第65話 決戦を前に②
昨日と一昨日は、戦争に参加する魔物たちと作戦を詰めたり、参加しない魔物たちに避難経路を説明したりと、なかなか大忙しな2日間だった。
そして今日。
遂に猶予はこの1日だけとなった。
『羅刹天たちはアルクチュアで1泊してから攻めてくる』という予測や、『ストゥートゥの軍も参戦する可能性がある』という推察は見事に的中した。
その辺りの情報はほとんど『ウイング』とかいう配信者から得ている。
ウイングも、まさか魔物側にまで見られているとは思っていないだろう。現在一般プレイヤーに公開されている情報は、魔物の国を滅ぼしに行くということだけで、その中にプレイヤーが混ざっていることは知らないのだから。
俺たちは現在、城の会議室らしき部屋で机を囲んでいた。
メンバーは、俺、レナ、アリス、ロイ、ポポ、ユーライ、ゴトビキ、豚鬼の族長(ガイルと名乗った)、そして——
「初めまして。ソーチといいます。精霊です。どうぞよろしく」
少し前に合流したばかりのソーチもいた。
ソーチの存在は、目を凝らしてようやく認識できる。周りの空気と比べて若干茶色がかっていて、陽炎のように揺らめいている。
存在を認識しなければPNも表示されないので、味方である俺たちも注意を払う必要がある。
「……さて、ソーチの紹介は済んだところで、いよいよ戦争は明日——ああいや、明後日に迫った」
明日なのは現実での話で、ゲーム内の時間でいうなら明後日だった。
「改めて作戦を詰めようと思って、今日はみんなに集まってもらった」
見渡せば、全員が頷くようにして俺の次の言葉を待った。
「まずは状況の整理から。相手は羅刹天が主体となって集めた4つのギルド、総勢200人とストゥートゥの兵士1000人」
これらは全てウイングとかいう胡散臭い配信者から得た情報だが、今はそれを信じる他にない。
「対する俺たちは、ここにいる9人の他には、豚鬼の部族の戦士が30人ほど……だったな? ガイルさん」
「その、とおり」
豚鬼たちはあまり流暢に言葉を紡げず、知能もそれほど高くない。とは言っても、味方を攻撃したりはしないし、今自分たちが置かれている状況を理解することは十分できた。
愚直に行動してくれる分、中途半端に知恵が働くより良いとさえ思っている。
「つまり、俺たちは圧倒的に不利な状況で戦うことを余儀なくされている。この認識は全員が共有しておかなくてはいけない」
出来ることはやった、という自負はあるが、1200対40では文字通り『桁が違う』。
「城壁を突破されれば、中の不死者たちは人間を攻撃してくれると思うが……期待はしないほうがいいだろうな」
「……そうね。戦闘力ではストゥートゥの兵士にすら、遠く及ばないでしょう」
「唯一俺たちに有利な点があるとすれば、籠城戦であるということだ。それを活かして戦う他ない」
ガイル以外の7人が頷く。
「まずはソーチ。仲間入りして早々で悪いが、最も重要な役目を与えさせてもらう」
「大丈夫」
ソーチの返答は澱みなかった。
「ソーチは足止めをお願いしたい」
「……なるほど」
ソーチは納得したようだった。
「ソーチの種族名は正式には土の精霊。土を操る魔法を得意としている。だったな?」
「その通りだよ」
「最早方法は問わない。地盤を沈下させるなり、地面を泥に変えるなりしてくれて構わない。とにかく、奴らの……1200人の行進を遅延させて欲しい」
「……わかったよ。それは僕の得意分野だからね」
「ありがとう。そしてその間に、ゴトビキとユーライが魔法で攻撃をする。出来れば範囲攻撃が望ましいな。少しでもここで頭数を減らしたい」
「お任せください」
「うむ」
「そしてその2人を、アリスが護衛してほしい」
「じ、重大な任務ですねこれまた」
「数で圧倒的に劣っているからな。重要でない役割を与える余裕はない」
「了解、です」
アリスも決心したように頷く。
「そこにはポポも加わって欲しい。ゴトビキとユーライへのバフはもちろん、アリスへの回復も頼みたい」
「ホー!」
ポポは嬉しそうに鳴き、体を左右に揺らす。
「そして豚鬼の部隊は城壁の中で備えておいてほしい。どんな奇襲があるかわからないからな」
「ぬん。われらは、戦わないということか」
ガイルはやはりというべきか、不満そうな声を挙げた。
「そんなことはありえない。断言できる。遅かれ早かれ、君たちにも戦ってもらうことになる」
「なら、いい」
ガイルは思いの外あっさりと引き下がった。
「最後に——俺とレナとロイは、城の前に残る」
一瞬のざわめきがあった気がした。
「理由は、あるのだな?」
これはゴトビキだ。
「ある」
きっぱりと俺は答える。
「ならよい」
『俺たちは戦闘に参加しない』とも取れる俺の宣言だったが、ゴトビキはあっさりと引き下がった。
「い、いいのか?」
「考えあってのことなのだろう。疑ってはおらんし、そういう段階に、我々はいない」
ゴトビキの言わんとすることは理解できた。ここでこの仲間を疑うようなことをしていれば、勝ち目はない。そういう隙が少しでもあれば、まず勝てない。土俵にすら上がれない。
「感謝する」
俺は頭を下げた。
*
会議が終わった後は、NPCたちをプレイヤーのパーティに入れる作業を行った。蝿の部族を除けば40人ほどなので、容易に全員が収まった。これでNPCが生き返らないということはなくなった。
だが、死亡すればこの戦闘にはもう参加できない。実質的に、今回会議に集まった9人が最終局面まで死なないことは、勝利への必須条件だった。
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