6.能力組手
「今日も一段と気の抜けた顔してるな」
眩しいまでの爽やかな笑顔で、ギーは話しかけてきた。
ギーは人気だ。
明るい性格も去ることながら、その甘いマスクによるところも大きいだろう。
クラスカーストで言えば間違いなくトップだ。
「昨日は大変だったからな」
「えー。気にも鬼気、龍気、覇気などの様々な種類があり相性があるのは、みんなも知っての通りだが、実は魔力にも種類がある。火や水などの属性ではなく、ここではみんなが知っているものより、さらに細分化されたものであり――」
魔力教諭が長々と話している中、ギーは俺の顔しか見ていない。
こいつの辞書には授業の文字はないのか。
巻き込まれる俺の身にもなってほしい。
長い話が終わり、次の授業は魔力、気、異能力教諭の揃った、一年生全四クラス合同の実践訓練だ。
なかなかこんなことは珍しいのだが、それには訳がある。
「二週間後から特区祭が始まります。皆さんご存知の通り、魔法部門、気部門、異能力部門、総合部門に分かれ、さらに戦闘部門と演習部門に分かれます誰がいくつ出ても良いですが実力が伴わないと怪我をします。そのため――」
気部門の教諭が丁寧な説明をしているが、要するに、この島全体の学生が参加する大掛かりな祭が開催されるのだ。
それも二週間後から。
「レイス、お前は何か出るのか? 今年の覇王ゲームは水空竜のコアが達成賞品らしいぜ」
出店や戦闘だけではないのが、この祭のすごいところで、学校対抗の競技もありその種目も多岐にわたる。
そして、その結果で予算が変わってくる。
覇王ゲームというのは、総合部門のことで戦闘、運動、頭脳に分かれる多数の種目全てを一位にならないといけないというものだ。
ちなみにこれを達成した者はいない。
その他にも、文化系の学校による発表会などの催しもあり、それにも序列がつく。
それが二週間にかけて開催される。
この二週間で次年度の島の予算が全て決まる。
そう言っても、過言ではないのだ。
驚くことに、この二週間の観光客に関しては百万人にも登るらしい。
「俺は参加しないかな。今回も見学しとくわ」
去年は勝てるはずもないため、もちろん不参加であり、出店を回っていたことと食べ物を食べながら、各競技を見回っていた記憶しかない。
「クラス番号順に並んで待機しろ。組分けが決まったら能力組手を始める」
この訓練においては、相手に傷を負わせても治癒能力者もいるため、致命傷を負わせない程度に止める。
「俺の相手はレムレイか。俺はお前のことは嫌いじゃないが、悪く思うなよ」
すでに訓練を始めている所もあり、戦闘方法は様々だった。
周囲のグループを気にせずに、火や雷などの魔法を連発する者や気を使用して剣を交える者、異能力での空中戦、ただ目の前で突っ立って心理戦のようになっているグループすらあった。
他グループの訓練の様子を見るのは、良い勉強にもなるし楽しかった。
しかし、そんな悠長なことは言ってられない状況だ。運の悪いことに俺の相手は、学年主席のニブ・バイスなのだ。
全能力がトップクラスであり、糸を自在に操る異能力を持っている。
訓練が始まると、一方的だった。
能力の反動がある今、俺がニブに対抗する手段はなかった。
「クソ」
この状況では反撃をすることすらままならない。
それでもニブは攻撃をやめない。この訓練自体が、そうさせない訓練であるからだ。
「悪いがそろそろ終わりにさせてもらうぜ」
俺の体には、徐々に複数のアザと切り傷がつく。
そして、俺は意図せず覚醒してしまうことになった。
今回は少ない状態異常ながら、これまでの覚醒以上に力が湧いてきた。
負けるな。
そう、頭の中に響き、新たな覇王の制約を知る。
それは――勝負に敗北すると死ぬ。
重すぎる制約だった。
しかし、今の俺は負ける気がしなかった。
相手がニブにあるにも関わらずだ。
「それはこっちのセリフだ」
「お前、急になんで?」
俺を縛っていたニブの異能力である糸が、ニブの四肢に絡まっている。
これは昨日の魔力操作の応用で、ニブの糸に魔力を送り込んで上書きし操った結果だ。
「これで俺の勝ちだな」
「そこまで。今日の訓練は終了する」
このまま続けているといつかぶっ倒れそうだ。
いつもぶっ倒れてはいるんだが。
「命拾いしたな」
「負けたよ。見下して悪かったな。こんなに強いのになんで今までやられっぱなしだったんだ?」
「色々事情があるんだよ」
覇王の力は、反動が大きいから使い続けるのにも限度がある。
「今回は勉強になった。また訓練しような」
「そんなものは願い下げだ」
ニブの真っ直ぐに見つめる緑色の瞳を見て、案外悪くないやつかもしれないと感じた。
そしてニブとの訓練によって、新たな課題が浮かぶ。
肉体訓練や魔法訓練で基礎能力を底上げすることだ。
この調子で覇王の力を使い続けると体に毒だ。
毒の状態異常も寝れば回復するが、それもタダではない。
内包した体力を担保にしている。
体力がゼロになれば回復はしないのだ。
今のレベルの使い方なら問題ないだろうが、これを使い続けていればそう長くは持たない。
ニブの手を離し、校舎に戻ろうとしていると、周囲が俺とニブの戦闘を見ていたようでざわついていた。
「ご主人様はやっぱりすごい!」
ルミは自分の戦闘をよそに、俺とニブの戦闘を見に来ていたようだ。
周囲の人間もそれに近いようで、無傷のものが大半だった。
そしてルミの称賛と共に、それに合わせて拍手が巻き起こる。
しかし、そんなこともお構いなしに、俺の体は限界を迎えた。
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