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第2話 すんなり溶け込む生活

目をとめていただきありがとうございます。

イツキは、団長に近づく方法を考えます。好きな人ってどうやって近づくのでしょうかね?ラッキーは起こるのか。

「イツキ、今日はゆっくりだね」

 珍しいことだ、と相部屋のラズロが言った。おれは固いベッドから身を起こした。何だこのマットレス、草臭いし全然反発しないな。身体バッキバキだぞ。

「何だか疲れてるんだ」

 おれは寝具を整えながら言った。おれはこの国、ピスタチオン帝国には珍しい東の国から来た人間だ。父の代に親族で移住してきた。小さい頃の記憶だが、国が亡くなったので出ていかざるをえない、と言った父の言葉をよく覚えている。


 すげー、全部普通におれの記憶になってるよ。やるな、運命の愛の神。


 おれは感心しながら身なりを整えた。本当に普通にまわりがおれのことを理解し、おれもまわりを理解していた。

 おれはピスタチオン帝国のユニコーン騎士団に所属する若い騎士だ。ペーペーよりましだが、魔法もうまく使えないし、強いわけでもない。秀でるものと言えば、サイコロをふれば必ず3の目がでるぐらいだ。なんとしょうもない特技。


 そしてもちろん、ミッション対象も知っている。ユニコーン騎士団の最年少団長、クロウド・フォン・ヘリベルト。水色の長い髪に銀色の目、色気のあるイケメン。誰にも別け隔てなく優しいし、剣と魔法の腕も一流の好青年だ。

 

 そんな、彼にはやはりというか、恋人の噂がない。浮いた噂のひとつも聞いたことがない。しばし、話の種になる、「団長はアッチだよな」というネタも、実際のところ誰とも付き合っていないのだから判断のしようがなさそうだ。

 これも運命の愛の神の責任とはいえ、かわいそうだな、団長。

 朝食のパンと牛乳をいただき、食堂当番だったおれとラズロは後片付けをする。食堂当番は騎士団朝礼に出なくていいので、のんびり皿を洗ったりテーブルを拭いたりする。


 テーブルを拭きながらおれは考える、どうやって団長に近づくのか。普通にしてても近づく機会が少ないし、位をあげる実力がおれにはない。

「うーん。一生帰れなかったりして」

 そんなわけないかー。いや、あるかも。

 そのとき、食堂の入り口から足音が聞こえた。

「すまない。まだもらえるだろうか?」

 なんとクロウドが姿を見せたのだ。

 おおっと!これがファーストコンタクトか!ミスるなよ、おれ。

「あっ、はい。こちらにどうぞ」

 きれいにした机に案内する。

「ラズロ!パンとミルクを!」

「はーい」

 クロウドは気さくな男だ。騎士団の食堂で食事もみんなと一緒に食べる。今日は何か用事があったのだろうか。おれは手早くスクランブルエッグを作った。

「どうぞ」

 パンとミルクの他、スクランブルエッグとサラダもつけてみた。クロウドは目を丸くした。

「朝から豪華だな」

「特別です」

 おれは照れながら言った。まずは相手に自分の存在を知ってもらわなければ。ただ知っているのと意識で知っているのではわけが違う。

「#贔屓__ひいき__#はよくないな」

 あらら、思った以上にお堅い頭だ。うちのじいさんみたい。

「さっき、鶏小屋の卵を割っちゃったんです。証拠隠滅に付き合ってください」

 おれがしおらしく言うと、クロウドは苦笑した。

「仕方がないな。黙って私の胃に入れればいいんだな」

 おっ、ノリが良い。いい奴じゃん。

「お願いいたします」

 大げさに頭を下げおれはクロウドを見た。もうおれには興味がないのか食事をはじめている。ヤバいな、全然認知されてないなおれ。

「イツキ、ユニコーン舎を掃除に行くよ!」

 ラズロが言った。そうだ、掃除当番もある。

「へーい。では、ごゆっくり」

 声をかけて頭を下げ、おれは食堂を出た。いまのはありかなしかを考える。最初からがっつきすぎてもよくないし、まあ、いい感じだろう。記憶の片隅にでもおれの存在が残ればいい。いつの間にか隣のポジションまで行き、良さげな女をすすめてみよう。


 ユニコーン騎士団は文字通り、馬ではなく額に角がある馬(馬だよな?)ユニコーンに騎乗し戦う騎士団だ。残念ながらおれクラスではペアのユニコーンがいないから、先輩方の荷物持ちが主な仕事だ。

 ペアになるユニコーンは、毎年ユニコーン村に行って探し契約するのだが、向こう次第なのでわりと決まらない。楽しく平和に暮らしているユニコーンに、パートナーとして一緒に戦え、と言うのだ。向こうからしたら、何言うてんねんお断りや、だろうな。

 それでも毎年何組かは決まる。いったいどうやってんだろうね?

 他にグリフィン(頭が鷲で胴体がライオンで翼が生えてる変な生き物)騎士団と、ピスタチオン帝国最強のペガサス騎士団がある。翼があることからどちらもユニコーンより格上の生き物だ。3つの生き物から見てみると、悲しいがうちの騎士団が一番格下なんだろうな。

「よしよし、乙女のニンジンをたくさん食べな」

 ユニコーンの食事は、乙女が育てたニンジンである。ようは処女が育てたニンジンだ。なんとすごいものを食べているのか!

 おれはきっとマッチョなじいさんが作ったニンジンを食べているのだろう。

 ユニコーンの他、ペガサスも同じニンジンらしいが、グリフィンは乙女が捌いた肉ならなんでもいいらしい。 

 獣のくせにおれよりいいモノ食べてるよな。うらやましいことこの上ない。

「水浴びに行くぞ!」

 ユニコーンを移動させ、水辺に連れて行くのも当番の仕事だ。舎の#閂__かんぬき__#を外し、35頭いるユニコーンを庭に放ち、しばらく走らせた後、近場の湖まで連れて行く。

 ユニコーンは賢い生き物なので、閂さえ開ければあとは見ているだけだ。隊列をくずすこともなく、素直に従ってくれる。優等生ばっかりなんだろうな。それか幼稚園児だ。小学生になるとゆう事を聞かなくなり、中学になるとこちらに暴力を振るうようになるんだ。

 そんなことを考えていたからか、おれはユニコーンにどつかれた。

「いって!」

 角で突かれる。ありえなくなーいー?、痛いでしょうが!

「どうした、イツキ?」

「ああ、ユニコーンにどつかれた」

 めっちゃ見てるんですけど、何よもう。

「睨まれてるよ。おれ」

「そんなわけないだろー」

 ラズロが呆れたように言った。

「たまたま身体があたったんだな」

「そうだな」

「でないとおまえ、他の騎士のユニコーンと通じちゃったことになるぞ」

「ははっ、まさか」

 そんなことはまずないが、たまにあるらしい。

 自分が連れてきたユニコーンが他の騎士を気に入ってしまうことがーー。なんて恐ろしいーー、そいつと険悪になるわな。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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