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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第一章 天使が降臨した日
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第四話 天使の警告

第四話 天使の警告




 夜、本当に天使の記者会見とやらが始まった。


 と言っても、リアルタイムでは見ていない。


 両親に『ネットで魔物とか天使に詳しい人ほど不幸に見舞われるって書いてあった』と伝えたのである。


 勿論というか、なんというか。普通に疑われた。


 しかしどうにかこうにか誤魔化して、普通のワイドナショーにチャンネルを変える事に成功。2人がそれほどミーハーでなくて本当によかった。


 そんなわけで、自室でこっそりイヤホンをつけてスマホでアップされた天使の動画を見ることに。


 はたして、今度はどんなとんでも情報が出てきた事やら……。



*     *     *



『えーどうもどうも。よくぞ集まってくださいましたー』


 眠そうな目でそう言うのは、例の国会議事堂に現れた天使。


 天使はどこからともなく取り出した白い台の上に乗ると、華奢な右手で『パチン』と指を鳴らす。


 そうすると、周囲にいた警察官や黒いスーツの人達が消えた。ざわつきが起きるも、カメラの端にさっきまで記者たちの近くにいたはずの彼らがいる事に気づく。


 テレポーテーション……だろうか。何にせよファンタジーだな。今更かもしれないけど。


『たぶんここからする話は公務員の皆さんに止められると思うのでー、ちょっとどいてもらいましたー。あの人達もお仕事だってわかっているんですけどー。こっちも仕事……いやボランティアなんですけどねー……はぁ』


 最後の方だけ目を逸らしながらため息をつく天使。


 なんだか妙に人間臭いというか、哀愁漂う仕草だった。


『とりあえずー……今日集まっていただいたのは、思ったより国の動きが遅かったのでもう少ぉしテコ入れが必要かなって。まずは新しく異能者に覚醒した人達に配ったアプリをアプデしたんで、その連絡をー』


 え、マジか。後で確認しよ。


『他は……あー。異能者を覚醒させまくった理由かな?』


 ボリボリと天使が頭を掻く。柔らかそうな長髪がゆさゆさと揺れた。


『最初に言ったけど、自衛の為ですよー。今回覚醒させた人達は、それこそ()()()()()()()()()や魔物と直接遭遇したら勝手に目覚めていたぐらいの才能があったんでー』


 ……なる、ほど。


 確かに言われてみれば、コボルトに突然遭遇した時なんの前情報もなければもっと混乱していただろう。


 自分の時はエクレールがいたが、それがない人だった場合……。


『ただまあ、異能者になると狙われやすくなるんですけどー』


『なっ、それはどういう事ですか!?』


 記者の1人が声を荒げて天使にマイクを向ける。


 それに対し、天使はそのジト目を気だるそうに彼へ向けた。


『ああ、もう質問してもらった方が楽かな。じゃ、どうぞ』


『……狙われやすくなるのに、何故異能者とやらに人々をしたのですか?』


『さっきも言ったけど、自衛の為でーす』


『逆効果じゃないですか!』


『前に言ったでしょ。これから魔物が人界にたくさんくるって』


 記者の言葉に、天使は華奢な肩を軽くすくめた。


『人界に今いる霊能関係者じゃ対応できない数と質が、人界に攻め込んでくる。その前に貴方達は強くならなければならない。その為の道具と、道と、種火を与えた。まだ足りない。でも、そうでなければ生き残れない』


 そのジト目は、一切揺るがない。



『───我々は貴方達の生存を望む。故に、足掻きなさい』



『っ……助けては、くれないのですか』


『助けるよ。助けたよ。でも、手助けをするだけ。1から10までやってあげるのは、助けるって言わなくない?』


 飽きたかのように、天使はクルクルとした毛先を弄び始めた。


『勿論、1から10どころか、100まで貴方達のお世話したいって天使たちはいますよ。でも、主流派じゃない。逆に徹底的に管理すべきって天使もいるけど、そっちも、主流派じゃない。今は』


『今はって……』


『人間基準で大昔の頃は、結構過激な思想の天使もいたんですよねー。ある程度落ち着いて、今に至るってだけ。その辺りは同じですね。人間と天使って』


 再び軽く肩をすくめた後に、天使は別の記者へと視線を移した。


『1人だけ話してばっかじゃ、不公平ですねー。次の人、質問どうぞ』


『で、では。貴方達天使がここに来た理由をお聞かせ願いたい。人間の味方をする為、という事でいいのでしょうか』


『概ねそうですね。でも、価値観がだいぶ違うから明言もできないけど。なんなら天使同士でも意見や思想のズレがあるぐらいだし』


『と、言いますと……』


『例えばアメリカに降り立った天使。あの子は貴方達人間の事が大大だぁい好き。天界の法律に従っているから過剰な接触はしないだけで、ホントは1から100までお世話したいって思ってる』


『な、なるほど。では、貴方は?』


『ボクは上司にボランティア活動に参加しろって言われたから』


『じょ、上司?ボランティア?』


 ざわつく記者たちに、天使はなんて事ないと言った様子で頷く。


『そ。人間の会社とか市役所でもあるんじゃない。休日にあのイベントに参加しろ、このボランティア団体を手伝ってこいって言われる事。ボクの場合、今回がそれなのさー……はぁ』


 再び疲れた様なため息を吐く天使。口調も『ですます調』が所々崩れ、全身で『めんどくせー』と表している。


『そ、そうですか……。あの、まさか上司というのは、神様だったり……?』


『そうとも言えるし、そうとも言えない。少なくとも人間が持っている聖書に載っている神様じゃないよ。そして、ボクらも聖書に出てくる天使じゃない。モデルの一環にはなっているかもしれないけどね』


『それはどういう事でしょうか!?』


『宗教の話題は面倒だからパス。次の人ー』


『ちょ、待ってください!質問に答えてくださいよ!そんな態度が』


 パチリ、と。天使が指を鳴らす。そうすると最初と同じように、その記者はお巡りさん達のいる所に飛ばされた。


 そちらの方にカメラが向くと、見えない壁でも叩いている様なお巡りさん達が見える。パントマイムの様に思えるそれらは、まさか本当に結界的なものを壊そうとしているのではないだろうか。


 ……さっきの転移といい、これといい。この天使、とんでもないぞ。


 社会的な価値観としてではなく、『異能者』として血の気が引く光景だった。


 異能に目覚めてまだ二日目。それでも、感覚的にわかる事もある。それゆえに、この天使が凄まじい力を持っている事がわかった。


 それこそ、やろうと思えば一晩のうちに街を……いいや、下手したら国を……。


『ボクは自分の身が危険な時以外に貴方達を傷つけるつもりはないけど、帰ってもらう事はできる。そこんとこよろしく。じゃ、次の人』


 相変わらず眠そうな目で、天使が別の記者に視線を向けた。


『あ、え、えっと』


『恐がらなくてもいいよ。さっきも言ったけど、ボクは貴方達を不当に傷つける事を許されていない。理性をもち、法を順守する存在だ。守る法が天界のものってだけで、獣ではない』


『で、では……えー、貴方の性別を教えて頂いても?』


 その質問に、天使は初めてそのジト目を大きくした。


 数秒後、天使は呆れた様に答える。


『無性だよ。ボクらの誕生方法は人間と違うからね』


『待ってください!それは両方ないって意味ですか!それとも両方あるって意味ですか!?正直にお答えください!!とても重要な事なんです!!』


『やる気次第で、一応どっちも出せるけど』


『やったあああああああああ!!』


『……センシティブな質問も面倒だから、帰って』


『ああああああああああああ!?』


 変態。もとい先ほどの記者がお巡りさん達のところに。


 ついでにその人逮捕しといてくれないかな……だいぶやべぇ奴だと思うの。周囲の記者たちも若干ひいてるし。


『次の人ー』


『あ、あの!魔物や天使について知っている人ほど、魔物とやらに襲われるという話がネットに上がっているのですが本当でしょうか』


 マジか。噓から出た誠じゃん。


 たぶん、他のアプリ持ちが書き込んだのだろうな。自分も気になっていたので話題に出してくれて助かる。


『そうだよ。この世の全てに魔力は宿る。人も、物も、感情も、記憶にもね』


『では、貴方の行動はやはり人間を危険にしているのでは?』



『何度でも言うね。人界に魔物がたくさん来るんだ。今はまだ雑魚ばかりかもしれない。でも、来年の今頃にはそこら中を単独で街の1つや2つ滅ぼせる様なのが闊歩していると思うよ』



『えっ』


「えっ」


 図らずも、画面の向こうの記者と自分の声が重なった。


『勿論、貴方達の危険度を上げたのは事実だ。でも、やる必要があった。少なくともボクらの上司はそう言っていたよ』


『そ、そのぉ……どうしても危なくなったら、天使様達が助けて下さるんでしょうか?手段を下さるとおっしゃいましたが、もしもの時は……』


『これも前に言ったけど、魔物の数が多い。そして今新しく言うけど、天使は魔物に比べて少ない。だって、魔界……奴らの住処にいるのまで含めたら、魔物の数って人類の総人口を軽く超えるからね。トップ層の実力は拮抗しているし、平均値はこっちが上だけど。数が圧倒的に負けているからー』


 ……マジかよ。


 今、地球の人口って80億人ぐらいじゃないっけ?この前テレビでそう言っていた気がする。


 それを軽く超える数?あのコボルトみたいなのや、それより強いのが?


『ボクらじゃ貴方達を守り切れない。無理。だから、自衛してって言っているの』


『な、ならもっと安全かつ効率的な自衛手段の確立をですね』


『そのためにアプリを配ったし、アプデもしたよ』


『それ以外ですよ!そんな選ばれた者だけが恩恵を享受できる選民思想的な』


『そこから先は人間次第。言ったでしょう?1から10までお世話する気はないって』


『論点はそうではありません!何なんですか?異能者とやらになれない人間は死ねと!?』


『そうは言っていないよ。ただ、それを決めるのは人類だ。異能者が非異能者を守るのか、見捨てるのか、使役するのか。その辺りに、ボクらは関与しない』


『なっ、あまりにも危険な考えです!ではせめて、貴方達が覚醒させたという異能者の情報を』


『個人情報を探る話もパス。次の人ー』


 また指が鳴り、天使の目が動く。


『では、元々この世界に霊能力者がいたかどうかについて────』


『いるけど()()()()弱すぎて話にならないから、ボクらが来た。今回覚醒させた人達には期待しているよ』


『政府と霊能力者の関係について────』


『政治の話はパス』


『付き合っている人はいますか!?』


『プライベートな質問もパス』


『スリーサイズを教えてください!!』


『人間こっわ……』


 そこから20分ほど質疑応答が行われ、最終的に6割ほどの記者が見えない壁の向こうに飛ばされた。


『じゃ、今日はこの辺りで』


『ま、待ってください!まだお聞きしたい事が!』


『逃げるんですか!?』


『質問に答えてください!』


 この人達、目の前の存在の脅威に気づいていないのだろうか。見た目こそ西洋人形を連想させるが、戦闘力は恐らく怪獣みたいなものだぞ。


 それとも『危害を加えない』という言葉を信じ切っちゃうぐらい純粋なのだろうか。そんなもの相手の気分次第だし、何より『天界の法律』とやらもわからないのに。


 天使に詰め寄る記者の人達に、思わず頬が引き攣る。そして、画面の向こうの天使は露骨に眉間へと皺をよせた。


『ボクにだってプライベートがあるんです。ずっとは付き合っていられません』


『これだけ好き勝手しておいてご自分の都合を優先するんですか!』


『社会に混乱を招いた責任をとってください!』


『また後日同じことするから。そんときに質問して。じゃ、ぐっばーい』


 見た目西洋人なのに物凄く日本なまりな言葉を残して、記者たちの怒号を無視し天使は国会議事堂の屋根の上へと飛んでいく。


 そして、三対の翼でその小さな体を包む様に丸まってしまった。


 結界の様なものも消えたらしく、追いやられていた警察の人達もやってくる。その辺りで、動画も終わっていた。



*     *     *



 スマホをスリープにして、仰向けにベッドへ倒れる。


「なんか……凄い事になった……」


 1年後の今頃には、化け物たちが街を闊歩している?


 それは天使でも防ぎきれないから自衛しろ?


 魔物の数は、人類よりも更に多い?


 元々いる霊能者は弱いから、今回目覚めた異能者がどうにかしろ?


 ……やばい。頭がパンクしそう。


 ぐったりと頭を抱えた後に、上体を起こしてスマホを手に取る。


 とりあえず……アプデの内容とやらを確認しなければ。


 夕方に巴君とやたら小難しい表現やら、古文かよと言いたくなる文法の説明を頑張って読み解こうとしたわけだが……。


 あれを、もう1回やれと?




読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。本当に励みになります!どうか今後とも今作をよろしくお願いします!


次回からダンジョンに入るかも……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。 つまりあれですね。天使曰く「一年後にメガテ○シリーズ世界みたいなヤバい環境になるから、力をもらった人達は頑張って『メガ○ンシリーズ主人公みたく剣一本で神格の存在をしばけるよ…
[良い点] ダウナー天使様かわよ [一言] 人類生存猶予約一年(未満)!銃で殺せなくなるまで半年もかからないだろうなー。 ……試合終了!勝てるかこんなの!! つまりいつもの超難度たろっぺワールドであ…
[一言] ちょくちょくバイタリティおかしい変態混ざってるのほんと草
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