第一章 プロローグ
新連載です。よろしくお願いします。
第一章 天使が降臨した日
プロローグ
『はいどーもー、天使でーす……』
別になんて事のない日曜日の昼頃。
昼食も食べ終わり録画したアニメでも見ようとソファーに座りテレビをつければ、ちょうど国会中継の最中だった。
野次が飛び交う光景にチャンネルを変えようとして、しかし突如襲った頭痛に指を止める。
頭痛が治まるまでほんの数秒。そのたった数秒の間に、とんでもないモノが画面に映りこんでいた。
『は、え……?』
答弁の最中だった大臣がポカンとした顔で見上げる先。そこでは緩くウェーブのかかった長い金髪を漂わせた少女が、ふわふわと宙に浮いていた。
白く大きな六枚羽に反し小柄な少女……いいや、少年だろうか?わからない。どちらの性別ともとれるその存在は天使を名乗り、人間ではありえない程に整った顔を眠たそうにしていた。
『突然しつれいしまーす。いきなりですがー、魔物が思った以上に人界へ勢いよく侵攻してきそうなのでー、人類の皆さんには自衛の力を持ってもらいたいと思いまーす』
……あ、これ夢かな?あるいはドッキリ?
あり得なさ過ぎる光景と発言に、そっと自分の頬を引っ張ってみる。少し痛い。じゃあドッキリか。
……いや国会中継でドッキリってある?
そっと壁にかかっているカレンダーを見れば、日付は『4月14日』。エイプリルフールでもない。
『す、すぐにその子供を追い出せ!ここは国会だぞ!』
『え、だ、誰?』
『おい、もう一人子供が紛れ込んでいるぞ!』
『何を言っているんだ。私はこの国の総理大臣……あっるぇ!?』
更には、総理大臣が座っていた席にはぶかぶかのスーツを着た幼女までいる。
長い銀髪に小さい角。先端がハート型の尻尾まで生やした、やけにリアルなコスプレをした美少女だった。歳の頃は十代前半だろうに、妙に色気がある。
指先まですっぽりとスーツで隠れた幼女がアワアワとしているのを無視し、自称天使はマイペースに話を続ける。
『混乱するかもしれませんがー、先に野良で見込みのありそうな人は『覚醒』させといたのでー、なんか、頑張ってください。……ふぁ』
おい今欠伸したぞ。
その大きな瞳を半目にして、自称天使は気だるげな声で喋る。
『元々人界にいた霊能力者とかエクソシストとかー、人間同士の殺し合いで数も質も下がりに下がっているじゃないですかー。もうこのままだと一気に押し寄せる魔界の奴らに対応できないんですよー。あいつらダンジョン?的なものまで出してきたし』
『な、なにを言っているんだ!』
『おい、カメラを止めさせろ!』
『駄目でーす。そうやって隠蔽するのは人間社会に必要だったんでしょうけどー、もうそういうの言っていられる状況すぎちゃっているんでー』
慌てた様子でカメラを止めようと叫ぶ一部の議員たちに、天使はひらひらと手を振る。
『あー、けどこれ以上の干渉はあんまりしない感じですんで。私らの前の代では人界テ□リストがソモラだかゴドムだか……逆だっけ?まあはっちゃけたらしいですけど』
議員たちの動揺をよそに、天使は面倒くさそうに続ける。
『今の天界としてはぁ、人間には人間だけで極力頑張ってほしいというか。それが自然の在り方って事で、最低限の手助けだけしたら後はそっちでお願いしまーす』
一方的にそう言った後、その天使は一際大きな欠伸をした後にゆっくりと上昇し始めた。
『あ、一応この建物の屋根の上にいるので、どうしても聞きたい事があるならどうぞ。けど凄く眠いから、あんまり来ないでください。一応、適合者には『板』の中に説明送っといたからぁ。んじゃ、そゆことでー。しーゆー』
そう気の抜けた声で締めくくり、天使と名乗った存在は天井をすり抜けて消えてしまった。
一瞬だけ静寂に包まれた国会だが、次の瞬間弾けた様に慌ただしくなる。
『ど、どういう事だ今のは!』
『そんな……今までの秘匿事項を……』
『おい、誰か説明しろ!さっきの少女はなんなんだ!』
『ちょっと待って私可愛くないか?超セクシーな美幼女になってない?』
『いいからカメラを止めろ!中止!この場での会議は一時中止!』
『これ以上撮るな!おい、聞こえているのか!』
数秒後に画面が切り替わり、綺麗なお花畑だけがテレビには映る。
それをあんぐりと口を広げて見つめること、数秒ほど。机の上に置いてあったスマホが振動する音で、ようやく再起動する。
何だったんだ今の。何かの企画?チャンネルは……国営だよな。え、本当にどういう事?
混乱しながらもスマホを手に取り、家族や友人にも共有しようとする。
そこで、開いてすぐにその友人から通知が来ている事に気が付いた。
『オレが美少女になっていた』
……どうしたんだあいつ。遂にモテないあまり、幻覚を見る様になったのだろうか。
『ごめん、今冗談に付き合っている余裕がない。というかテレビ見た?』
『冗談じゃない』
取りあえず先に国会の話をしようと思って送ったメッセージに、十秒と経たず返信が来た。
写真付きで。
「は?」
そこには、絶世の美少女が映っていた。
肩辺りまで伸びた柔らかそうな白銀の髪に、切れ長の蒼い瞳。すっと通った鼻筋に桜色の薄い唇。
透き通るような白い肌はきめ細かく、毛穴一つ見えない。そんな美少女が薄っすらと目元に涙を浮かべ、こちらを睨んでいる写真だった。
あと、胸がとてもでかい。着ているシャツの胸元が凄い事になっている。パツパツだ。襟からは深い谷間がチラリと見えている。
『え、誰?』
『オレ』
……どうやら本格的に彼は脳が駄目になったらしい。あるいは精神。
眉間を押さえ、友人の顔を思い出す。
真島巴。巴という名前こそやや女性的だが、れっきとした男子高校生である。
中肉中背で細面の、特徴と言える特徴のない『ザ・モブ』って感じの男だ。断じてこの様な美少女ではない。
だが、脳裏に国会中継で映っていた自称総理大臣な幼女が浮かぶ。
……うそん。
『マジで?』
『マジ。さっき母さんにも説明した。というか変わった瞬間目の前にいたし』
「マジかー」
画面を見ながら気の抜けた声を出す。
そしてそっと天を見上げれば、当然ながらいつもと変わらぬ天井があった。LEDの電球が、部屋を照らす。
「マジかー……」
もう一度そう呟いて、どうにかここまでの出来事を整理しようとする。
『頭痛がしたと思ったら国会に天使を名乗る謎の存在あらわる』
『魔物とかエクソシストがいるらしい』
『なんか力を授けたから後はよろしくとの事』
『友達が爆乳美少女になった。見切れていて断言できないが、たぶんメーター級のバスト』
なるほど。自分の灰色の脳細胞は、一つの結論を見出した。
「寝るかぁ……」
現実逃避である。
一度にね、情報の洪水をぶつけないでほしい。
巴君には『とりあえず病院行け。煽りではなくマジで。何が起きているかわからんから』と送った後、自室に戻ってベッドに倒れ込む。
寝て起きたら、誰かこの状況を分かりやすく纏めておいてくんないかなー……。
読んでいただきありがとうございます。
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