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十三話
嫁いだ女性に課せられる役割は二つ。
一つは子孫の繁栄。
もう一つは監視及び諜報だ。
女は政治の道具として扱われ自身の意志を持つことは許されなかった。それは将軍家だろうが小国の姫であろうが同じだった。
武家の頂点である将軍家に生まれた松平令子は蝶よ花よと大切に育てられた。そして、どんな我儘も大抵、叶えてもらっていた。
だが、令子は知っている。
自分の我儘を叶えてくれているのは父の家臣であって、父では無い事を。父はただ、命令しているに過ぎない事を。
兄や弟達のように父と一緒に居たくて政治を勉強しても女には必要無いと言われ、築きあげてきたものが一瞬で無用の長物となった。
どうして? 何故? と自問自答する毎日を過ごさなければならなかった。
自由なのに退屈。
何もかも満たされているはずなのに、どこか渇望している心。
そんな時に心に響いた言葉。
『知りたいと思う事は悪い事ではない』
変声期前の少年独特な声で語られた言葉は令子の指標となった。
数年後に再会した初恋の「彼」は私の監視対象となった。