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2.覇王の契約と制約


 目覚まし時計の音につられ、反射的に飛び起き支度を始める。



「やべぇ、遅刻する」



 そう独りごちながら、違和感に気付く。


 悪寒に疲労感、頭痛と風邪の症状だ。


 しかし妹の治療費のためにも休む訳にはいかない。


 学園を休むと通うだけでもらえる給金がなくなってしまうからだ。


 そして着替えようと服に手をかけた時にふと思い出す。


 制服のまま自室のベッドで寝ていたからだ。



「あれ、何があったんだ?」



 たしか倉庫の中で気を失った。


 そこまでは覚えている。


 しかしそこから先は何も思い出せない。


 どうやって家に帰ってきたのかすらも。



「わらわが助けてやったのだ」



と、拳大の可愛らしい子龍のような何かが声をかけてくる。


 ぷかぷかと浮かびながら。



「お前は何だ?」



「昨日口付けをした仲ではないか。もう忘れるなんて君はつれないなぁ」



「お前、まさかリアなのか?」



「見たら分かるであろう」



 目玉のクリクリした半透明の白い子龍は、届かない両腕を交差して腕組みのように胸を張った。


 可愛い。


 それよりも死んでいなかったということにホッとする。



「それで、その姿はどうしたんだ?」



「覇王の気が抜けたことでこの姿をしておる。覇王の継承に力を使いすぎたのが原因だな。君には、レイスにはわらわを元の姿に戻してもらう」



「そうだな。まずは助けてくれてありがとう。それから俺にはやらなければならないことがある。それが最優先になるが良いか?」



「早く元に戻してほしいが問題ない」



 上から目線で姿に似つかわしくない言動にもなぜか愛着が持てる。



「お兄ちゃん。遅刻するよー」



「おぅ。今から降りる」



「もう行くのか? ならわらわも行くが良かろ?」



「良い訳あるか!」



「この鞄に入っていれば問題なかろ?」



「部屋で大人しくしておいてくれ! 何か考えておくから」



 部屋の扉を閉めてニ階の自室から一階のリビングへと向かう。


 そこには妹が朝ごはんを用意して待っていた。



「お兄ちゃん遅いからアイク先に食べちゃったよ」



 長い水色の髪を揺らし、首を傾げながらそう元気良く話すのは、エンレム・アイク――妹だ。


 背はかなり低い部類だが、浮遊学園の中等部に通っている。


 そして、中学生とは思えない程にしっかりしているが、彼女はその笑顔の裏で過酷な病と闘っている。


 その病は日に日に彼女を蝕む。


 俺はその治療費を稼ぐためだけに生きていると言っても過言ではない。


 母親との死別後、父親が失踪してからただ一人の家族。


 そのただ一人の家族の笑顔を守る。


 アイクを健康にしたい。


 それだけのために生きている。


 そして、その目処が立ったのだ。


 そう思うと、再度めまいが襲いふらつく。



「お兄ちゃん大丈夫?」



 アイクは、金色の大きな瞳をこちらにじっと向けながら、心配そうにのぞかせた。



「ちょっとふらついただけだ」



「今日は休みなよ」



 アイクは心配そうな顔をしながら上目遣いで覗き込んできたが、それよりも重要なことがあった。


 自分が覇王になったのだという自覚が魂に刻まれているような、そんな感覚を覚える。


 そして、今のこの体調の悪さも覇王になった対価なのだと思い知らされた。



「覇王の制約か……。やってくれるじゃねーか」



「お兄ちゃんどうしたの?」



「ごめん。大丈夫だ」



 そう答えながらも俺は上の空だった。


 この体調の悪さが覇王になったのだという根拠になり、嬉しさが込み上げた。


 これまでの人生において最悪なコンディションでありながらも、俺は心躍らせながら登校した。


 俺と妹は特区の学生達が住む学生寮に住んでおり、そこから学園までは歩いてすぐのところにある。


 覇王になったからか、見慣れた風景すらもこれまでとは違ったものに見える。



「おっ、来たか。今日は随分と遅いな。今日は早くから待ってたんだぜ」



「昨日色々あってな」



 彼の名前はギー。


 この学園に入ってからは常に共に行動している友人であり、白いふわふわした髪型が特徴だ。



「それよりもその目のクマはどうしたんだ?」



 これは、覇王の制約によって普段の能力値が常時半減するという、覇王になった弊害。


 どうやら状態異常が付けば付くほどに覇王としての真価を発揮するようで、その状態異常も寝れば治るらしい。


 しかし状態異常が付けば付くほど起きた時の反動が大きい。


 この知識も覇王になってから、自動的に頭に流れてくるようになり、リアが言っていた後からわかるという言葉も納得した。



「なんでもねぇよ。それよりもこの景色はいいな」



 坂の上から見る景色。


 街の中心に立つ大きい塔に、設計されたように並ぶ森。


 ここからの景色は飽きないものだ。



「毎日見てるのに何言ってんだ。まぁ、この学園は、魔族や魔物との戦闘のための学校が乱立する戦闘特区の中でも有名だからな」



 いつも通りの景色を眺めること数分。


 学園に着いた。


 教室に入ると、後ろから魔法科目の教諭が付けてきた。



「席につけ」



 そう言われるがままに席に着く。


 この学園では定刻になると、そのまま授業に入る。



「おい、やっぱりお前体調大丈夫か? 色々心配になってくるぜ」



 またしてもギーが話しかけてきた。


 席までも隣なのだ。


 正しくは席が隣だから話すようになったのだろう。



「いつも通りだよ」



「お前昨日の任務でもポイントが入ったんだからご飯はしっかり食えよ。アイクちゃんも心配するぜ」



 特区ではポイントがお金として使えるというシステムであり、ポイントの取得は各科目のテストと行事での個人の評価が基準になり配布される。


 他には各高校の評価によっても変わる。


 この学園は特区の中でも優秀な学園のためポイントが高い。



「えー。この異能力に対しては気が強く、気に対しては魔法が強い。そして魔法に対しては異能力が強い。このことを何と言うか。では、ギー」



「は、はい。ブリムの三竦みです」



「正解だ。レイスと話していたのはまあいいだろう。ただこれ以上騒がしいと、その羊みたいな毛を刈るぞ」



 教諭のその言葉に教室が沸いた。


 ギーはどこにいても人気者だ。


 魔法の授業が終わると、次は気科目の実践訓練であり、学園の敷地から程近い森へと出掛けた。

 

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