第四十一話 おためし
第四十一話 おためし
『マジか……そんな一昔前のラノベみたいな事が実際に起きるのかよ』
「言うて異能とか魔物って段階でファンタジーだし」
『ラブコメ要素とローファン要素は必ずしも同居しねぇだろうがい』
スマホで電話しながら、ベッドの上で胡坐をかく。
あの後、ちゃんと口頭にて詳しい事情を説明した。大変不本意ながら、最初は本気で脳と精神を心配されたが。
『で、どうすんべ』
「それを相談したかったんだよなぁ」
『オレに聞かれてもわかんねぇよ。……でも、別にいいんじゃね?オレらにデメリットないし』
「まあ、そうなんだけどさぁ……」
確かに、こちらにデメリットと呼べる程のものは今の所ない。
あちら側にも利益があるのは当たり前で、むしろ安心する要素だろう。完全に無償で無私の奉公をされるなど、不気味さが勝る。もっとも、こちらのメリットが大きすぎる気もするが。
しかし、もしも自分に不利益と言える所があるとしたら。
「巫女を持つとか、信仰されるとか。慣れる気がしない……違和感しかねぇ」
『あー』
こっちは新興宗教の教祖とかじゃないんだぞ。本気で崇められた経験などあるわけない。
それなのに、突然同い年の少女から……それも、見目麗しい相手から『巫女になる』とか言われたら、戸惑ってしまう。
『傍から見ると、裏山案件なんだけどなー。美少女巫女に信仰されるとか。もう薄い本が厚くなる感じじゃん。儀式とか言って、エッチなご奉仕させるやつ』
「エロゲの中なら、僕だって下衆な笑いしながらそういう選択をするよ。でも、リアルでこれはどうすりゃいいのか……」
『それな』
今も桃色な妄想は浮かんでいるし、たぶん梓さんも拒否はしないと思う。
だけど、それは人としていいのか?相手がもしも望んだ事だとしても、そういう事をするのは、こう……倫理的にどうなのか。
『偶に思うけど、お前いい子ちゃん過ぎるよな』
「突然の言葉のナイフ!?泣くぞ!?」
『だって、幸太朗って恋愛とか男女の関係に対して願望持ちすぎじゃん。別に、打算から始まる恋とか結婚生活だって珍しい話じゃねぇだろ』
「そりゃそうだけどさー。高校生でそういうのに憧れとか一切もたないのもそれはそれでどうよ」
『オレは美少女とヤれるならなんでもいい派だけどなー』
「嘘こけ。お前だっていざそうなったら絶対に尻込みするぞ」
『はぁ~?オレはお前の様なヘタレ童貞とは違うんだが?相手が目の前に立った瞬間ケツに顔をうずめているんだが?』
「それはただの変質者じゃないか……?」
いやだよ、瞬きする間に背後に回り込んでケツに顔を突っ込む変態。もう人類というより何かしらの妖怪じゃん。
『貴様、ケツワープというものを知らんのか……?』
「僕の知っているケツワープはゲームのバグ技であって、現実に使われるものではないんだわ」
『じゃあもっこ』
「言わせねぇよ。つうかそれもバグ技だよ」
その無駄に可愛いアニメ声で言うのはやめろ。変な気分になるから。
『なんだよー、下ネタぐらい別にいいじゃん。ちんちんちんちんちんちん』
「ヤカンかお前は。はぁ……とにかく、巫女とかそう言うのの事を、またヴァイオレットさんに相談してみるか」
『それが一番丸いんじゃねぇの?オレ達、魔術とかそういうの全っ然知らねぇし。別に、急ぎって話でもないんだろ?』
「……急ぎではない。でも、個人的に早めに決断したい」
『その心は?』
「天使さんは1年後と言ったけど、それから1カ月程度でダンジョンからもう魔物が溢れてきている」
天使さんが嘘をついたとは思っていない。だが、『4枚羽』のアプリからわかる通り、人間と天使の間には『ずれ』があるのだ。
その認識のすれ違いが原因か、はたまた天使達も万能ではなく想定外があったのか。なんにせよ、あの警告が外れる可能性もある。
「もしかしたら、魔物は天使達の想定以上の数と速度で人界に押し寄せてくるかもしれない。これはただの勘だ。考えすぎかもしれないけど、対策しておいて損はない……はず。だから、安全に関わる事ならきちんと考えたい」
『……ほーん。ま、いいんじゃねーのー』
気の抜けた返事に、肩透かしされた様な気分で頬を引きつらせる。
「んな軽いノリで……」
『張りつめ過ぎても、人間いい事なんてなんもねぇよ。もしも、って言うんなら少しは気楽にいけ。防災用品買うぐらいのテンションが丁度いいさ。たぶん』
「………」
言われてみれば、そうかもしれない。
藤田さんに教わった、戦い方。気を張り過ぎず、抜き過ぎず。それは、ダンジョンに挑む時以外でも当てはまる……かも?
『ヴァイオレットさんの店行くなら、オレも行くからタイミングは言えよー。軟膏の材料、買い足したいし』
「おーう」
* * *
と、言うわけで翌日。火曜日の夜中に家を抜け出して、ヴァイオレットさんのお店に向かったわけだ。
彼女の服装が何故か『上乳まる出し系ミニスカメイド服』だったので、入った瞬間『あれ、お店間違えたかな?』と思った僕は悪くないと思う。聞けば、例のバニーガール衣装と同じ類の物らしい。
それはそれとして、わざわざ鍋から出てきて手を合わせた巴君の頭は叩いておいた。
お前気持ちはわかるけど自重せぇよ?
兎にも角にも、ヴァイオレットさんに例の話を相談した結果。
『いいお話じゃないですか。どこに悩む要素が?』
と逆に聞かれてしまったものである。
やはりというか、霊能関連の業界ではかなりの好条件であるらしい。戸惑っている自分の方が、異端なのだろう。
まあ。異端も何も、そもそもちょっと前まで魔物の存在すら知らなかった新入りなのだから、馴染めていなくて当然なのだが。
そんな事を青色の豊かな谷間や、黒いニーソックスの絶対領域に巴君と2人して吸い寄せられながら考えていると、ヴァイオレットさんから提案があった。
曰く、『梓様との今後に悩んでいるのなら、試しに3人で仕事をしてみたらどうでしょう』、と。
『と、言うわけでやってまいりました。廃工場。いやぁ、雰囲気ありますねぇ……』
「えっと……幸太朗君。また真島殿のキャラが変わってないか?」
「気にしないでください。思春期なんです」
水曜日の深夜。自分と巴君。そして梓さんの3人で、駅を2つ跨いだ街までやってきていた。
目的はこの廃工場に出来たというダンジョンの攻略。仕事自体は、いつもと変わらない。
ちらりと、梓さんの方を見る。
彼女の装いは、一見してあの狒狒のダンジョンで見た時と同じく巫女服に刀を2本差しした軽装だ。
だが、よく見れば巫女服が纏う魔力が上がっているのを感じ取れる。
こちらの視線に気づいたのか、彼女は両の袖を指で挟みながら腕を軽く広げてきた。
「気づいたか、幸太朗君。この服はヴァイオレットさんのお店で買った、新しい防具なんだ」
「たしかに、妙に魔力を感じますね」
「あたしも驚いたんだが、こんな見た目でライフル弾でも余程当たり所が悪くない限り貫通はしない防御力がある。いやぁ、時代は変わったなぁ……」
しみじみと頷く梓さん。いや、だからなんでただの布がレベル3とか4の防弾チョッキと同等なんだよ。
自分の纏う防弾チョッキに若干悲しくなるも、前に見たのは『バニーガール』と『北半球解放型ミニスカメイド服』。
脳裏に何故かセットで思い浮かんだ『マスター・フリーダム』のナイスバルクをかき消しながら、梓さんに問いかけた。
幸い、今は自慢気に両手を広げる巨乳美少女巫女がいるおかげで、マスターの呪いは無効化できている。
「あの、一応お聞きしたいんですが」
「敬語」
「……き、聞きたいんだけど」
「うん!」
満面の笑みで頷く梓さん。くっ、可愛い……!
「前に、似た様な防具の説明を受けた時変な制約があるって言われたんだけどさ。それもあるの?いや、答え辛いのなら無理に言わなくていいんだけど」
「うん。その……」
一瞬だけ梓さんが視線を泳がせる。
「下着に指定が入る様に呪いがかけられていて、上は『さらし』。下は『褌』か『紐パン』。さもなければ『ノーパン』って制約が……」
『っ!!!!』
「落ち着け」
独特な軌道で梓さんの背後に回り込もうとした鍋を蹴り飛ばす。
気持ちはわかるけども。痛い程わかるけども。
ついつい、己の視線も彼女の下半身に行きそうになる。
だって目の前の袴姿な美少女本人から、『下に褌か紐パン履いている』って言われたんだぞ?ワンチャンノーパンの可能性すらあるんだぞ?
これで気にならない奴は、何かしら特殊な性癖を持っていると言わざるを得ない。
「いやぁ、流石に恥ずかしいなぁ」
「ご、ごめん」
少しだけ頬を染めながら頭を掻く梓さんに、軽く頭を下げる。
「ううん。気にしてないよ。それに、この程度の制約でこれほどの防具を着る事ができるのなら安いものさ。現存する魔力が籠められた衣服や防具でこれだけの性能を求めるのなら、寿命とかを代償にする必要があるから」
「そうなんだ……」
「うん。たしか、少し遠くの一族が特殊な鎧を纏って魔物と戦っていたけど、呪いで命をすり減らし過ぎて全滅したって話も聞いたし」
「お、おぉう……」
霊能名家の人達って、覚悟決まっている人しかいないのだろうか……。
いや。そうでなければ、霊能関連の事柄全て投げ出しているはずだから、当たり前なのかもしれない。
頭の下がる思いである。
『はい!質問!今は何を履いて』
「シェイクすんぞ」
『さあ、真面目に仕事しようか!!』
大鍋をがっつり手で挟み込みながら、低い声を出す。
お前マジで大概にせぇよ?訴えられるぞそのうち。
苦笑で済ませてくれた梓さんに鍋を軽く上下させて謝りながら、廃工場に入っていく。
「……こっちだ」
「わかるんです……わかるんだ?」
大まかにしかダンジョンの入口の位置は教えてもらっていなかったのだが、梓さんの先導ですぐに到着した。
「大気中の魔力の流れが、少しだけおかしかったからね。吸い寄せられている場所に、大抵異界の入口はあるんだ」
「へー……」
彼女は腰の刀に油断なく手をやりながら、ダンジョンの入口を睨みつつ続ける。
「普通なら、清めた塩と護符を使って結界の作成に取り掛かる所だね。そして可能なら異界の主と交渉して帰ってもらうか、強引にでも入口を封印して人界から相手が去るまで待つ」
「そうだったのか……」
『知らんかった……』
「あはは……あたし達は、そういう感じで対処してきたけど。幸太朗君達の場合は殴って殲滅した方が早いからね」
脳筋蛮族スタイルの方が楽だからな。儲かるし。だが、もしも自分達ではどうにもならないダンジョンが近所に出来た時は、今の話は参考になるかもしれない。
そんな事を考えながら、改めて装備を確認する。
防弾チョッキ、ヘルメット、共に良し。盾、良し。警棒、良し。その他装備も、問題なし。
ちらりと視線を巴君の方に向ければ、鍋から白い手が出てきて親指をたててきた。あちらも準備はできているらしい。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
『援護は任せろー』
依頼を受けた際に、梓さんには『今回のダンジョン内で見たもの、聞いた事を決して口外しない』と契約を結んでもらっている。
つまり、エクレールを出し惜しむ必要はない。
騎士を含めて自分達4人での、初めてのダンジョン攻略。はてさて、どうなる事やら……。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつも本当にありがとうございます。どうか今後ともよろしくお願いいたします。
Q.巴、梓さん相手に気楽に喋れる様になったの?
A.まだ鍋越しですが、はい。一緒にダンジョンへ行くのは狒狒の時も含めて2回目ですので。顔を合わせての会話は、まだ厳しいでしょうけど。




