表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/63

3.魔物討伐訓練


「この訓練では、ニ人一組で魔物を倒してもらいます。そして魔物を倒すことで評価ポイントが加算されます。討伐箇所である耳だけお忘れないようお願いします。あとこの森には強い個体は確認されていないですが注意はしてくださいね。それでは組分けを発表します」



 そう教諭が話すと、クラスの不良グループが近付いてくる。



「おっ、久しぶりにレムレイ様のSランクの実力が見れるのか」



「楽しみだなぁ」



 不良グループの中でも特に目立つ男――ブリンク・ケルツが声を高めにそう言うと周りもそれに同調する。


 レムレイは俺の名前をもじった蔑称(べっしょう)で、クラスメイトの大半がそう呼ぶ。


 この特区にいる全ての学生は、潜在能力の測定を行いその順位付けまでされている。


 そしてこの学園は、そんじょそこらの人間では入れない程に、優秀な学校である。


 この学園入学時から、Sランク判定を受けそろそろ一年も終わろうかという今まで、ほとんど何の能力もない状態で、今に至っている俺に対してのこのからかいは当然とも言える。


 なぜか推薦が来て、そのまま入学することになったのだがその理由は分かっておらず、裏口入学と言われている。



「次、エンレム・レイスとルミ・ル・ゾルソラ」



「げっ。アンタと一緒とか死ぬほど嫌なんだけど。先生、ペア組み直せないの? 私ヒーラーだからね」



「試験のようなものだからそんなことは許されませんよ。終了時刻までに魔物を多く倒してください」



「ルミ、俺がレムレイと代わってやろうか?」



 ブリンクが嫌味ったらしくそう言う。


 ブリンクは、彼女――ルミ・ル・ゾルソラに惚れているのだ。


 ルミの異能力はいわゆるヒーラーであり、それだけに留まらず他の戦闘能力にも秀でている。


 戦闘も出来るヒーラーなのだ。


 それに、美少女でもある。


 長く伸びたオレンジのグラデーションカラーの髪に幼い顔立ちも相まって、クラスでも彼女の思い通りにいかないことがないほどだ。


 しかし、今回はその限りではなかった。



「みなさんそろそろ開始しますよ。それと最後に、この果物は皆もご存知の通りヤヨグルです。即効性の毒が含まれていて適切な処置なく食べると最悪死にますので、美味しい果物ですが気をつけて下さいね。それでは、開始」



「急ぐわよ。一人でやっておくからアンタはついてきなさい」



 この様子からも、全くアテにはされていないのであろうことが窺える。


 実際、以前までの俺は何も出来なかった。


 力を得た今も、覇王の力を十全に扱うためにはいくつかのルールがあるため、今のこの状況はルミに頼るのが都合が良い。



「あぁ、悪いな」



 ゾルソラ家は名家であるために、魔物を倒すのも手慣れたようで、背中に草が生えた犬型の魔物――ソーヲンを次々と倒していく。


 以前までの俺なら満身創痍になりながらも、一頭倒すだけでもやっとというところだろう。



「この調子なら楽勝ね。アンタがいた方が他のペアにもハンデとして良かったかもね」



 そんな皮肉を言いながらも、ルミはソーヲンの群れを薙ぎ倒していた。



「ルミ、あんまり深くに行かない方が良いだろ」



「アンタは何も出来ないんだから黙ってついて来なさい」



 大量のソーヲンを倒し調子付いたのか、この森では敵がいないと思ったのか、ルミは更に深くへ走っていく。


 そして、陽も隠れ始め訓練終了も近付いた頃、事件は起こった。



「まずいな」



 大量のヤヨグルの果実が茂った木々の奥に、ソーヲンの上位種、グンルヲンがこちらを(にら)んでいた。


 この森での目撃情報は確認されていない程に珍しい個体で、その高い能力値に凶暴性も相まって討伐指定ランクAの魔物だ。



「な、なによ……。大きすぎる」



「おい、ルミ、何してるんだ。早く逃げるぞ」



「無理なのよ。早く助けなさい!」



「クソ。待ってろ」



 ルミはそう語気を強めるが、腰が抜けたようで尻もちをついていた。

 グンルヲンはルミに照準を合わせたようで目にも止まらぬ速さで突進した。



「ギャーーッ!」



 魔物が放つような声で吹き飛ばされるルミ。



「大丈夫か?」



 俺はグンルヲンの脇にある木に向かって走り出す。



「アンタ逃げる気?」



「大丈夫だ。任せろ」



 木からヤヲグルの果実をむしり取り、口にする。


 その瞬間、強烈な痛みが体中を駆け巡る。


 そして、トドメと言わんばかりにヤヲグルの木を右手で殴った。



「アンタ、気でも触れたの?」



「そうかもしれないな」



 その時、グンルヲンは俺に向かって疾走していた。



「危ない、逃げて」



 そして、グンルヲンは俺に突進する。


 しかし、俺にぶつかったグンルヲンは、そこから微動だにすることはなかった。



「う、うそ……」



 口をあんぐりと開けて驚きを隠せない様子のルミ。


 それを真似るように、グンルヲンは口を開き、俺に噛み付こうとしている。


 そして、俺は手に気を込め、口を閉じるグンルヲンの牙を片手で持ち放り投げた。



「軽いな」



 高さだけでも三倍はある相手を、これほどまでに簡単に投げられるとは思わなかった。



「す、すごい……。なんで、そんなに強いの……?」



「俺はレムレイだからなっ」



 ルミに向けて満面の笑みを浮かべた。


 作り笑いではない。


 これまで褒められることなどなかったのだ。


 自然に笑みが浮かぶのが当然だろう。


 そして強さに関しては当然理由がある。


 毒のある果物を食べ、拳に傷をつけ、出血と毒、悪寒と頭痛の状態異常がついている。


 悪寒と頭痛は、どうやら覇王になった初日で急激な身体の変化で体調を崩したことによるもののようだ。


 これほどの状態異常が付いていると身体能力は十倍にまで膨れ上がっている。


 それに加えて気の扱い方まで浮かび上がり、それも補正すると計り知れない。


 先ほど、グンルヲンの体当たりを正面から受けたのは、覇王の力というものを試してみたかったからだ。



「ご主人様……かっこいい……」



 ルミは物語のラストシーンのような表情を浮かべていたが、グンルヲンはまだ死んでいない。


 それよりも、その呼び方はなんだ。


 気持ち悪い。


 俺は、倒れこんでなかなか起き上がれないでいるグンルヲンの脇腹に、気を込めた渾身の一撃を振り下ろした。


 直後、強烈な地震が襲い、地面にはグンルヲンを丸ごと覆うほどのクレーターが出現した。



「やりすぎたか」



 俺はそれだけを言い残して倒れた。


 周囲に響き渡っていた地鳴りが収まったのか音が遠のき、意識の海に引きずり込まれた。

「面白い!」「続き読みたい!」など思っていただけた方は、ブックマークや、広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、応援よろしくお願いいたします。


作者のモチベーションも上がり、とても喜びます!


よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ