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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第一章 天使が降臨した日
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第十八話 説教まじりの、老人のつまらない昔話

第十八話 説教まじりの、老人のつまらない昔話




 ヴァイオレットさんのお店で買い物を済ませ、午後。


 我ながら散財したものである。あの世には六文銭以外持っていけもしないだろうから、と。己を言い聞かせているものの。やはり何万円、何十万円もの値札がついた物を買うのは心臓に悪い。


 家でお昼を食べてから、自分はいつもの公園で藤田さんと会っていた。


「振りもだいぶ速くなったね。コンパクトになった」


「ありがとうございます」


「堅実に、積み重ねていこう。努力は人を裏切る事もあるけど、努力したから開ける道もある」


「はい!」


 ベンチで休憩をとりながら、2人してペットボトルのお茶を飲む。


「……それにしても、異能者というのは全員そうなのかい?短い間に随分と逞しくなったけど」


「あはは……。一応、筋トレはしていますけど」


 訝し気にこちらの腕や肩を見てくる藤田さんに、苦笑で答える。


 異能の事を知れば知るほど、魔物に狙われる可能性は上がる。それを考えると、詳しく話そうとは思えなかった。


「まあ、深くは聞かないさ」


「ご配慮、ありがとうございます。……それで、こうして教えてもらっている立場で恐縮なのですが、今度の日曜日の稽古を休ませていただきたいのですが……」


「うん?日曜日?」


 不思議そうに首を傾げた藤田さんに頷く。


「あの、駄目でしょうか……?」


「いや、構わないよ。むしろ、私もその日は休みにさせてもらおうと思っていたから驚いてしまったんだ」


「藤田さんもですか?」


「ああ。前に言ったかな、孫がそろそろひ孫を産むんだ」


「そう言えば。おめでとうございます」


「ありがとう。息子夫婦は孫が小さい頃に亡くなっているし、お相手のご両親も遠くに住んでいるのでね。私も病院には顔を出しておきたかったんだ」


「え……」


 お孫さんの事は聞いていたが、息子夫婦が亡くなっていた事は初耳だ。


 突然の話に固まる自分に、藤田さんが気まずそうに眉を八の字にする。


「すまない。息子たちの事は言っていなかったね」


「いえ……。その、お悔やみ申し上げます……」


「言っておいてなんだが、気にしないでくれ。もう随分前の話だ。長く生きていれば、別れというのは出会いと同じだけ経験するものだよ」


 そうは言われても、なんと言っていいのかわからない。


 視線を彷徨わせる自分に、藤田さんは苦笑を浮かべた。


「私の理由は言ったが、君は?もしかしてデートかね」


「い、いえ。友達と遊びに行くだけです」


「友情か。それもまたいいものだ。友達は大切にしなさい、なんて。こんな老人に言われるまでもないか」


「いえ。心に刻んでおきます」


「そこまではしなくていいさ」


 藤田さんは少し困った様にしているが、個人的にこの人の事はかなり尊敬している。


 もう退職した身なのに『お巡りさんだから』という理由で誰に褒められるでもなく危なそうな所を巡回し、こうして怪しさ満載だった自分に稽古までつけてくれているのだ。


 敬意を払わない理由などない。正直、人として憧れてさえいる。自分もこういう歳の取り方をしたいものだ。


 ……自分が歳をとれるのかは、不明だけど。固有異能が色々と未知なので。


 固有異能と言えば、この前使ってみてわかった事があった。使用の理由こそ不本意であったものの、実際に使ったという経験は得難いものである。


 おかげで───4枚羽のアプリで表示された自分の固有異能の能力は、書かれている通りの力をもつのだと理解できたから。


「……友情は大切だ。それでもね、それだけを考えてはいけないよ?」


「え?それは、まあ」


「もしも。もしもだ。人生の転機と呼べる様な出来事に遭遇したら、『原点』を思い出す事をお勧めしたいな」


「原点、ですか?」


「うん」


 藤田さんが、こちらに視線を向ける。


 細められた瞳は、強い憂いを帯びていた。


「……前に、何故君に稽古をつけるのか理由を聞きたがっていたね」


「はい。その……今でも、疑問に思っています」


「こんなご時世だ。テレビでは『ダンジョン対策庁』とか、物騒な話も出ている。どうしても気になるというのなら、説教まじりの、老人のつまらない昔話ならばしよう」


「……よろしくお願いします」


 藤田さんが視線を正面に移しながら、乾いた唇をお茶で少し潤した。


 その瞳は、どこか遠くを見つめている。


「結論から言おう」


「はい」



「私が君に稽古をつけたいと思った一番の理由は、『身勝手な罪滅ぼし』だ」



「罪滅ぼし、ですか?」


 少し予想外な答えだったので、首を傾げる。


「私は昔機動隊に所属していた。そして……『学生運動』の対処に出動した事がある」


『学生運動』


 昭和の時代。戦後あたりに起きたという活動。自分はテレビで『昔はこんな事があった』程度にしか知らないが、人権だったり政治についてだったりで、大きな騒ぎになったらしい。


 大学生たちが大学の自治権がどうのって事で校舎に立てこもり、火炎瓶とか長い棒で機動隊と戦ったとか。


「彼らにも、彼らなりに言いたい事があったんだろうね。政治的な見解を述べる機会が欲しかったり、友達の付き合いで参加したり。あるいは、学費の交渉やただ暴れたいから参加していた子もいたよ」


「は、はあ……」


 正直、あまり想像ができない。


 自分達の世代では意見の主張の為に暴力的な手段を選ぶ事は、『いけない事』と教えられてきた。それに反発するような意見をもよく聞くけど、そもそも僕は長い物には巻かれる主義である。


 例の『残り火』とやらは例外として、多数派や権力にはあまり噛みつかない質だ。格好良く言えばノンポリ。悪く言うと無関心な若者という奴である。


「その運動でね、人が死んだんだ」


「……はい」


 どこか抜けた答えしかできないこちらの背筋が、自然と伸びる。


 聞いた事は、あった。死者が出る程の騒ぎだったと。火炎瓶やらレンガやらが投げられていたのだから、当然とも言える。


 だが、こうして当事者から聞いた事は初めてだった。


 テレビで聞き流していた時とは違う、妙な重みから逃げるように、ペットボトルに口をつける。


「私はそれまで、学生運動をしている彼らに同情さえしていた。でもね。厳しい訓練を共に積んだ友達が。厳しくも親身になってくれた先輩が。彼らの投げた石で死んだ時、目の前が真っ赤になってしまったんだよ」


「それ、は……」


「あの時、私は警察官としてではなく……浅ましい、ただの暴漢として彼らに警棒を向けた」


 淡々と語りながら、しかし彼は気づいているのだろうか。


 皺だらけの手が、硬く握られている。よく爪が切られているから食い込む事はしないけど、ギシギシと小さく音がする程に。


 膝の上で握られた己の拳には目もくれず、彼は続けた。


「不幸中の幸いで、私は誰も殺さなかった。しかし、障害が残るほどの怪我を負わせてしまった学生たちがいる。あの時、軽傷で取り押さえる事もできたはずなのに、ね」


「……仕方のない、事だと思いますけど」


「そうかもしれないね。この事で処分はされなかった。でも、私は、私自身の事だからこそ。納得はできないんだ」


 ようやく、藤田さんがこちらに視線を戻す。


「私はあまり良くない生まれでね。ようやく人らしい人生を歩み出したのは……とあるお巡りさんに、養子として迎え入れてもらってからだった」


 私達の代だと、かなり幸運な事にね。と、藤田さんが続ける。


「あの人に会った事が……たぶん、私の原点だ。あの人に憧れて、警官になった。それなのに、その時の思いを忘れて動いた結果。一生後悔する事になったよ」


「………」


 なんと言ったらいいのか、わからない。


 自分の人生経験では、碌な言葉が浮かんでこなかった。精々がアニメや漫画で聞いたセリフがポツポツ浮かぶ程度。でも、それを今口にしようとは思えない。


 それほどに、彼の話は重く思えた。


「君が1人で練習をしている姿が、あの時の学生たちに似ていると思ってしまったんだ。真剣で、必死で。それなのにどこか浮ついた雰囲気が。……ああ、ごめん。別に馬鹿にしているわけではないんだ」


「いえ。その通りだったと思うので……」


 自分なりに必死ではあった。唐突に現れた非日常に順応しようとして、何かできる事はないかと始めたのが素振りである。


 しかし、浮かれていたのも事実だ。いいや、今でも少し浮かれていると思う。


 ダンジョンで命のやり取りをしたはずなのに。この手で魔物とは言え命を奪ったのに。それでも自分は、まるで物語の中にいる様な気分でいる……の、かもしれない。


 曖昧なこの自己分析ですら、楽しんでいる節がある。そういう所が、我ながら凡夫なのだと思えてならない。


「これが、私が君に警棒と盾の使い方を教え始めた理由だよ。身勝手過ぎて、軽蔑したかな?」


「いえ、そんな事は!」


 少し焦って言った自分に、藤田さんが笑う。


「すまないね。空気がまずくなる様な話で。……ひ孫が遂に産まれると聞いて、老いを自覚してしまったのかもしれない。私も、もう長くないかと思ったらついね」


「い、いえ……」


「お詫びではないけれど、聞きたい事があるのなら好きに聞いてくれ。私に答えられる範囲なら、答えよう」


 彼の言葉に、思わず目を瞬かせる。


 何というか、お巡りさんって全員そうなのだろうか。いや、たぶん藤田さんがレアケースなのだと思うけど。


 まさか、固有異能の事を思い浮かべた時に覚えた『葛藤』を見抜かれているとは、思っていなかった。


 だが、内容が内容だけに躊躇われる。


「いや、その……」


「……私では、頼りないよね。すまない」


「や、そういう事じゃなくって!」


 藤田さんをそういう風に思った事はないし、これは魔物の襲撃率を上げてしまうかもという心配からでもない。


 ただ……。


「その……もしも、です」


「うん」


「もしも───」


 これを、ご家族やご友人を亡くされたと語ってくれたばかりの人に問うのは、あまりにも無神経過ぎたから。


 だから、迷ってしまう。本当に問いかけていいのかと。



「死者を蘇らせる事ができるとしたら。どう、思いますか?」



「………」


 沈黙が公園に流れる。


 自分達しかいないこの場で、そうなるのは。当然2人して口を閉ざしたから。


 やはり言うべきではなかったと思い、頬に冷や汗が流れる。他にこんな事を相談できそうな人が思い浮かばなかったとは言え、藤田さんに対して問うべき内容ではなかった。


 この短いながらも恩師と呼ぶべき人との関係が、変わってしまうかもしれない。それが一番、今は恐かった。


「……冗談の類とは思えない。それは、君の異能とやらに関係するのかな?」


 無言で、頷く。



『豊穣の祭儀』



 古今東西。豊穣……『生』の象徴たるそれと、反対の位置にある『死』というのは何かと関わる神話が多い。


 そして、その中には『黄泉帰り』という伝説もある。


 その例に漏れないかのように、自分の異能にも、死者を呼び戻す力があるのだと思った。


 この前使った時、理屈もなく確信したのだ。これは、それができる異能なのだと。


 何とも破格な話である。それこそ、自分の様な凡骨には手に余る程に。


 無論、制限はある。例えば、何か強大な存在にガッチリと魂が掴まれている場合であったり、あるいは生き返らせる対象が自分より強かったりだ。


 逆を言えば……それらがない、ただの一般人相手なら。


 きっと、千年前の人間だろうと現代に呼び戻せる。


「……夢のある話だね」


 ぽつりと、藤田さんが呟いた。


「色んな王様や政治家が求めてきたものだ。いいや、人類全てと言っても、過言ではない力だね」


「……蘇らせられない人も、いますけど」


「それでも、だよ。それで、君が悩んでいるのは『これは使ってもいい力なのか』、といった所かな?」


「……はい」


 よく聞くのは、死者蘇生など邪道であり生命への冒涜だという言葉。


 それ以外にも、ギリシャ神話のアスクレピオスの逸話の様に『世界の法則を乱す』と、天罰が下る話もある。


 だから、『いけない事』だとは思うのだ。


 しかし、もしも使ってもいいのなら『出来る事』はかなり広がる。


 権力者とかとの交渉だったり、もっとレベルが上がったら安倍晴明とかその子孫を蘇らせたりとかを考えてしまう。


 実際は、たぶんそんな上手くはいかないだろうけど、それでも考えてしまうのだ。


「……『命は1つだから尊いんだ』なんて、月並みの言葉を言えるほど私は立派な人間じゃない」


 考えながら喋る様に、ゆっくりとした語り口で彼は続けた。


「生き返って欲しい相手なんて、幾らでもいる。先だってしまった妻と、また旅行に行きたい。息子夫婦に、お前達の孫が産まれるんだぞと伝えたい。友達や恩師と、酒を飲みかわしたい」


 それは、きっと長く生きた人なら皆が抱く想い。ありきたりとさえ言われてしまいそうな、願い。


「でも……でも、そうだな」


 藤田さんが、ニッコリと笑みを浮かべた。


「私は、生き返りたくないな」


「そう、なんですか?」


「うん。君がその異能とやらを使う事についてとやかく言う権利はないけど……。私個人としては、もしも死んでも生き返りたくはない」


 キッパリと告げる彼に、こちらも視線を合わせる。


「理由をお聞きしても、いいでしょうか」


「そうだね。まあ、凄く単純に、『嫌だな』って思っただけなんだけど」


 藤田さんが己の顎を撫でながら、また考えながら喋る様に口を動かす。


「なんて言えばいいんだろうか……。生き返った人が本当にその人なのかとか、世界の法則がどうのとか。哲学的な話は浮かぶんだけど……そういうのでもなくてね」


 首を捻って、藤田さんは続けた。


「最初は、絶対に嬉しいと思うんだ。死別した人に会えたら。そして、自分も生き返る事ができたら。でも、その後がね」


「その後、ですか?」


「うん。たぶんだけど、私はこう思うんじゃないかな。『次に死んでも生き返る事ができる』って」


「それは、まあ」


「それが、嫌なんだ。実際にそういう状況になったらわからないけど、今の私はそう思っている」


 首を捻るのをやめて、今度は苦笑を浮かべる。


「死生観が、乱れてしまう気がする。そんな空虚な人生を生きるぐらいなら、私はそれが非業の死であったとしても……なんら意味のない死だったとしても」


 何かを思い出す様に、藤田さんは言い切った。



「私は、死ぬべき時に死にたいんだ」



 また、数秒ほど沈黙が流れて。


「ああ、でも。ひ孫や孫が死んでしまったら『生き返らせて』って君に頼むかも」


 心配そうに口元へ手をやって、藤田さんが背を丸めた。


「悩むなぁ……。私自身はともかく、家族にはこれ以上先だってほしくないし……。でもなぁ。孫は妻に似たからなぁ。いや、だが子供がとなれば……うーん」


 頭を捻り続ける彼に、気づけば自分は笑っていた。


「ん、どうしたの?」


「あ、いえ。その、すみません」


 驚いた様子の藤田さんに、慌てて首を横に振る。


「ただ、その。凄く真剣に悩んでくれていたので……つい」


「そりゃあ悩むとも。勝手ながら罪悪感を抱いている相手に重ねちゃった少年に、こうして質問されたんだよ?それも、色々と思う所のある内容をね。長い人生で、たぶん一番頭がぐるぐるしているとも」


「やっぱり、難しいですよね」


「ああ。これは、一生ものの疑問だと思うよ」


 2人して腕を組み、頭を捻る。


「そもそも、死者蘇生と現代医療の蘇生でどこまでの差があるんだろうね」


「たしかに。心臓を失った人に機械をつないで延命して、人工心臓を入れるのは普通に良い事ですよね」


「だよね。他の内臓でもそうだ。逆に……どこからが『死者蘇生』なんだろう」


「……死後何日とか、火葬した後とか?」


「だが、昔ではもう死んでいるという状態でも、時代が違えばまだ助けられると言われる場合もあるし」


「どう、なんでしょう。土地とそこの文化で、色々と違う気も……」


 結局、その日の稽古は続かず。


 空が赤くなるまで揃って首を傾げ続けた。それでも結論は出ず、『保留』なんて何とも締まらない事に。


 だが……まあ。


 それで、いいのかもしれない。


 誰かに聞いて、それで良しとしていい話でもないだろう。精々、悩んでいけばいい。


 別れ際に、藤田さんが小さく手を振りながら言う。


「色々と疑問はあるけど、私が死んだとしても蘇らせないでね。それだけは、ハッキリしてる」


「はあ……たぶん、はい。そう、します。たぶん」


「たぶんって2回言ったね」


「実際そうならないとわかりませんし……。結論がまだ出ないので、長生きして頂けると嬉しいのですが」


「それは難しいなぁ。私、もう80過ぎのお爺ちゃんだよ?」


「……人の細胞の限界は、120歳って言いますから!」


「理論上はそうってだけで、実際にやるのは難し過ぎないかい?」


 困った様に禿げ頭を撫でる藤田さんへ一礼して、帰路につく。


 悩みは晴れず。しかしそれとは別に疑問は1つ解けた。


 進めたと言っていいのか、わからないはずなのに。


 何故か不思議と、自分の脚は軽かった。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。創作の原動力とさせて頂いております。どうか今後とも今作をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
充実していない人生でも、人は死を宣告されると恐怖するんですよね。 生命ってのは生きているものにとっては尊く逃れられないものなのでしょう。
[良い点] 難しい問題
[良い点] 努力しても報われないかもしれない。 しかし、努力しなければ報われることはない。 宝くじだって、買わなければ当たるわけがない。 …そんなのどうだっていい!俺は怠けるぞJOJOォ!(台無し …
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