第95話 勇者と魔王①
大剣を携え、レオンはミナトに駆け寄る。
(さて、どう料理しようか)
対するミナトは、そんなことを考えていた。
(勝つのも殺すのも簡単。だが、それだけでは足りない)
ミナトが今からやらなくてはならないのは、この戦闘に勝利することだけではない。
絶望を教えてやらなくてはならない。この戦争に参加したことを心の奥底から後悔させ、二度と自分の目の前に現れることがないよう、徹底的に立場をわからせてやる必要があるのだ。
ミナトは、新たに取得した職業〈屠殺者〉の効果を思い出す。
〈屠殺者〉
安らぎを与えるべく、相手に死を恵む黒い母。
EXスキル〈殺戮の神の加護〉、〈眷属召喚・髑髏〉そして、スキル〈拷問〉を獲得できる。
(〈殺戮の神の加護〉ねぇ……)
ミナトは思わず苦笑したくなるのを我慢する。
この間にも、レオンはミナトに迫っている。
〈殺戮の神の加護〉
スキルを発動させた戦闘中、一度に限り、固有魔法〈 Sygdommentil Døden〉が行使出来るようになる。
何度も読み返した文章を思い出す。
EXスキルを使うことで、固有魔法が使えるようになるということだ。
なんとも回りくどいやり方だが、それだけ固有魔法というのは貴重なのだろう。
ただ……
(魔法、使ったことねぇんだよなぁ……)
と、そこまで考えたところで、眼前にレオンがやってきたことに気づく。
「おっと」
「なんだと!?」
それをスキルも使わずにヒョイと避けると、レオンの驚きの声を無視して再び思案に潜る。
(……魔法を使ったことが無いとはいえ、〈 Sygdommentil Døden〉を使わない手はないよなあ……)
「まぁとりあえず…… 〈殺戮の神の加護〉」
これで、〈 Sygdommentil Døden〉が使えるようになった。
「〈疾走〉!」
声をあげたのはレオンだ。再びミナトに向かってくる。
「付き合ってやろう」
〈疾走〉
ミナトもスキルを使ってレオンに詰め寄る。
〈斬撃〉
スキルはレオンのもの。
互いの剣が交わる。
見ていた者たちには、一瞬互角であるかのように思えたはずだ。しかし、そんなはずもなく。
レオンの大剣を、ミナトは一本の蠢蟲剣で受け止めたのだ。
当然、もう片方の剣はフリーだ。
ミナトは右手の剣で攻撃を受け止めつつ、左手の剣でレオンを攻撃する。
「ぐふっ!」
斬られた傷に蠢蟲が入り込む。
「さて、そろそろ理解したか? お前には俺を殺せない」
ミナトが堂々と言い放つが、レオンはまだそれを理解していないようだった。
「なにを言っている! 俺はまだ本気ではない!」
「……そうか。バカの相手はこれだから嫌なんだ。今降伏すれば、苦痛なく殺してやるというのに」
ミナトは意識して強者の——まるで魔王のような口調でレオンに話す。
「降伏などありえん! 死ぬのはお前だ! ミナトッ!」
再び突進してくるレオン。
(学ばない奴……いつかのネズミを思い出すな)
懐かしい思い出に思いを馳せるミナトに、レオンが迫る。
〈回避〉
軽い動きで攻撃を避けるミナト。
こうなっては、レオンとて悟らずにはいられなかった。
目の前の相手は、自分よりも遥かに格上であると。
だが、それでもレオンは気力を無くしたりすることはなかった。
むしろ、燃えていた。
(……必ず、最後に正義は勝つ!)
その一心だった。
自分が勇者であり、目の前にいるのは強大な力を持つ魔王である。
勇者は戦いの中で成長し、人間の敵である魔王を討ち滅ぼす………。
そんな夢のようなストーリーが起こると、レオンは心から信じているのだ。
「さて、いつまでも遊んでいては時間もなくなってしまう——〈眷属召喚・髑髏〉」
ミナトは屠殺者という職業で手にしたふたつのEXスキルのうちのひとつを使ってみることにした。
発動させると、どこからともなく髑髏が現れる。
「主、命令を」
「わお、喋った」
「命令を」
「うーん、君、何ができるの?」
「攻撃魔法はもとより、回復魔法、支援魔法、さらには——」
「うぉおおおおおっ!」
説明の途中で、レオンが雄叫びを挙げてミナトに飛びかかってきた。
「ちょっと、うるさい」
それをヒョイと避けてあしらう。
「ごほん、さらには、弱体化魔法、罠魔法など、幅広く網羅しています」
「なるほど、それはすごい。さすがはEXスキルってところかな」
「恐縮です」
朗らかに進む会話を聞いて、レオンはえもいわれぬ疎外感を感じる。
ミナトの相手は自分であるはずなのに、自分のことなど眼中にないといった様子で髑髏と会話している。
(しかし、これでいい……! 屈辱だが、油断はしてくれた方がいい……! 一瞬の隙をつくんだ。まだ、その時ではない!)
レオンはこの時間を耐えた。
「……さて」
しばらくして、髑髏と会話していたミナトが、レオンの方に目を向ける。
「そろそろ始めようか」
その言葉は、レオンにはなぜか、死刑宣告に似た響きを感じさせた。




