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第76話 狂気の豚戦士③

若干残酷な表現があるかも?です。


「ひとりずつ散らばるんだ!」


 ハルカゼの指示を聞いた魔法師たちが行動を開始する。

 魔法師は、28人から12人が犠牲となり16人。


 それぞれが等間隔で散らばった。


 一度の跳躍で1人しか殺せないようにする。

 これは考えうる中で最適なものであると言えた。





 ガイルは思った。

 こいつらは、俺よりも賢い、と。


 しかし、ガイルは確信した。

 

「おれの、かち!」


 論理的な根拠は一切なかった。


 ただ、『違う』と思っただけだ。

 根本的に、こいつらは『違う』のだ。


 中途半端に小賢しいと、こういうことをしてしまう。

 そうではないのだ。


 強者とは——王とは、そういうことをする相手には負けない。

 

 別なのだ。

 次元も、矜持も、そして力も。


 真の強者とは、策謀、策略、知恵、工夫、そういったものとは全く無関係のところに存在する。


 だから、俺が勝つ。

 

 ガイルはそう、思った。





「グググ!」


 ガイルは踏み切ることもなく、棍棒を振りかぶった。

 そして、地面に思い切り叩き付けた。


 石畳でできていた地面はすぐに砕けた。


 ガイルはそのカケラを手に持つ。

 25センチくらいの石。


 ガイルは無邪気な笑みを浮かべると、それを投げつけた。


 異常なスピードとコントロールだった。


 骨が砕ける音は、全員に聞こえた。

 これもまた、即死だった。


 ガイルはまたひとつ、石を拾い上げる。

 そして、投げる。


 今度は命中しなかった。

 ターゲットが動き回ったからだ。


 狙われたのだから、避けるのは当然の行動。

 しかし、ガイルは怒り狂った。

 

 なぜ避けるのだ!

 なぜ死なないのだ!


 理不尽だった。


 ガイルは今度は踏み切った。

 そして、石を避けた魔法師に向かって跳び上がった。


「〈魔法の(マジック・ウォ……)


 最後まで言い切ることは出来なかった。


 何度も聞いた『グチャリ』という音がまた響く。

 そして、死体は地面に叩きつけられた。

 ガイルはそれを追うように地面に降り立つ。


 そして、死体に向かって棍棒を振り回した。


 メッタ打ち。

 頭蓋に、腹に、首に。

 棍棒を叩きつける。

 何度も、何度も、何度も。


 その間にも魔法は降り注ぐが、ガイルは無視した。


 ガイルはどう見てもボロボロだった。

 しかし、表情や動きは、それを全く感じさせないものだった。


 ようやく気が済んだのか、もはや単なる肉塊と化した死体から目を逸らした。


「くそっ! なんで死なない!」


 誰かが叫んだ。


 ガイルはもう一度、石を手に取った。


 それはさながら、ロシアンルーレットだった。

 ガイルが気まぐれで指名した1人には、その限界を突破した肉体から繰り出される石が投げつけられ、運良くそれを避けたとしても、先の者のように脳天をかち割られ、死してもなお蹂躙される。


 ガイルはぐるっと魔法師たちを見つめた。

 そして、決めた。


 ガイルの視線の先には、めろるがいた。


「いやぁああっ!」


 めろるはパニックを起こしているようだった。


 ガイルに背を向け、城壁の外へ逃げようとする。

 悪手だった。


 〈飛行フライ〉を使うめろるよりも、跳び上がるガイルの方が速かった。


 殺される——と誰もが思ったが、そうはならなかった。


 ガイルはめろるの髪の毛を鷲掴みにした。


「いやっ! いやぁああっ! やめてっ! いだい!」


 ガイルはそのまま地上に降り立つ。


「グギギギギギ!」


 めろるとガイルは至近距離で目を合わせる。


 それから、ガイルはゆっくりと頭だけを離していく。弓をゆっくり引くように。


 醜悪な笑みは浮かべたままだった。


「ぁ、ぁぁ、いや、いや」


 ガイルは、ゆっくりと、その弓を放った。


 骨と骨がぶつかり合う音。


 頭突きだった。


 めろるは恐怖に顔を歪めて、死んでいった。


「グギャギャギャギャギャ!」


 今日1番の笑みだった。


 めろるが至近距離にいたことで魔法を撃つことを躊躇っていた魔法師たちは、これを期に一気に魔法を放つ。


 魔法師たちは切に願った。


 どうか——どうか、死んでくれ。


 ガイルの状態からすれば、いつ死んでもいいはずだった。


「死ね、死ねぇええええっ!」


 ハルカゼだった。


 めろるに悲惨な死を与えたオークが、許せなかったのだ。


 しかしそれは悪手。


 ガイルはターゲットをハルカゼに定めた。


 ガイルが思い切り跳び上がる。


 ハルカゼは逃げようともしなかった。


石の壁(ストーン・ウォール)


 粉砕。


石の壁(ストーン・ウォール)


 砕け散る。


石の壁(ストーン・ウォール)


 止まらない。


 止まらない。


 止まらない。


 魔法の壁は、三度破られた。


 ガイルは、ハルカゼを殴った。

 明らかに殺害の意思はない。


 そうして隙だらけになったハルカゼの首根っこを掴み、一緒に地上に舞い戻る。


「な、にを、する気だ」


 満身創痍のハルカゼはしかし、反抗的な目は崩さなかった。


 ガイルは左手にハルカゼを、そして右手に、すでに死体となっためろるを持った。


 ハルカゼはここで察した。察してしまった。


「やめろ! やめろぉおっ!」


 右手は、がっくりと項垂れためろるの頭をがっちりと掴む。

 左手は、暴れるハルカゼの頭を圧倒的な腕力で保持する。


 ガイルはまたしても、弓を引くがごとく、ハルカゼとめろるの距離を離していく。

 

 そして、矢は放たれる。


 死しためろるの額と、暴れるハルカゼの額が恐るべき速度で衝突した。


「ぁっ、かっ、かひゅっ」


 ハルカゼは生きていた。


「グググッ! ギギギギッ!」


 ガイルの顔は愉悦に溢れていた。


 今度はめろるの死体を仰向けに横たえる。

 そしてもはや暴れる気力も無くしたハルカゼの頭を、地面に打ち付けるがごとく、めろるの顔に打ち付ける。

 何度も。何度も。何度も。


 打ち付けられるたびに、めろるの顔もハルカゼの顔も醜く歪んでいった。


 やがて、ハルカゼも絶命した。



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