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5.黒い結晶


「レイス、昨日はやったみたいじゃないか! やる時はやるんだな。すごいぜ」



 ギーは、俺と目を合わせると一目散に抱きついてくる。


 昨日の能力使用の反動が抜けない、酷い状態の俺には荷が重い。



「何の話だ」



 いいから早く離れてくれ。



「昨日の魔物だよ。あのデカいのお前が倒したって聞いたぜ?」



「まあな」



 ギーは興奮したようにまたもやひっついてくる。


 そんな仲ではないし気味は悪いが、一緒に喜んでくれることに不思議と笑みが溢れた。


 そうこうしているうちに学園に着き、教室へと入る。



「お前、昨日あの強い魔物を倒したってほんとか?」



「ああ」



 誰が言ったかわからない言葉にそう返す。



「ご主人様、昨日はありがとう。あなたがいなかったら私は無事ではなかったわ」



「ルミがお礼を言ってるってことはやっぱり本当なのか。すげー」



「ご主人様ってなんだ?」



 そうクラスの中で次々と称賛の嵐が巻き起こり、嬉しいが居心地の悪さを感じた。


そんな中、



「俺は認めねー。そいつが倒した証拠なんかねーだろ。何の能力も持たない無能が勝てるわけねーよ」



 椅子を蹴飛ばしそう怒鳴るのは、ブリンク・ケルツ。


 ケルツが怒鳴るとクラスは静まり返り、いつものように俺は空気のように戻った。


 その後も特に変わらずギーのみと話していると、



「そういや話さないといけないことがあるんだった。例のアイクちゃん薬の件だ」



 これは学園で唯一信用出来るギーに頼んでいたことだ。


 妹の病気についても話してあり、顔も広い。


 極めて稀な妹の病についてはまだまだ謎も多いため、少しでも多くの情報が欲しい。



「本当か?」



 その情報に対しては過敏でありがっついてしまうが、ギーはそれにも構わずに続ける。



「これには例の組織……メーレーンも関わっているんだ。危ないことに関わってほしくはないが、一応耳に入ったから伝えておく。叡智の結晶だと言われている秘薬で、なんでも黒い結晶らしい」



 メーレーンとは、特区では最も危険だと言われている組織。


 その構成員の顔を見たら最後生きては帰れないとすら言われている。


 そのメーレーンのメンバーの一人が、叡智の結晶の取引をする密会する場所と時間を教えてくれた。



 放課後になり、先日訪れた港近くの倉庫に着く。


 奇しくも、ここが薬の取引場所に選ばれたようなのだ。



「きゃーっ。急ブレーキはやめてくれない?」



「何でギーまで……。それと、その子は誰なんだ?」



 なぜかギーもここに来たようで、バイクの後ろには長身で黒髪ショートの女性がいた。



「来てやったぜ。こいつは隣の学校の同い年の女だ。前にちょっと知り合ったんだが、今回の情報はこいつからのものだ」



「ノア・ナルビンよ。ノアと呼んでちょうだい。私の異能力は隠密に長けているの。あと幻惑の魔法も使えるわ。私がいればあなたの助けになるかと思ってついてきたわ。よろしくね」



 ノアは特徴のない大人の女性といった印象だ。特徴がないくらいに全体的に整っている美人というやつだ。


 ノアがよろしくと笑みを浮かべ、手を出してきただけでドキッとしてしまう。


 第一印象は冷ややかな印象であったが少し微笑むだけで、人を惑わすこれも異能力ではと疑ってしまう。



「俺はエンレム・レイス。レイスがファーストネームだ」



 ノアの手を握りそう返す。



「ニヤついてないで目的を思い出せ」



「ニヤついてねーよ」



 倉庫の物陰に隠れて待っていると、黒髪に仮面を付けマントを羽織った男と白衣を着た老人が現れた。


 数ある倉庫の中で偶然にも、俺たちが隠れる倉庫の前まで近付いてくる。


 あまりにも近くまで来たために、俺とギーの二人は立ち並ぶ箱の間に敷き詰められるように隠れることになってしまう。



「ギーもう少しそっち寄ってくれ」



「もう無理だ。お前こそそっち寄れ。限界だ」



「二人とも静かに」



 ノアは隠れてはいるが、見たら分かるような場所にいるが隠密補正によるものか、これでも見つからないらしい。


 老人は倉庫の中の木箱の一つを持ち上げ、仮面の男に渡す。



「これが例の薬じゃ」



「中身を確認させてもらう」



「それにしてもこんな物を何に使うのじゃ?」



「余計な詮索はよせ」



 木箱の中身を確認したのか、仮面の男は木箱を閉じて木箱を一瞬にして氷漬けにした。



「レイスちゃん、そろそろ限界……はぁん」



 そんな気色の悪いことを呟きながら、よろけるように覆い被さって転けてくるギー。


 こんな時に冗談はよしてくれ。



「そこに誰かいるのか?」



 声を荒げる仮面の男。


 しかし、ギーはそれに構わず口付けしようとしてくる。



「おい、何してるんだよギー。早く離れろ」



「わりぃ。足が限界で肉離れ起こしそうだったんだよ。このままだとまずいからカップルのフリした方がいいかなと」



 顔を赤らめるギーの顔に一撃お見舞いして引っ剥がす。



「通用するわけねーだろ!」



「お前たち、ここから逃げられると思うなよ」



 弁明は許さないとばかりに、仮面の男はこちらに手をかざして俺とギーの交互に氷の弾丸を撃ってきた。


 速度こそ遅いが、地面が徐々に凍結していく。


 そして、何度目かの氷が放たれた時、地面が滑り転倒した。



「あら、大丈夫かしら?」



 幸か不幸か、ノアの隠れ場所だった。


 俺に話しかけたことにより、ノアも認知されたことだろう。



「ああ。大丈夫だ」



「レイスくん、私の幻惑の魔法の発動条件を伝えるわ」



 ノアの幻惑の魔法は、相手の魔力が自分に付着していること、それと相手に触れることだった。


 相手の魔力に関しては、辺り一面氷になっているわけだから問題ないとのこと。


 あとはノアが仮面の男に触れるように誘導することだ。


 幸いにも、仮面の男は俺たちを格下と見ているようで一歩も動いていない。


 逆に言えば、相当な実力者であることには違いなかった。



「三人もここに隠れていたのか。じいさんの差金か?」



「と、とんでもない」



「まぁ、ネズミが一匹増えたところで問題ない。すぐに片付ける」



 仮面の男は氷の魔法に加え、風の魔法で射出するような形で速度を上げてきた。



「クソ。これじゃ近付けねー」



「レイス、何か方法はないか?」



「よし、あいつにギリギリまで近付いて俺が合図をしたら異能力を使ってくれ」



「了解」



 俺は指の爪で腕を掻き切り、ズボンのポケットに忍ばせていたヤヲグルの果実を一噛じりする。


 昨日は気で殴打。


 今回は魔力を試したい。


 倉庫の中で使える魔法はせいぜい風や氷くらいか。


 だがおそらく相手の実力を鑑みるに氷のスペシャリスト。


 そんな相手に風も氷も素人のものでは太刀打ち出来ない。


 魔法とはそのものを理解している必要があるからだ。


 ならば、魔力そのもので拘束する。


 扱いは難しいが知識は不要。幸いにも短時間の拘束で良いらしい。



「ギー、俺に使ってくれ」



「おい、お前に使うのかよ。大丈夫か?」



「早く」



 ギーの異能力によって、俺とギーの位置を交換される。


 そして俺は魔力の奔流を制御し、仮面の男を覆う。


 仮面の男も焦ったのか、ついに動き出したがすでに俺の魔力は仮面の男を包囲していた。



「これはなんだ?」



 そして魔力を糸状にして四肢を拘束する。


 仮面の男は魔法に特化しているのか、抵抗力はそこまで強くはない。


 あとはノアが相手に触れれば終了だ。



「ノア、今だ」



 ノアは走って仮面の男に近付き、首元に触れた。


 幻惑の魔法が効いたのか、仮面の男はそのまま薬を受け取ったと錯覚したように近くの木箱を持ち、そのまま去って行った。



「終わったようだな。レイスお前すごいな。何かあるとは思ってたがまさかここまでとは」



「そうね。機転もそうだけどあの魔力の制御も尋常じゃないわ」



「俺一人じゃこうは行かなかった。二人ともありがとう。それにしても何か呆気なかったな」



「これが結晶ね。結晶というよりは炭か何かに見えるわね」



「それは即効性の麻痺効果が見込める麻酔の原料なんだ。なんで君たちに必要なんだ?」



 戦闘には一貫して傍観の姿勢を見せていた老人が話し始める。



「麻酔か。麻薬のような目的で売買していたのかもな。レイス、残念だったな」



「そうね。これなら必要なさそうね」



「いや、これを少し分けてくれないか?」



 俺は今も毒に蝕まれている。


 今は覇王のちからによって持ち堪えているがこの状態もそう長くは続かないだろう。


 毒は反動が大きい。


 この麻痺薬なら毒に代わる使い方を出来そうだ。



「これはもう君たちのものだ。わしももう組織とは関わるつもりはないから好きにせい。それは木の塊のようなもので削って粉にして、水で薄めると百回分くらいは使える」



「失礼ですが、あなたの名前を伺えないでしょうか? どこかで見覚えがあるのですが」



「今はただの老人ゾルとでも呼んでくれ」



 こうして老人――ゾルはキザな、無駄に格好をつけながら、手の甲を向けながら軽く手を振った。



「あっ。思い出したわ。あのおじいさん、今朝私のお尻触ってきた人だわ」



 ノアのそんな気の抜ける言葉を聞くと同時に、俺は意識を手放した。


「面白い!」「続き読みたい!」など思っていただけた方は、ブックマークや、広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、応援よろしくお願いいたします。


作者のモチベーションも上がり、とても喜びます!


よろしくお願いします!



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