第7話 結局世話を引き受けたおれ
お目をとめていただきありがとうございます。
ユニコーン、デネブの世話を引き受けたイツキは、クリア大隊長に呼ばれーー。
「イツキ、デネブの世話を頼んだ」
「はあい」
数日後、おれは普通に団長のユニコーンの世話をしていた。おれの前の世話係をしていたカランは、喜んで世話係を代わってくれた。
「デネブは気まぐれでさ、困ってたんだ」
こっそりと教えてくれた。
そんな気まぐれなデネブだが、おれにはものすごく懐いてくれる。たまにじっと見てくるときがある。その視線ときたら熱っぽくて、正直嫌になる。
ああ、好かれない相手から好かれても嬉しくないんだな。おれも反省しよう……。
高2のときバイトをがんばって、有名なブランドバッグを買った。あの子が欲しいって言ってたからーー。あの子の誕生日にそれを渡したら、冷たい目で一言、『キモい』、だったな。あれどうしたっけ?返品できなくて、免許取ったら質屋に持って行くつもりだったかな?姉貴が使うって言ってたんだっけ?
何にせよ、おれたしかにキモかったわ。あのときは頼まれてもないのに、イイ男ぶりたかったんだよ。
見てるだけでいいから、なんて青春してて、『何見てんの?』と聞かれたときの恥ずかしさもなかなかえぐかったけど。
「よしよし、人参をたくさん食べるんだ」
デネブはおれの手から嬉しそうに人参を食べる。食べ終わるとブラッシングまで要求してくる。
「はいはい。おまえはわがままだね」
ブラシで毛を丁寧に整えてやる。
「イツキいる?」
レオノラに呼ばれおれは振り向く。
「いるよ」
「クリア大隊長が呼んでるよ」
「えー、また大隊長のリゲル(やはりユニコーン)とくっつけようとするんじゃないの?」
「はははっ、もてる男はつらいね」
人間にもててえよー。
ちなみに、おれと団長の仲は何にも進展がない。おれは団長にしてみれば、ただの手下その1だ。会話は増え、親しくはなっているが、好感度があがっているかと言えば、たいしたこともなさそうだ。
例えるならクラブ活動が一緒の先輩後輩だろうか。
「呼びましたか?クリア大隊長」
「あっ、来てくれたんだ。早速だけどリゲルの口を開けさせてみてよ」
「はい?」
「何かをかじってるみたいなんだけど、口を開けてくれないんだよ。訓練もできないし、困ってるんだ」
「開けてくれるかな?」
「ダメもとだよ」
それもそうか。
「おい、リゲル。調子が悪いのか?」
おれの顔を見てリゲルは目を輝かせた。顔を擦り寄せてくる。いやいや、角!危ないの!
「やっぱり、おまえ好かれてるんだな」
感心したような声でクリア大隊長は言う。
「ーーおかげさまで」
くそである。
リゲルはおれの前で口を開けた。えーん。生臭いよーー。リゲルったらお口くさ~い。後で歯みがきしてやろう。しかし、あんまり口開かないんだなーー見づらいわ。
デネブは最近おれが歯みがきをしてやってるので臭さがましになった。団長も案外めんどくさがりなのか、もう少しデネブの世話をしたらいいのにとおれは思う。
「あっ、でっかいトゲが奥歯の横にあります」
「え!なんでだ?」
「水場で食べちゃったとか」
「リゲルは賢いから人参以外は食べないよ」
「じゃあ、人参がおかしかったんですかね?おい、リゲル、トゲを取るから噛むなよ。クリア大隊長、リゲルが噛まないようにしてくださいよ」
「どうやって?」
あほだ。大隊長のくせに。
「開口器がないなら、奥歯の方にタオルをはさんでください」
「おまえ、詳しいなー」
「ええ。親父が獣医でー」
あっ、向こうの親父だよ、こっちじゃ農民だ。
「じゃなかった、親父の親戚の親戚の親戚の叔母が獣医です」
クリア大隊長は不思議そうな顔をした。
あぶねーあぶねー、獣医とはいえ医者の息子が医者を継がないなんて、変に思われるとこだった。
ニホンじゃそんな法律はないが、ピスタチオン帝国では、医者の子は医者になるんだ。
「リゲル、痛いかもしれないが、噛むなよ」
おれは手袋をしてリゲルの口に手を突っ込んだ。リゲルがビクっとなる。
「ほいほい、いいぞ、いい子だ」
トゲをゆっくり抜く。
おれはリゲルの口から腕を抜いた。
「はい、クリア大隊長」
「すごい!ありがとう!結構堅いトゲだなー」
「何の植物ですかね?」
間違って食べないように気をつけなければ。
「いやーー。ありがとうイツキ、オレ団長のところに行ってくる」
「はあい。リゲルの歯みがきしていいですか?」
「ホント!ラッキー頼むわ!なかなかできなくてよ」
みんな動物の飼い方がなってねえな。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。