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2話 白のモフモフと白髪美幼女

 カサカサと木の葉がこすれる音とよく分からない鳥のさえずりが聞こえる。目を開けるとそこは暗い森の中だった。今はまだ日が昇っている時間なのか木々の間から木漏れ日が漏れてきている。


「ここは……?」


 俺は手で目をこすりながら起き上がり、周囲を見回す。どうやら森の中にいるようだった。

 どういうことなんだこれは。意味がわからない。俺は先ほどまで自分の部屋で女神を名乗る金髪美少女と話をしていたはず……。いや、ひょっとしたら、寝不足で幻覚を見ていたのかもしれない。そう思い、頬をつねると痛みがあった。くそ、夢じゃなかったか。


 それにしてもあの女神はいったいどこに行ったんだ? イケメンとくっつけというだけ言ってチュートリアルもなしに異世界に放り込んだのか? 自分勝手すぎやしないか?


「おーい!女神様ー! 俺はこれからどうすればいいんだー!」


 自称女神を大声で呼んだが、俺の声は森に響くだけで何も返ってこなかった。

 草むらの中からガサゴソと音が聞こえた。

 あ、ヤバイ。こんな森の中で危険生物に殺される可能性があるのに大声を出したら駄目じゃないか。

 俺はいつでも逃げられるように後ずさる。しかし草むらから出てきたのは一匹の大きな耳の可愛らしい白い生き物であった。


「キュ・キュ・キューイ♪キュ・キュ・キューイ♪」


 その生き物はフェネックのような大きな耳とペンギンのようなずんぐりむっくりとした短い手足、体に対して非常に大きなふさふさの尻尾。全身が白いふわふわの体毛で覆われた体長15~20cmほどの生き物が二足歩行でご機嫌に歌を歌いながら木の棒をブンブンと振り回しながらぽてぽてとペンギンのように歩いていた。


「え、可愛い。」


 俺がしゃがんで白い生き物の様子を見ていると、その白い生き物が俺の視線に気付いたのかはっとしたようにこちらを振り向く。


「あ。」

「キュキューイ?」


 首を傾げ木の枝と大きな尻尾をブンブン振りながらこちらにてくてくと近づいてくる。可愛い。思わずその白い生き物を触るために手を伸ばしてしまう。


「キューイ!」


 しかし、その白い生き物は俺の手を無視して俺の顔面に飛びついてきた。木の枝が顔の側面に当たって痛い。耳には当たらなかった。


「ふべっ!?」


 俺は白い生き物が飛びついてきた衝撃で後ろに倒れこむ。草が生い茂っていたので痛みはない。

 顔に肉球の感触があたる。ぷにぷにしていて心地がいい。なんかフルーツのいい匂いがする。ずっとこのまま触っててくれないかな。

 俺がほわほわと白い生き物に触られている感触を堪能していると、頭の上から声が聞こえてくる。


「シャッチョ何してんの……?」


 その声は幼い子供の声だった。なんか変なにおいがする。これなんの匂いだ……?牛乳を吹いた使用済みのぞうきんを洗わずに1週間放置したような匂いがする……。

 白い生き物は幼い子供の声を聞くと「キュキューイ!」と元気な声を出して返事をした。耳元で鳴くから可愛いけどちょっとうるさい。


「ふーん、そうなんだ。」


 白い生き物が顔からどいてくれたので、子どもの顔が見れるようになった。


 その子供は4,5歳ほどの肩まで伸びたさらさらとしたストレートの白髪碧眼の美少女……。いや、美幼女であった。服装は子供が着るような半袖シャツと短パンという動きやすそうな服だった。Tシャツのデザインが『焼き鳥に飢えた女』って書道で書くような書体で書かれていた。コイツの服のセンスどうなってんの?


 美幼女はしゃがみながら俺の顔をじっと観察している。見れば見るほど可愛いな。将来はきっと美人になるだろうな。


「……。」

「……。」


 お互い、何もしゃべらずに沈黙が続く。白い生き物はキュイキュイと楽しそうに俺の髪の毛を引っ張って遊んでいる。痛いからやめて?


「あの、何の御用でしょうか……?」


 俺は沈黙に耐えきれず、美幼女に問う。しかし、美幼女は俺の質問に答えず、無言で俺の鼻を摘まんできた。


「ふが!?」

「キュイ!?」


 俺は急に鼻を摘ままれたことに驚く。指の力がかなり強い。鼻が折れそうだ。

 美幼女は鼻を摘まみながら俺の目をじーっと見つめてくる。白い生き物は美幼女に対し、「何をしているの!?」と言わんばかりに短いお手々をパタパタブンブンと動かしてやめさせようとしてくる。


「息が出来なくなるからやめて!」


 俺が思わず起き上がると、美幼女は糸のような細長い何かを持っていた。何だろうと思い、目を凝らして細長い何かを目で追うと、そこには大きな人型の昆虫がうつ伏せで倒れていた。


「うぎゃああああ!!?」


 俺は思わず叫び声をあげ、腰を抜かす。白い生き物は大きい音にびっくりしたのかびくっと体を震わせたが、美幼女は表情一つ動かさない。何だコイツうるさいなあと言わんばかりの冷たい目で俺を見ていた。


「お、おお、お前それ……!」


 俺は大きな人型の昆虫を指さすと美幼女はようやく反応する。


「今日のご飯。」

「キ“ュ”イ“ー!!」


 美幼女が触角を持ち上げ、人型昆虫の顔を俺に見せるようにして言う。思いっきりゴキブリの顔だった。

 白い生き物は「絶対やだ!」と言わんばかりに物凄く嫌そうな表情、全力で嫌そうな鳴き声で小さい子どもが駄々をこねるように短い手足をジタバタと動かし全力で拒否していた。

 よく見ると昆虫がぴくぴくと動いている。それまだ生きてるじゃねえか!

 牛乳を吹いた使用済みのぞうきんを洗わずに1週間放置したような匂いが鼻に強くついた。どうやら人型昆虫から匂ってきていたらしい。

 え、マジでこの臭いのを食べようとしてんのコイツ!?


「タスケテ……タスケテ……。」


 昆虫からか細い助けを求める声が聞こえてくる。コイツ喋れんの!? え!? 美幼女は本当にこれ食おうとしてるの!?


「お、お前……本当にその……食べるの……?」

「うん。」


 美幼女は無表情で躊躇なく頷く。

 白い生き物は「ギュ“イ”イ“ギュ”イ“ー”!!」と全力で食べたくないと言わんばかりに首を横に振っていた。俺もこれを食べたくない。臭い上に人の言葉を発する人型の昆虫を食おうとするコイツの神経が全く理解できない。そんなにこの世界は食べるものがないのか?  あのクソ女神め! どんなやべー世界に送り込みやがったんだ!


「ギュ”―“イ“!」

「え?いやだってこれぐらいの大きさじゃないと食べ応えが……」

「ギュ”イ“ー!!」

「えー……。」


 美幼女には白い生き物に全力で拒否されて、萎えてしまったようだ。何この子、人型の昆虫食べることに抵抗感じないの? 怖いんだけど。


「おいクズ、何してんだ。」


 俺の後ろから呆れるような陰気な青年の声が聞こえてきたので、その方向に振り替えるとそこには2.5mほどのロボットアニメで主人公のライバルとして出てくるような毒々しい黒紫色の人型ロボットが空中に浮かんでいた。

に浮かんでいた。

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