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第73話 大河川の攻防⑦


 致命傷だった。


 だが、フリムは手を止めない。


「〈霜の槍(フロスト・ランス)〉」


 倒れ伏したゴトビキに向かって放たれたその魔法は——ゴトビキに達する前に止まった。


粘体スライム!?」


 叫んだのはフリムではなかった。


 フリムはただ、小さく舌打ちをしただけだった。

 そして、次の行動も早かった。


「魔法攻撃準備!」


 フリムの声に、魔法騎士団の面々が反応する。


「撃てーっ!」


 魔法騎士団員それぞれの魔法が、全てアリスに向かう。


 勝負あったな、と誰もが思った。

 フリムでさえもそう思った。


 しかし。


「ぐ、うぅ」


 アリスは生きていた。圧倒的HPと魔法防御力。単純なステータスだけで、アリスは生き残った。

 スキルや魔法は一切使っていない。


 これが漆黒粘体ショゴスという種族の圧倒的な防御性能であった。


 一瞬、誰もが呆気に取られた。

 否、それは正しくない。


揺れる大地(アース・スウェイ)


森林の力(フォレストパワー)大治癒グランドヒール


濃霧ティック・フォグ


 ソーチ、ポポ、そしてユーライ。

 3人は自分が為すべきことを即座に実行した。


透明化インビジビリティ


 ポポは再び全員に透明化の魔法をかける。


森林の力(フォレストパワー)筋力強化マッスル・ブースト


 そして筋力強化の魔法をユーライにかける。

 ユーライはその意図をすぐに察知した。


 ユーライは腹にアリスとゴトビキを抱えて音を出さないように走り出した。

 ポポとソーチもそれに続いて逃げる。

 

 あまりにも迅速な撤退。


「くそっ! どこに逃げやがった!」

「そう遠くへは行けないはずだ!」

「早く霧を払え!」


 兵士たちからは口々に文句が飛んだ。


「〈突風ガスト〉」


 フリムは魔法で霧を払う。

 だが、そこにはカエルの姿も、スライムの姿もなかった。


魔力探知ディテクト・マジック


 魔力の残穢が見えないか確認してみるが、やはり何も見えない。

 この結果には、フリムも落胆を隠せなかった。

 術者はかなり高度な魔法師であるとフリムは考察した。

 こんなとき、鵜の目のタイガがいれば、と思わずにはいられなかった。


 



「はぁ、はぁ、はぁ」


 ゴトビキはポポの治癒魔法のおかげで、生命の危機からは脱した。

 だが、元通りには程遠かった。

 

 アリスはというと、なんと元通りであった。

 治癒魔法を受けたとはいえ、先の傷を考えれば、これは凄まじい回復力であると言える。

 これもまた、漆黒粘体ショゴスの特性であった。


「それで、どうしますか、これから」


「やはり城壁内に戻るのが一番良いのでしょうが……今の状態では、難しいでしょう」


 重傷を負ったゴトビキ。そしてユーライとソーチ、それにポポも、ほとんどMPは残っていない。

 現時点でこの5人の戦闘力はほぼ皆無である。


「今は休みましょう。最終局面で、必ずもう一度出番は来るはずです」


「……そうですな。一旦私たちは、MPの回復に専念しましょう」





魔蛙トードとスライムを逃してしまったのは痛いが、それはもう仕方がない。戦局から見れば、今の勝利は大きい。このまま国の中に踏み込むぞ!」


 結果的に見れば、今の戦闘で犠牲はなかった。

 誰も死なずに前進できたのだ。

 

 この戦争で初めてのストゥートゥの勝利であると言って良かった。





「ユーライたちはここで戦線離脱。だが、素晴らしい戦果だったな」


「えぇ。まさかあれほど多く殺せるとは……さすがですね、ユーライさん」


「あぁ。ユーライのステータスを一度見せてもらったことがあるが、あれは相当強かった……はずだ。あまり覚えてないけど」


「それに、誰も死んでいないのも大きいわ。きっと最終局面では、もう一度戦ってもらうことになるでしょうね」


「あぁ。ゴトビキには悪いが、もう一度頑張ってもらわなくてはな」


 そう言うと、ミナトはレナに身体を向ける。


「それで、レナ。俺に聞いておきたいことはないか?」


 満面の笑みで問うミナトに、レナの表情は怪訝なものとなる。


「なによ、聞いておきたいことって」


「例えば、あの大虐殺によって、どれくらいレベルが上がったか……とか?」


「……! そういえばそうじゃない! 一体、何レベルになったの?」


「この戦争を始める前の俺のレベルは42。そうだな?」


「いや知らないわよ。いちいちそんなの把握してないわ」


「……それもそうか」


 ミナト自身、レナのレベルを細かく把握していないことを思い出す。


「勿体ぶらないで、教えてよ、早く!」


「そうだな。俺の現在のレベルは、58だ!」


「…………」


「なんだ? レナ。これは凄いことだろう?」


「いや、凄いというか凄すぎるというかキモいというか……」


 なぜか悪口を挟まれたことに納得がいかないミナトだったが、とにかく58というのはすごい数字だ。


「でも、考えてみると400人を殺してレベルが16上がるというのは……どうなのかしら」


「ふむ……たしかに少ないような気がしなくもないな。単純計算で1レベルにつき……」


「25人ね。1レベル上げるのに25人殺さなきゃいけなかったってことになるわ」


「まあ、人間たちの中でも雑魚を殺したわけだから……そんなもんなのか?」


「まぁ、納得するしかないでしょうね。レベルは高ければ高いほど、上がりにくいものよ」


「……そりゃそうか」


 ミナトは納得することにした。


「それで、職業はどうしたのよ」


「あぁ、それなんだがな……どうしようか悩んでいるところだ。今の所、この戦争が終わってからじっくり考えるべきだと思うんだが……」


「何を呑気なこと言ってるのよ。ここからの戦いに備えて、少しでも強化しておいた方がいいわ」


「……そうだな。そうしよう」


 レナの後押しもあり、ミナトは職業を追加してしまうことにした。


「実は、目星はつけてたんだ」


「へぇ、なんていう職業?」


屠殺者カーリー……ってやつだ」


「屠殺者ってまた、物騒な名前ね。でも良いんじゃない? 強そうだし」


「だろう? 悩んでいる時間もないし、ここはこれで決定だな」


 ミナトは屠殺者カーリーを選択し、決定を選ぶ。


「戦闘が始まる前に、この職業の効果を読み込んでおかなくてはな」


 ミナトがそう言ったとき、左前方から轟音が聞こえてきた。

 ガイル率いる豚鬼オークの部隊が奇襲に来た人間たちと戦っているのだろう。


「なんだか私たち、サボってるみたいじゃない?」


 それを聞いて、レナが言う。

 ミナトにとっても、その気持ちはわかった。


「……まあ結果的にそんな感じになってしまっているが、城の入り口を守るのは最重要事項だからな。それに、事情を完全に把握している俺たちでなくては務まらないことだ」


「スケルトンは……見えているんでしょうね。きっと、全ての戦闘が」

 

 根拠はないが、確信はあった。


「だろうな」


 手段はわからないが、あのスケルトンがその程度のことが出来ないはずはない、とミナトは思っていた。


「もしかしたら、この会話も聞かれてるかも」


 レナは冗談のつもりだろうが、あながちあり得ないとも言えないその言葉に、ミナトの背筋が一瞬、寒くなった。


次回、狂気の豚戦士編!

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