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第66話 開戦

「それではこれより、魔物の国へ向かう」


 宣言したのはクルディアスだ。協議の結果、クルディアス率いるストゥートゥの兵士1000人は正攻法、つまり正面から戦線を押し上げる役目。

 羅刹天とKKはそれをサポートし、ギャングエイジは独自で遊撃の役割を、スカイアイをはじめとする〈飛行フライ〉の魔法が使える者たちは城壁内に侵入して奇襲を仕掛ける、ということになった。


「いよいよね」


「ああ」


 大群の最後方に、レオンとミリナはいた。


 2人は、他の者たちとは違う役割と使命を持ってここにいる。

 

「これは俺の直感だが……魔物の親玉は、あのムカデだ」


 これは本当にレオンの直感だった。だが、それは確信にすら近かった。


 ミリナは何も言わなかった。

 ミリナはあの日の悪夢を断ち切るためにここにいる。

 

 静かな決心だけがあった。

 レオンには、燃え盛る復讐心があった。

 相反していた。しかし、同じ思いだった。



 

 決戦当日。


 レナを除く8人、そしてオークの戦士30人程がこの国の門の前に集っていた。

 レナはというと、現実世界でウイングの配信に張り付いている。ウイングはどうやら上空からリアルタイムで羅刹天たちを追っているらしい。

 タイミングを見てレナもログインし、本格的な戦争を始めることになっている。


 具体的には、大河川を渡っているタイミングで、攻撃を仕掛けたい。

 1200人という大群が川を一気に渡ろうというのだ。方法は不明だが、ここを叩くのは有効と見ている。

 ただ、大河川を戦線として固定し続けることは難しいだろう。数に差がありすぎるのだ。地形の利はあれど、押し込まれることは想定している。


 難しい顔でそんなことを考えていると、目の前にバッタの顔が飛び込んできた。


「そろそろ準備しましょう。ゴトビキさん、ユーライさん、ソーチさん、ポポにアリス」


 第一声はこれだった。


 ゴトビキはそのカエルの口角を釣り上げ、ユーライは穏やかに一礼した。『ホー』とポポはひとつ鳴き、アリスは緊張を隠せず、ソーチは至って冷静に返事をする。


「それでは、行ってまいります」


 先導するのはユーライのようだ。


「全員、生きて帰って来い。勝つために。それが必要だ」


 ユーライは再び一礼すると、ゴトビキ、ソーチ、アリス、そしてポポを引き連れて、門を出た。





「それでは、ガイルさんたちは国の中心にある広場で待機してください。如何なる者でも、城壁内に侵入して来たら叩き潰してください」


 俺の言葉に、ガイルは異常なほど口角を釣り上げた。


「まか、せろ」


 それだけ言うと、ガイルはオークの戦士たちを引き連れ、広場に向かった。


 残ったのは、俺とレナとロイだけになった。


「いよいよね」


「あぁ」


「結局『あの話』はしてないのね」


「していない。現時点では、俺とレナとポポしか知らない」


 2人の会話を聞くロイは『なんのことですか?』とでも言いたげな表情をしている。


「ふーん。でも、決行するんでしょ?」


「そのつもりだ」


「なら、なぜ言わなかったの?」


「必要がないからだ。無理に期待をさせてしまっては、失敗に終わったときに精神的なダメージがあるだろう」


 レナはじーっと俺を見つめた。


「……ま、それはそうかもね。でもいいの? 急に敵の兵士がバタバタと死んでいったら、それこそ混乱を招くんじゃないの?」


(敵の兵士が死んでいくって、一体どういうことでしょう?)

 

 ロイはそう思ったが、とても口を挟める空気ではなかった。


「そこは問題ないだろう。幸い、ユーライたちはソーチのことをよく知らないし、ソーチはユーライ達のことをよく知らない」


「……なるほどね。ユーライさんたちはソーチの魔法だと勘違いするし、ソーチさんはユーライさんたちの魔法だと勘違いする……ってわけね」


「そういうこと。ソーチだけは別行動だからな。変な混乱も起こらないだろう——さて」


 たった今、ポポから情報が入った。


「遂に、奴らが大河川を渡ろうとしているようだ」


 レナとロイにも、緊張が走る。


「どうやら、魔法によって簡易的な橋を作って渡ろうとしているようだ」


「へぇ……でもそれって……」


「あぁ。好都合だな。無論、俺たちにとって」





「橋……ですかね?」


 口(はないのだが)を開いたのは、〈透明化インビジビリティ〉によって透明になったアリスだった。


「おそらくは」


 ユーライが答える。


「〈飛行フライ〉などで飛んでこられては厄介だったが……橋を渡ってくるのであれば、密集したところに魔法をズドン! だな」


 ゴトビキが言う。


「ですな」


 今は全員が〈透明化インビジビリティ〉によって不可視の状態となっているが、魔法を放てばそれは解かれる。だから兎にも角にも最初の一撃で最大の火力を出すことが求められる。


 何人かの魔法師の詠唱によって、徐々に橋が形作られていく。


「ふむ……なるほど」


 ふとユーライが溢す。


「何かあったのか」


 反応したのはゴトビキだった。


「どうやらこの橋は、短時間で全員が渡り切ることに重点をおいて作っているようです」


 そう言われて、ゴトビキがそれに納得したように頷く。


「確かに……そう見るのが妥当だ」


「どういうことでしょう……?」


 アリスにはわからなかったようだ。


「なに、簡単なことです。彼らはここでどのような橋を作るべきなのか。選択肢は2つ。ひとつは、多少強度を落としてでも大きな橋を作り、短時間で全員を向こう岸に届ける方法。もうひとつは横幅を狭めてでも強度を高め、時間がかかってでも安全に渡りきる方法。彼らは前者を選んだというわけです」


「……なるほど。つまり……?」


「『橋』そのものにも、付け入る隙があるということですな」


 言い切ったそのとき、橋は完成を迎えたようだった。


「さて」


 ユーライは言った。


「ホー」


 ポポが答えた。


森林の力(フォレストパワー)魔法力超上昇マジック・ブースト・アップ


 ポポが魔法を発動させた。


 大河川では、続々と兵士たちが橋を渡り始めている。


「始めましょう」


 ユーライのオーラが一気に変わる。

 戦士のオーラ。つわもののオーラ。


「〈ディザスタ〉」


 ユーライは自分が持つ最も強力な魔法を発動させた。


 それは両者にとって紛れもなく、開戦の合図であった。



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― 新着の感想 ―
ここまでにも何箇所かあった「口」に対して「はないのだが」ってルビを振ってあるような表現はどんな効果を狙っての事かわからないけど読みにくいだけだからやめてほしいです
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