第七十話 銃と呼ぶ勇気
第七十話 銃と呼ぶ勇気
週末。両親が買い物に出かけている時。
我が家に大量の銃火器が運び込まれた。
内訳はショットガン、大型拳銃、手榴弾、対物ライフル。エトセトラエトセトラ……。
いやもう、こうなると『どこのテロ組織だ』と言いたくなるが、逆に政府からするとテロ組織以外何者でもないのでは……?という気がしないでもない。
あれだ。政治的思想とか、小難しい事はなくただ戦力を求めているだけだから、辛うじてテロ組織ではないと言えるかもしれない。
……ん?それ余計にヤバい連中では?
「いやぁ……壮観だね!!」
人工異界でそれらを眺めながら、めっちゃいい笑顔を浮かべる梓さん。
やっぱ如月一族ってヤベェ奴らなのでは?
「胸が熱くなるなぁ!!」
珍しく鍋から出ている巴君も、無駄にいい笑顔を浮かべていた。
こっちはヤベェ奴というか馬鹿な奴である。
うん、もういいや。僕も馬鹿になろう!
「武器庫ってテンション上がるよね!!」
だって映画の中でぐらいしか見ないし!こんな銃火器をずらっと並べている光景。
ヴァイオレットさんの用意してくれたこれらの武器弾薬。銃の国アメリカでも民間ではまず手に入らない様な物まで、あの人は数日で揃えてくれたのである。
これでゴーレム兵の戦力化も、かなり近づいたはずだ。戦争でもするのかという武装の数々だが、これでもまだ少し不安なぐらいである。
……戦力って意味ならヴァイオレットさん個人に『傭兵になって』と言うのが一番なのだが、前に聞いてみたら普通に断られたからなぁ。
『私はしがない店長ですので~、荒事なんてとてもとても~!あ、でも凄く面白そうって思ったら、参戦するかも?国がひっくり返るぐらいのイベントとか!』
との事。
何が恐いって、『どっちに参戦する』かを聞いても答えてくれなかったんだよなぁ……。魔物側か、人間側か。
あの人……人じゃないけど、ヴァイオレットさんを敵に回すのは勘弁である。勝てる気がしない以前に、逃げる事すらできないのではないか。
そんな不安を無視して、人工異界の地面を操作して敷いた石畳の上に並んだ、木箱に詰められた武器弾薬に視線を戻す。
「それにしても、こんな武器ダンジョンで使えるんですか……?」
そう言って、恐る恐るショットガンを手に取ってみる。
当然弾は入っていないはずだが、念のため前にネットで見た動きを真似して薬室を確認。弾丸が装填されていない事に、内心で胸を撫でおろす。
「使えるか使えないかで言ったら、有効な武器として使えると思うよ。ただし、使い方は考えないといけないけど」
隣で、梓さんが大型拳銃を手に取って誰もいない方向に構えている。何か確認している様で、その動きは驚くほど自然かつ様になっていた。
素人の自分から見ても、普段から銃に慣れているのだとわかる。あの、ここ日本ですよ?
「何も考えずに、タレットみたいな感覚でゴーレムを配置したら同士討ちのリスクも高まるね。頑丈に作ってあるけど、マグナム弾を至近距離で受けたらタダじゃ済まないだろうし」
「前回、見事に1機破壊されましたからね……」
「アレは角度が100回に1回ぐらいの確率で良い具合に……いや悪い具合に?相手の攻撃が当たった結果だけどね。それでも、実戦では1%も99%も、直撃には変わらないけど」
「ですね」
単純に数字で勝つ方が決まるというのなら、それこそバロンとの戦いは自分達の方が不利であった。恐らく、6対4ぐらいだったと思う。
しかし、勝ったのは自分達だ。それが結果であり、殺し合いである。
奇跡の様な勝利であったが、次にその奇跡を起こすのは敵かもしれない。そう考えると、身が引き締まる思いである。
「だからこそ。どんな相手と遭遇しても、少しでも勝てる可能性がある様に備えないとね!」
そう言って拳銃をケースに戻し、梓さんがニコリと笑う。それに、自分も大きく頷いた。
「あ、難しい話終わった?じゃあ試射会といこうぜ!!」
能天気な声に視線を向ければ、ロケットランチャー担いだ馬鹿がいた。
「……マジでやんの?」
「あったりまえだるぅぅぅぅぉおう!?不良品掴まされていないかとか、使い方を正しく把握できているかの為にも、確認は大事!!古事記にもそう書いてある」
「本音は?」
「オレもドカンドカン撃ちたい!!」
「素直でよろしい」
正直気持ちはわかる。でも初手からロケランはやめろ。危ないから。マジで。
「取りあえずソレは置きなさい」
「なんだよー、つまんねーのー」
唇を尖らせながらロケランを置く魔女。うん、字面にすると意味が分からない。
そんな事を考えていると、梓さんが未だ封をしていた木箱をバールの様な物で開けた。
「あ、これだこれだ」
「ん?何か探していたの?」
「うん」
そう言って彼女が開けた箱を覗き見て、頬を引き攣らせる。
「あの……これは?」
端的に言って、『砲』と呼ぶべき物体が馬鹿でかい木箱の中で寝かされていた。
通常人が携帯する物とは違う、軍艦や戦闘機にでもくっつけていそうな大きさである。だというのに、どういうわけかグリップと吊り紐が備え付けられていた。
いや、わからない。自分が無知なだけで、携行武器ではないが運搬の為にストラップがついている可能性もある。それにグリップだって、別に銃座に設置してから使うのならおかしな事は……。
「対魔物戦闘用ライフル、『雷獅子』!装弾方法はボルトアクション式の単発で、ちょっと不便。でも威力は折り紙付きの、ヴァイオレットさん特製の銃らしいよ!!」
「これを銃と呼ぶ勇気」
「口径は40ミリ。ヴァイオレットさんはコレの名前を『モーニングコール』にするか、かなり迷ったんだって!」
「寝起きバズーカちゃうねんぞ」
そっと、巴君がこちらの脇からライフル……ライフルと言い張る何かを見下ろす。
「……ヴァイオレットさんって、偶に凄い馬鹿になるよな」
「否定はしないけど、本人の前では言うなよ……」
あの人、もしかして凄く暇なのではないだろうか。
よく考えたらあの店も道楽でやっている雰囲気があるし。
「というか、雷獅子って」
「そう、お察しの通りエクレール殿の専用武装さ!」
ぐっ、と親指を立ててくる梓さん。いや、何となく察してはいたけども。
「『獅子』とつけた理由は?」
「最近元気になってきた炎獅子様の思い付き」
「あ、はい」
もうツッコミに疲れたので、スルーした。特に名前繫がりで魔術とか仕込まれていないっぽいし。
「エクレール」
何はともあれ、専用装備だと言うのなら本人に確かめてもらおう。
そう思い守護騎士を顕現させ、ライフルを指差した。
「このライフル……便宜上ライフルなんだけど、使ってみますか?」
そう問いかければ、エクレールは数秒ほど間を置いてから頷き、ライフルを持ち上げた。
だが、腕に抱えた状態で止まってしまう。何となく、困惑している様に見えた。
とんちき過ぎる銃だから、と言うより、『銃』そのものに戸惑っている気がする。
「えっと、持ち方はこういう感じに」
そう言いながら、近くにあった普通のライフルを構えてみせる。
こちらの動きに倣う様にエクレールも銃を構えた。どうやら、そもそもどう使えばいいのかわかっていなかったらしい。
「あー、銃って言うのは……そうだ。前に見せた絵本で、狐を撃ったやつ!」
「お前それでいいのか?その教え方だと撃っちゃいけない奴撃たないか?」
うるせー他の絵本だと銃の描写自体なかったんだよ、うちにあるのだと。
巴君を軽く睨むと、反対側から梓さんに肩を叩かれた。
「幸太朗君、持ち方がちょっと違う。貸してもらっていい?」
「あ、はい」
彼女にライフルを渡すと、堂に入った構えを見せてくれた。
何度でも言う。やはり如月一族ってヤベェ奴らなのでは?頼もしくはあるけど。
それはさておき、エクレールである。騎士は梓さんの姿勢をジッと観察した後に、寸分たがわず同じ構えをした。
しかし、体格も銃も違う事から、少しずつ自分で姿勢を変えていっている。
「……やだ、かっこいい」
「突然どうした」
長さ2メートル越えの他称ライフルを構える騎士の姿に、ちょっとトキメク。
「なんだろう。フルプレートアーマーと、武骨な現代銃の組み合わせって無性に胸が高鳴らない?なれ」
「お、おう。せやな」
若干ひく巴君。なんだよ自分は武器に格好良さをやたら求めるくせに。
まあいい。エクレールが格好いいのは今に始まった事ではないのである。僕の騎士は常にかっちょいい……!!
「よし、的を用意しよう的!試し撃ちは大事だから!!」
「お前いつの間にかノリノリになってんな」
そう言いつつも、巴君が木箱の中から人間大の的を取り出してくれた。
「で、これどの辺に置くよ」
「そうだなー。最初だし、300メートルぐらいでやってみたら?」
「え、遠くない?」
「狙撃銃としてはそんなでもないよ」
「へえ……なら、それぐらいで」
この場で一番詳しいのは梓さんだし、それがいいのかと頷いた。
巴君から木で出来た的を受け取り、地面に置く。
「ちょっと離れていてね」
そう言って、地面に魔力を流し込んだ。
ずるり、と的が乗っている箇所から一直線に土を動かすイメージ。すると、まるで動く歩道の様に地面の一部がスライドし始めた。
「おお、そんな事できんのか」
「自分の異界だからねー」
畑作ったり井戸を作ったりしているうちに、自然と身に付いたのである。
今やこの異界も、御神木で最初に拡張した時の3倍ほどになっていた。新しく野菜も植えたし、鳥小屋もあるのでこれぐらいは出来ないとやっていられない。
「あの辺かな」
「そうだね。たぶん300メートルだと思う」
梓さんの頷きを確認してから、エクレールに振り返る。
「じゃあエクレール。これがその銃の弾です。装填方法は……どう説明しよう」
「今右手で握っている箇所の上に、右側へ出ている突起があるからそれを上に捻って、手前に引いてみて」
横から梓さんがそう言えば、エクレールはゆっくりとボルトハンドルを摘まんでスライドさせた。
「そうして開いた所に弾を入れて……そうそう。で、さっきと逆に動かす。それで装填完了だよ」
エクレールが頷き、銃を構えなおした。
狙う先は当然、先ほど移動させた木製の的。騎士はかなりの重量であろうライフルを立ったまま構え、微動だにしない。
そんなエクレールから数歩離れた位置で、右手を振り下ろす。
「撃て!」
────ガォォンッ!!!
瞬間、凄まじい轟音がした。思わず肩を跳ねさせ、耳を押さえる。
色々と頑丈になった身体なので鼓膜が破れる事はないが、それでも凄く驚いた。
僅かに硝煙をあげる銃口を見た後、的の方に視線を向ける。そこには───。
「……外れたな」
「だねー」
巴君と梓さんが言う通り、300メートル先にある的は健在である。
あの大口径ともなれば、かすっただけでも砕けるはずだ。となれば、すぐ近くを通り過ぎたわけでもないらしい。
一応的をこっちに移動させて確認するが、やはり無傷である。
なら弾は……たぶん、異界の端にある壁に当たったな。異界内に魔力を意識して広げると、何となく位置がわかる。
「エクレール」
そっと、騎士の胸甲に触れた。
「やはり、貴方は天才だ……!!」
「なんでだよ」
巴君の言葉に、指を横に振る。
「ちっ、ちっ、ちっ。わかっていないな、君は」
「うっぜ」
「まあまあ」
軽く目を血走らせて来る巴君を、梓さんが宥める。
「いいかい。本来ライフルは立って撃たない。座ってか、寝転がるものなんだよ」
「まあ、時と場合によるけど」
「今回エクレールは立って撃った。それでも、ちゃんと真っすぐ飛ばせたんだ」
「いや、反動に耐えられるなら誰でも真っすぐは飛ぶと思うよ?」
「故に、エクレールは天才なんだよ!!」
「うーん、見た感じセンス自体はあんまり?姿勢は良かったけど、自分で射撃体勢を調整しようとして失敗し───」
「梓さん」
「うん」
「ちょっと待ってて」
「わかった!」
梓さんが笑顔で頷いてくれたので、巴君に向き直る。
「故に、エクレールは天才なんだよ!!」
「お前が天才的に馬鹿なのはわかった」
馬鹿に馬鹿って言われた!!??
今世紀最大級の侮辱に打ちひしがれ、エクレールに縋りつく。
「ぐすっ……!巴君が虐める……!!」
「現実を見ろ馬鹿太朗。いやほんとマジで」
嫌だい嫌だい。僕は今後もエクレールに格好いい射撃シーンを見せてほしいんだい。褒めて伸ばすスタイルなんだい。
鎧で覆われた掌が頭をポンポンと撫でてくれる。やだ、イケメン……。
「なあ梓さん。アレはどうすりゃいいんだ」
「放置でいいと思うよ!偶には幸太朗君も弾けといた方がいいと思うから!」
「そっすか」
ひんやりとした甲冑が今は温かい。
エクレールはイケメン騎士で天才。ハッキリわかんだね。
なお、それはそれとして梓さんから射撃の修正点を聞いた。思ったより駄目だしが多くて横で聞いている自分が泣きそうになったが、納得しかなかったので為にはなったと思う。
あの銃を使うタイミングが、あるかは別として。
……いや、マジで実戦で使う機会なくない?
聞けば梓さんが『せっかくだから』と注文してくれた物らしいが、これをダンジョンで使おうとは思えなかった。絶対に邪魔になる。
かと言って、普段持ち歩く事もできない。巴君のバッグも更に沢山入る物に買い替えたので、入れてもらうとして……ぶっちゃけ、エクレールの場合剣を振るった方が強い気がする。
もしかしたら、銃の購入で一番テンションが上がっていたのは梓さんだったのかもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
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