第5話 イツキ、閉じ込められる
お目をとめていただきありがとうございます。
団長と食事に行く事になったイツキは、ラズロに呼び出されーー。
浮かれたおれは訓練もそこそこに夜の服装を考えていた。
「イツキ、夕食どうする?」
レオノラが聞いてきた。
「ああ、ちょっと野暮用があるからいらないよ」
「じゃあ、イツキの分まで食べよう」
「ああ」
おれは薄暗くなってきた外に、うきうきで出かける。仲良しになっちゃうぞー。
「イツキーー」
「ん?なんだよラズロ」
今さら謝っても許してやんないわよ。
「ちょっと来てくれよ」
「おれ、急いでるんだけど。団長が待ってるし」
「ーーちょっとだけだよ」
ちょっと間歩くと、倉庫が見えた。
昔使用されていた倉庫だ。いまは使っていない。何でも人が中で無理死にしたらしく、縁起が悪くて使わないらしい。
強引に連れて行かれて不満ブーブーのおれに、ラズロは言う。
「ーーずるいよ。イツキ」
「え?」
ダンッ!
背中を押され、おれは倉庫の中に突き飛ばされた。
「え?」
ガシャン!
「おい!おい!ラズロ!」
「俺が団長と食事に行くから」
「ちょっと待て!せこいだろ!この卑怯者ぉ!」
「朝になったら開けてやる」
「遅いわ!こんちくしょう!」
ラズロが去った後おれは叫びまくったが、誰にも気づかれることもなく、そこにいるしかなかった。扉はビクともしないし、窓もない。壁もしっかりしていて、夜なのに暑い。真夏だったら死んでる暑さだよ。
「くそっ、うまくいかねえなー」
こんな場合じゃないのに……。おれのハッピーキャンパスライフ。どんどん遠のいていくぜ。
ああ、ギャーギャー騒ぎすぎて喉がカラカラだ。もうラズロと一緒の部屋なんか無理だ。明日誰かと交換してもらおう。
なんだよ、あいつ団長が好きだったのかよ。相談してくれれば応援してやったのにな。
いまじゃ、絶対応援する気になれない。徹底的に邪魔してやるーー。
おれの決意はコンニャクより堅いんだぜーー。
ん?あれ?
どうやら、寝てしまってたようだ。
なぜか、身体が動かないぞ、なんだこれー。おれは倒れているのか?汗がひどいーー。口の中がカラカラだ。
うわっ、脱水症状おこしてねえか?
マジですかーー、どのぐらい寝てたんだ?感覚がないぞ。
ここで死んだ場合どうなるんだよ。おれの家に帰れるのか?そのまま死ぬんだったら、嫌だよー。
そう思ったおれの耳に、馬の走る音が聞こえる。
ヒィヒェーーン!
ダンッダンッ!
馬のいななきと何かを叩く音がした。
「鍵を壊すぞ!」
「ああ!」
誰かの声が聞こえる。誰でもいいです、助けてください。
ガシャ!
扉が開き、何人かの足音が聞こえた。
「イツキ!」
何だか団長の声に聞こえるような聞こえないようなー。
ただ、しんどい。目を開けるのもダルいんですよ。
ん?団長、なんか息が臭いんですけど、マジですか。そこは重要なとこだと思いますよ。
「ヒヒー!」
なんか怒ってる?
「やめろ、デネブ」
あっ、ユニコーンの息でしたか。こいつは失礼しました。
「イツキ!水だ!」
水!喉乾いてたんですよ!
「飲め!」
飲みたいのに……。口が乾きすぎて、ゲホゲホだよ。団長、死ぬっておれ!
「団長、口移しのほうがよくないか?」
冷静な声がする。レイン大隊長かなー?。
「わかった」
いや、ちょっと待て。飲むよ、ひとりで大丈夫だからー。
照れるおれの口に、柔らかくしっとりとしたモノがくっつき、水が少しずつ流れてきた。
ちょ、ちょ、ちょっと待ってよーー。おれの初キッスだよーー。だ、だ、団長なの?
嫌だわん。あなた、接近しすぎよー。
あー、しかし、水がしみるわー。
「あ、あり……が…とう…ござい…ます……」
おれは精一杯の感謝を告げて、気を失った。
「イツキ!」
「イツキ!死ぬなぁ!」
え?死ぬの、おれーー。
「レイン、ふざけない」
「はははっ」
冗談でよかったーー。おれの意識はそこで途絶えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。