六話
「うんうん。ミツハちゃんは何を着ても似合うけど、侍女の格好もすっごく素敵だよ!」
普段の下働きの服装よりも少し畏まった装いをしたミツハをしぶきは褒めちぎった。
しぶきに同意するように伊織も大きく頷く。
「はい! もう少し華美にしても良いと思います!」
「やっぱり? じゃあ帯留はこっちを使う?」
「それ良いですね~」
しぶきと伊織は、まるで以前から知り合いだったかのように意気投合しミツハを着飾っていた。
事の発端は信康の「身綺麗にしろ」という一言から始まった。勿論、この言葉にしぶきはブチ切れ叱責した。そして渓谷は仁王立ちで信康の前に立ち塞がり厳は指の関節を鳴らした。何故ならミツハに向けられたものだったからだ。信康的には身分が上がったのだから侍女らしく振舞えという意味だったのだが、しぶきたちには汚れているから体を洗え的な女性にとって失礼極まりない発言に聞こえたのだ。
ちなみに伊織には「化粧ぐらいしろ」という意味に聞こえ、化粧道具どこに置いたかな? と記憶を巡らせていた。
そんな経緯もあり、お洒落好きのしぶきと生物学的に女の伊織でミツハの服装を物色中なのだ。
「最近は裏地にも力を入れるんですね~。私は流行に疎いので助かります」
「え~!? もったいない! 女子に生まれたんだから、 それを最大限に活かさなきゃ! 陶器のように白い肌と艶のある髪が泣くよ」
「特段、手入れしているわけではないんですが……」
伊織は首を傾げた。思い当たる節が無い。しいていえば、肌が白いのは単に外出しないだけで髪に艶があるのは機械いじりの際に付着した油のおかげだろう。本人は全く努力していないのに思わぬ副産物のおかげで女が保てているとは……。
コホン、としぶきが声色を変え、畏まる。
「なら、今日から心を入れ替えてもらいます。せっかく大奥に来たんだから、存分にお洒落をしてもらいます。朝晩、手入れを欠かさず昨日よりも美しい自分なるために! そう! 大奥のお金を使って!!」
力強く握りこぶしを作って演説するしぶきに拍手が送られた。
「確かに、ここには最上級の商品が集まりますからね~」
渓谷がお茶を飲みながら、しみじみと告げる。数週間前に令子が大量に着物や化粧道具を買い付けて信康と喧嘩していたことを思い出す。表向きは側室を迎える準備としてだったが、伊織に割り当てられた部屋(元物置部屋)には見当たらない。おそらく令子や女中たちの懐に収まっているのだろう。オマケという曖昧な立場を大いに利用して広敷用人として女中たちの部屋に入ることも出来るが、そこまでして確認する必要もないだろう。あとで盗んだと言われるよりも、破棄した物から状態の良いものを選んで身に着けていた方が同情で悪く言われないはずだ。早々に退出した信康が悪いのだからミツハのために財布として利用させてもらおう。
「年頃の娘さんらしく過ごしてもバチは当たらんじゃろ」
厳も同意し、みんなでミツハの新しい境遇を応援した。