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「てるてる坊主の由来を知っているかい?」

作者: まあさ

 「てるてる坊主の由来を知っているかい?」


 なんだこれ。どうしてだろう?雨戸に吊るしてある、油性のマジックでダンディなお髭を貯えたてるてる坊主がいきなり喋り始めた。顔を描いてしまったのが原因なのかな?へのへのもへじに、くるんと巻いたお髭をつけたマヌケな顔を。


 ごめんなさい。挨拶が遅れました。私はハレと言います。小学5年生、11歳。一般的な家庭に産まれて、地域の公立小学校に通う、どこにでもいる普通の子供です。そんな私になんだかおかしなことが起こっています。


 「……え、なんで喋ってるの?」


 当然の疑問です。この状況で当然の疑問を口にできる自分に拍手を送りたいです。


 「なんでって、君が顔を描いてくれたから。喋るためのお口があるからさ」


 「口、動いてないじゃん」


 「そんなことは些細な問題さ。口があることが重要なんだよ。やっぱり子供は繊細だなぁ」


 なんだか口調がむかつきます。そして顔もむかつきます。特にあの髭!描かなきゃ良かったです。



 「それで君はてるてる坊主の由来を知っているのかい?」


 「……知らない」


 「それはいけない。習慣となっていることでも理由や由来を知っているのと知らないのとでは大きく違う。また時間がある時にググるといい」


 「教えてはくれないんだ?あと何で今っぽい言葉知ってんの?」


 「自分で調べるのは大事なことだよ」


 2つ目の質問は無視されました。本当にむかつきます。


 「君はなんで僕を創ったんだい?」


 「てるてる坊主を作る理由なんて、明日晴れて欲しいからに決まってるじゃない」


 「確かにそれはそうだ。明日何かあるのかい?」


 「……運動会」


 「おお!運動会か!それはいい。運動会の日に晴れて欲しいからてるてる坊主を創る。いやぁ実に子供らしくて素晴らしい!これは僕も頑張らないといけないね。ただまあ、少し難しそうなのだが」


 てるてる坊主は少し自信なさげに話しています。それもそのはず。窓の外は豪雨になっているからです。


 雨がザァザァ降っています。

 風がビュウビュウ吹いています。

 雷がゴロゴロ鳴いています。



 「……別にいいよ。晴れなくても。てるてる坊主を作って飾っておくことが目的だもん」


 「おや?そうなのかい。それは気が楽になってきたぞう。しかし不思議だね。僕を創ったのに晴れなくてもいいのかい?」


 「だって……明日晴れたってお母さんは来てくれないし」


 「……ああ、理解した。つまり君はあれだね。お母さんを困らせたいんだ。お母さんがこの僕をみたら、君が本当は運動会を楽しみにしているということに気づいてくれると思ったんだね。しかしお母さんは運動会には行けないからとても困ってしまうね。うん、いい作戦だ」


 とても子供的だ。と、てるてる坊主は語ってきます。あの顔にはホントにムカついたので、私は新しいてるてる坊主を作り始めます。今度はイケメンに描いちゃおっと。


 「しかし、運動会というものは雨になると延期になったりしないのかい?延期になればお母さんの都合がつくかもしれないよ」


 「だからいいんだって。お母さんに、別に運動会来なくていいよって伝えたら凄くホッとしてたから。お母さんは来たくないんだよ」


 よし、完成。新しいてるてる坊主が出来上がりました。お目々はパッチリ、鼻筋は通って、爽やかな笑顔のイケメンてるてる坊主。早速、雨戸に吊るしてみます。


 「いやぁしかし『やあ創ってくれてありがとう!』そうは言って『君はどうして僕を創ってくれたのかな?』ええいうるさい!なんだコイツは!」


 なんと!イケメンてるてる坊主も喋り始めました。私には何か不思議な能力があるのでしょうか?しかし、それにしても2人にいっぺんに喋られるのはウザさが2倍になるだけなので、やっぱりイケメンてるてる坊主には退場してもらいます。


 『え!うそ!産まれたばかりなのに!』


 イケメンてるてる坊主を吊るされた雨戸から降ろします。雨戸に吊るされていないと喋れないみたいです。


 「浮気はよしてくれたまえよ。ふう。いや、話を戻そう。それにしてもやっぱり子供は、敏感で、繊細で、強い生き物だね」


 「大人じゃなくて子供が?」


 「もちろん。君たちは物事をあるがままに受け止めようとする。微かな違和感に気づくことができる。それは強さだ。大人は逆だよ。何十年も人生を歩んできた中で、その強さを持っていてはこの世界でやっていけないことに気づく。だから鈍感に、大雑把になってしまうんだね。それは弱さだよ。大人は弱いものなんだ」


 「……おじさんも弱いの?」


 「誰がおじさんか!私は生後1時間のピチピチの赤ん坊だぞ!」


 「えぇ〜」


 このてるてる坊主、見た目はお髭を貯えてるくせに、まだ赤ん坊だと言い張ります。


 「とにかく、だ。そんな弱くて大雑把で鈍感な大人がこの僕に、君の精一杯の嫌がらせに気づいてくれるのかな。もし気づいてくれても、見てみぬふりをせずに向き合ってくれる強さがあるのだろうか?」


 「…………」


 「君は本当はどうしたいんだい?お母さんを困らせたい?お母さんにごめんねと謝って欲しい?……それともお母さんに見にきて欲しい?」


 「それ全部同じ意味。お母さんに見にきて欲しいけど、それを伝えたらお母さんは困るし謝ってくる。だからあなたを作ったんでしょ」


 「そうだね。君は聡明だから、お母さんを困らせる()()の僕を創ったんだ。つまり僕を創ったところで何も変わらないのを知っていた。君が我慢すれば何事もなく終わる。お母さんがちょっと困るだけで終わってしまう。でもね……それは私の好みの展開とは少し違うなぁ」


 別にてるてる坊主の好みなんて聞いてはいません。私の心を覗いてくるおじさんにむかつきます。


 「あなたの好みは聞いてない。お母さんも帰ってくる時間だし、そろそろ黙って欲しいんだけど」


 「君は子供だけど大人びている。だから少し鈍感になってしまっているのかな。君は、お母さんに来なくていいと伝えたらホッとしていたと言っていたけれど、それは本当なのかい?」


 「……ホントだけど」


 「やはり君には見えていなかった。僕には見えている。だって目が合ってるから。いや向こうに目は描かれていないから、厳密には違うんだけど」


 「何を……」


 「台所を見るといい」


 てるてる坊主に促されて、私は後ろを振り向きます。いつもお母さんが晩御飯を作ってくれる台所の方を向きます。そこには……


 「……ふれふれ坊主?」


 てるてる坊主が逆さまに吊るされてました。急いで作ったからか、形は崩れてるし顔も描かれてません。私はあんなものを作った覚えはありません。


 「誰が創ったのかは明白だろう。明日の雨を願う人がいたんだよ。明日雨になったら運動会が延期になるかもしれないから。延期になったら都合がつくかもしれないから」


 「……お母さん」


 「大人はね、弱い生き物なんだ。でもきっと、子供の前では強くありたいと願っているんだろう。じゃあ、君がすべき行動はわかっているね」


 ……ホントにこのてるてる坊主はむかつきます。なんだか決め台詞みたいにこちらに語りかけてきます。すごくムカついたので、()()()()にしてやります。


 「ああ、今回はこっちの方がやる気がでる。簡単な仕事だ」


 雨がザァザァ降っています。

 風がビュウビュウ吹いています。

 雷がゴロゴロ鳴いています。


 そこへ玄関のドアを開ける音がしました。てるてる坊主はもう喋りません。私は玄関へ走って行きます。私は、玄関で体を拭いているお母さんに向かって


 「おかえり!」


 


 


 


 

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