表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/99

第68話 大河川の攻防②


「なるほど。考えたな。ユーライ殿」


 素直な感嘆を口にしたのはゴトビキだ。


「風と地震によって橋を徐々に脆くする。そして一度魔法を止めることによってより多数を橋の上へと招く。脆くなった橋はそれだけでもいっぱいいっぱいなのだから、再び地震を起こせば簡単に崩落する」


「ご慧眼、恐れ入る」


「にしても、貴殿の魔法力は卓越しているな。梟鸚鵡カカポの支援があるとはいえ」


「伊達に長く生きてはおらんということです」


「おかげで、私の〈毒霧ポイズン・ミスト〉はほとんど効果を発揮していないがな」


 ゴトビキのこの言葉に、嫌味に似たものは含まれていなかった。かと言って、恐縮もしていなかった。

 ゴトビキ自身、自分がどのような状況の、どのような戦いを得意としているかを理解しているからだ。

 それでいえばこの遠距離戦は、全くもってゴトビキのフィールドではない。

 寧ろゴトビキの魔法は、近距離でこそ真価を発揮するのだ。


 ユーライやゴトビキがいる場所からは、先ほどのように〈毒霧ポイズン・ミスト〉と〈気流操作コントロール・エア〉を組み合わせるなどをしなければ敵まで魔法が届かない。


 〈ディザスタ〉のような魔法は例外であると言っていい。

 それは当然あちら側からも同じで、ここまで届く魔法があるとは考えづらい。

 となれば一旦の休息に入るべきだと、ユーライたちは判断した。

 ユーライ以外にはほとんど疲れは見えないが、ユーライが主戦力なのは言うまでもない。


透明化インビジビリティ


 だがらポポは再び2人を透明にした。


 ユーライはしばしの休憩だ。


「さて、今度はお手並み拝見といこうか」


 ゴトビキは前方に微かに見える茶色がかった陽炎を見て言った。





(さて、今度は僕の番かな)


 決死の思いで大地に降り立った兵士たちを見て、ソーチは思った。


地盤泥化マッドライズ


 まずは地面を泥にする魔法。全く身動きが取れないということはないが、訓練された兵士であっても、鈍化と消耗は免れない。


眷属召喚サモン小精霊エレメンツ


 ソーチは最近取得した精霊使いという職業の専用スキルを発動させた。

 このスキルは5体の小精霊エレメンツを召喚するというもので、それぞれが手助けをしてくれる。


 ソーチが土の精霊(アース・エレメンタル)であるからして、召喚されたのは土の小精霊(アース・エレメンツ)である。


砂嵐サンドストーム


 次に視界を限定させる。

 足元がおぼつかない中、視界も妨げられたとなれば、当然兵士たちの足はより一層重くなる。


 さらに、〈砂嵐サンドストーム〉には別の効果もあった。 

 茶色がかった幽体をもつソーチにとって、砂嵐はこれ以上ない隠れ蓑だ。

 ソーチの経験上、これをすればまず見つからない。見つからないとなれば、やられることは絶対にない。

 これはソーチが編み出した、まさしく『必勝法』であった。


「くそっ! 今度は一体なんなんだっ!」

「近くに術者がいるはずだ!」

「とにかく砂嵐を抜けるんだ!」


 兵士たちは口々に叫ぶ。


礫砲グラヴァル・キャノン


 今度は大量のつぶてを散弾銃の如く射出する魔法が兵士たちを襲う。

 小精霊エレメンツたちもソーチに倣って魔法を発動させる。当然ソーチのものより効果は低いが、それでも無視できない痛みを与え、場合によっては死に至らしめる。


礫波グラヴァル・ウェーブ


 それでもソーチは手を止めない。


 地面が盛り上がったかと思えば、それが波の如く兵士たちに襲いかかってくる。


 もはや兵士たちに打つ手はなかった。





「今度は砂嵐だと?」


 まだ川を渡っていないクルディアスは、対岸で起こっている惨状を見て言った。


「問題は、術者が見当たらないことです。この魔法も先ほどの百足センチピートのものというのは考え辛いでしょう」


 レリウスが言ったことは、まさしく正論であった。


「ヨークを呼べ」


 クルディアスがそう返すと、レリウスは返事もせずに行動を開始した。

 

20秒と待たず、レリウスはヨークを連れてきた。


 『鷹の目』のヨーク。

 スキルと先天的な特性により常時底上げされた視力を持つ。偵察などの際には『鵜の目』のタイガと並んで重宝される、ストゥートゥの『目』である。

 そしてその鵜の目のタイガは先の百足人センチピートマンとの戦闘で殉職している。

 互いに切磋琢磨してきたヨークにとって、これは弔い合戦でもあった。


「術者のことですか」


 前置きも挨拶もなく、ヨークは本題に入った。

 ここに呼ばれた時点でどのような話なのかは想像がついていた。

 クルディアスは、ヨークのこういうところが好ましいと思っていた。

 物事の優先順位を誤らない男なのだ。


「そうだ。見えないか?」


「えぇ。私の『眼』を持ってしても、見当たりません」


「そうか。砂嵐の中もか?」


 通常であれば、決して近くはない砂嵐の中から術者を見つけるなど不可能である。

 だが、ヨークにはそれを可能にする絶対的な視力があるはずだった。


「えぇ。間違いなく、()()()ありません」


 含みを持たせたヨークの言い草に、一瞬首を捻りかけたクルディアスだったが、すぐに得心がいった。


「なるほど……術者は幽体、もしくは霊体の可能性がある、と言いたいんだな?」


「その通りです」


 ヨークが持つ能力は、『どんなに遠くであろうと、小さくあろうと、見えるものを見逃さない』という能力であり、決して『見えないものを視る』能力ではない。

 単純な視力を徹底的に底上げした能力が、ヨークの『眼』である。


 それと対照的だったのが、タイガの眼であった。

 タイガは、魔力の残穢を見逃さない。

 そこに魔法的因子をもつ『何か』があれば、それを見逃すことはなかった。


 クルディアスは奥歯をギリギリと噛んだ。


「今魔法師騎士団の中で1番高度な〈魔力探知ディテクト・マジック〉を使える者は誰だ」


 苛立ちを隠せずに問う。

 ストゥートゥの軍の編成は、歩兵600に魔法師兵200。あとの200は第一、第二騎士団を合わせて150名と、魔法騎士団の50名。


 最初に橋に突撃したのは魔法が使えない歩兵たちなので、魔法を使えるものたちの消耗はない。

 だが、逆に言えば既に歩兵のほとんどを失っているということだった。

 クルディアスの試算では、ここまでの犠牲は500。そのほとんどが歩兵のものたちなのだ。

 いざとなったときにどの部隊を優先して生かすかといえば、優先度が高い順に、第一騎士団、魔法騎士団、第二騎士団、魔法師兵、歩兵となる。

 つまりストゥートゥからすれば、雑に使っていい、いわば『捨て駒』がほとんどなくなってしまったというわけである。



 クルディアスの問いに対する答えは、レリウスからでもヨークからでもないところから返ってきた。


「見ましたか!? 大将」


 青髪の女だった。


「フリム」


 クルディアスはその名を口に出した。


「『視えた』のか、フリム」


 ヨークの言葉だった。


「はい。敵は幽体……それも、精霊エレメンタルである可能性が高いです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ