第83話 市街地決戦②
クルディアスは集中力を極限まで高める。
実戦に出るのは久方ぶりだが、しかし技量が衰えてなどいない。
クルディアスの基本職は〈武闘家〉である。
集中力を高めることにより、自身の中にある生命力——『気』を操ることができる。
「〈集中力向上〉、〈集中力超向上〉」
このスキルによって、クルディアスの集中力は常人のそれを遥かに凌ぐものとなった。
額に青筋がたち、目は一点にガイルを見つめる。
そのまま、クルディアスは剣を握る。
〈武闘家〉には珍しく、クルディアスは剣を使って戦う。
『気』を操るという性質上、武闘家のほとんどは己の拳で戦う。
体内から直接出る『気』を、最短で相手に流すためだ。
剣などの武器使ってしまうと、『気』が武器を伝う途中で霧散してしまい、相手まで届かない。
武闘家のメインスキルである〈生命力吸収〉なども、ほとんど効力を発揮しないだろう。普通であれば。
だが当然、クルディアスは普通ではない。
他の武闘家を遥かに凌駕する集中力と、異様に濃い『気』の密度。そして並外れた操作性。
それらが、クルディアスが剣を使うデメリットを全て打ち消し、残ったのは数多あるメリットだった。
両者が睨み合う。
そして、戦端は切られる。
「うがぁああああ!」
両者が一斉に突撃する。
ガイルの棍棒とクルディアスの剣が交わる。
「ぐぅ!」
ガイルがクルディアスを押し返す。
どうやら、単純な力比べではガイルが勝っているようだ。
〈殴打〉
ガイルはその棍棒を振り下ろす。
〈回避〉
クルディアスはしなやかな身のこなしで回避する。
「〈氷柱砲〉」
フリムも黙って見ているはずはない。
ガイルは迫り来る氷柱を棍棒で砕いた。
「〈筋力超強化〉」
自身の魔法が防がれたことなど一切意に介さず、フリムはクルディアスに強化魔法をかける。
〈疾走〉
クルディアスがスキルを発動させたのはそれと同時だった。
瞬く間にガイルはクルディアスの間合い。
〈斬撃〉
クルディアスはガイルの腹を切り裂こうとする。
ガイルはその剣を棍棒で受け止めにかかる——その、一瞬前。
「〈鈍化〉」
フリムの魔法によって、ガイルの動きが一瞬遅れる。
その一瞬は、クルディアスには長すぎる。
剣はガイルの脇腹から入り、逆の脇腹へ抜けていく。
重傷を負いながらも、ガイルはクルディアスを思い切り蹴飛ばして距離をとった。
「ぐぅっ」
苦悶の表情はガイル。
「〈氷柱砲〉」
当然、フリムに慈悲はない。
〈回避〉
ガイルはスキルを発動させて避けようとするが、完全には避けきれなかった。
肩口に氷柱が刺さる。
「ぐぅぅっ!」
悶絶するガイル。
「しかた、ない——〈無痛化〉」
ガイルは痛みを一切感じなくなるスキル〈無痛化〉を使った。
痛みは感じなくなるが、このスキルにそれ以上の効果はない。痛みはなくとも、生命活動が維持できないとなれば、即座に死に至る。
戦士にとって、〈痛覚鈍化〉や〈無痛化〉といったスキルは、ほとんど最終手段のようなものだった。
クルディアスは半分、勝利を確信する。
そもそも、こんなところで時間を使っている暇はないのだ。
早くこのオークを殺して、百足人のところへ向かわなくてはならない。
「けりをつけるぞ! フリム!」
言いながら、クルディアスは〈疾走〉を発動させてガイルに向かう。
「了解!——〈氷の魔弾〉」
フリムは最も自信のある攻撃魔法を放つ。
〈魔弾〉系統の魔法は、その弾に多大な魔力が籠っているだけでなく、追尾機能によって相手を逃がさないという特性も持ち合わせている。
汎用性の非常に高い魔法だ。
十発余りの氷の弾が、〈疾走〉を使っているクルディアスとともにガイルに向かう。
絶体絶命。
逃げようにも、ここはフリムの〈霜の結界〉によって閉鎖空間となっている。
「ぐぉおおっ!」
ガイルが吠えた。
何のためなのかは不明だったが、クルディアスたちは、無駄なことを、と思うだけだった。
〈斬撃〉
クルディアスの剣を、今度も棍棒で受け止めようとする。
(今回はフリムの〈鈍化〉がないから受け止められるだろうが、俺の剣を受け止めたままでは、フリムの〈氷の魔弾〉は防げまい)
クルディアスは勝利を確信した。
だが——
〈跳躍〉
ガイルはスキルを発動させる。
クルディアスの剣とガイルの棍棒が交わるのと同時に、ガイルは後方へと吹っ飛んだ。
「なにっ!」
クルディアスの力を利用して、自ら後方へと飛んだのだ。
一瞬、逃げられた、と思ったクルディアスだったが、結界の存在を思い出して安堵する。
しかしその安堵は、一瞬で裏切られる。
〈殴打〉
ガイルは吹っ飛びながらもなんとか体勢を作り、〈霜の結界〉に向けて思い切り棍棒を叩いた。
その結果——
バリン、という綺麗な音が鳴り、結界は粉々に砕け散ったのだった。




