第12話 イツキ、デートに行く
お目をとめていただきありがとうございます。
イツキは団長とユニコーン村に行く事になります。
おれは困っていた。
騎士団内には団長ファンが、思ったより多かったらしく、最近誰に話しかけても無視を食らうんだ。
それもこれも団長とおれが恋人同士だと、驚きの早さで噂が駆け抜けてしまったからだ。
誰だよ、しゃべったヤツ。
「ーーオレはずっと団長が好きだったのに。あんな平凡な目と鼻と口しかない顔のヤツに奪われるなんて」
ヘイルが数人の団員を前に余計な話をしている。
おれの眉毛はハンサムなのか?はじめて知ったぞ。
「おい!ヘイル!おれはいつでも譲ってやる!って言ったよな!?そのおれに対してひどくないか?」
「はん!譲るだと?団長はいつからおまえのモノになったんだ!」
「最近だよ」
「うるさい!オレは絶対に団長をおまえから奪ってやるからな!」
「がんばってくれ!」
「何だ!余裕ぶりやがって!」
正直な話、おれは団長がヘイルとくっついて恋愛に目覚めれば何でもいい。とっとと家に帰ってハムスターのタイチ君の世話がしたいからな。
だが、あれは手強い。クラス1のツンデレ女王ありさちゃんともタイプが違う。ありさちゃんはおれの事をゴキブリでも見るような目で見ていたが、イケメンのコウジロウー君の前ではツンツンしながらも可愛かった。
団長はああいう感じでもない。好きなひとがいないしわからないんだから、全方位態度が変わらないんだろう。
やはり、初期設定はとても大切だ。きっと団長のパラメーターの恋愛感情は、人を陥れてもなんとも思わない、卑劣様の方に振り分けられたんだ。
「イツキ」
「卑劣様、じゃなかった団長。何か用ですか?」
卑劣様?団長が首を傾げた。あんたの事だよ。
「イツキ、デートに行くぞ」
「またまた冗談言って。どうせユニコーン村にでも連れて行くんでしょ?」
団長は黙った。図星かよ、こんちくしょう。
「おれ連れてってデネブが他のユニコーンと殴り合いになりませんか?」
おれはユニコーン界隈じゃ、きっとクラスナンバーワンの美少女だぜ。
「ユニコーンは殴り合いをしない。角を叩き合う」
「へー。実験ですかー。飯奢ってくださいよ」
「わかった」
殺意のこもった目で睨んでくるヘイルを横目で見ながら、おれは団長と出かける準備をした。
「ユニコーンに乗ったことは?」
「乗られたことしかありません」
「それは、稀有な人間だな」
うるせーわ。あんたがズボラだからこんな事になってんだろ。
「団長、シャツ昨日と一緒でしょ?」
おれは団長が昨日と同じジャボシャツなのに気づいた。紅茶のシミができてねえか?
「ーーああ、洗濯をためてしまっていて」
「嫌じゃなかったら、帰ったら洗いますよ」
団長は目を丸くした。
「いいのか?」
「ええ、恋人なんで」
おれがそう言うと、団長は楽しそうに吹き出した。
ぐふふっ、世話を焼かれるのが好きなタイプかーー。これはおれ、よく気づいた。これも相手をじっくり観察するおれの凝視眼の賜物だな。
まあ、たいがいは「顔も好みじゃないし見られてるのがキモい」、で終わるんだが。
おれだって盗み見てるつもりなんだが、女性は視線に気づくのがすげえ早いのよ。胸なんか見るつもりなくても、視線がいけば変態扱いされるしさ。
まあ、見たいのは事実よ。うん。
そのおれの気持ち悪さが、対男だといい風に転がるのか、勉強になるわ。
「手をイツキ」
手を一気に引き、団長はおれをユニコーンのデネブの上に乗せた。
ただ、
「イツキ、反対だな」
団長と向かい合って座ってしまった。あら美形とお見合いなんて恥ずかしいわよ。
「ちょっと、動かないでくださいよ」
おれはゆっくりと前を向こうとする。そのおれの腰を団長はつかんだ。
「ぎゃあ!どこ触ってんですか!団長のエッチィ!」
「腰だ。早く前を向け」
「高いとこ怖いんですよー」
この高さで?団長の顔にそう書いてある。
最後まで読んでいただきありがとうございました。