガガガガガ! と、剣の刃先を地面に引きずり、火花を上げながら走る。
背に小振りなマントをはためかせ、黒い天然パーマの頭にはヘッドバンド。
ふっくらした身体に、シャツ、アンダーシャツ、バックルベルト、アンダーパンツ。
短い手足にはグローブとブーツを身に着けている。
ゲームに出てくる戦士のような出で立ちは、群衆の中でも特に目立った。
だがそんな少年に、人々は見向きもしない。
カメラを装備したドローンが数機、青空を背に飛び、少年の動きを追う。
大通りの先にはスクランブル交差点。
交差点に面したビルの巨大モニターに、ドローンの映像が映し出される。
動画番組の司会者が実況を始めた。
『一番乗りは、今年でヒーロー活動二年目のユウタです! 相変わらず剣を引きずっている! 身体に合わない武器を使う理由はなんなのか!』
モニターに映っているのは、今まさにスクランブル交差点に至ろうとしている少年。
少年の名は、山田勇太。ヒーロー名も特に捻りなく、ユウタと言った。
『ユウタは身長八十センチのおチビちゃん! だがこう見えて一七歳だ!』
司会者の、リスペクトなのか逆なのか判然としない実況に、視聴者のコメントが流れる。
《ハイ、負け確》
《なんでユウタなんだよ》
《ダサすぎ》
モニターを横切るコメントは、多くが勇太を下等動物のように貶すもの。
勇太は、モニターには目もくれず、スクランブル交差点に迫る巨大な【影】を睨む。
さきほどから聞こえてくる、ドシン、ドシン! という断続的な地鳴り。
それが次第に大きくなり、人々の叫び声が掻き消される。
【影】が縦に伸び、スクランブル交差点を覆い隠した。
誰もが逃げ去った今、交差点に立つのは勇太だけ。
彼は油断ない険しい表情で、影の持ち主を見上げる。
体長は二十メートルを超え、太く逞しい二本の腕と足。頭部から背中まで広がるたてがみ。
肌はグレーの毛で覆われ、顔はハイエナの如く前にせり出し、噛み締められた口から鋭い牙。
極めつけは、胴体と同じくらいの長さを持つ、大蛇の如き尻尾。
【魔物】だった。
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