表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

書籍化『断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました』

勇者パーティーのハーレム要員ハーフエルフに転生したんだけど、もう辞めさせてくれないか【書籍「断罪ハピエン」収録】


「勇者きたよー」

「きたかー、どこの国?」

「日本から、バーバリアン王国ね」

「よっしゃ、日本人。いいね、どれどれ、見せて」


 みんなで召喚の間につながっている泉をのぞきこむ。ほっそりした黒髪の、生真面目そうな男子がポカンと口を開けているのが映った。


「ああ、うん。素直そうでいいんじゃない。大学生ぐらいかな」

「陰キャの僕が異世界転移して勇者になったらモテモテなんだが、系ね」

「あれ、俺なんかやっちゃいましたか、チラッチラッ、ね」

「楽勝ね。清純聖女はわたし行くー。今月買いたいものがあるから」

「日本人は、猫耳だよね。獣人枠は、私ね」

「じゃあ、ちびっ子枠はアタシね。カタコト幼児語なら任せてほしいでしゅ」

「ギャー、幼児語はやめろー。かゆくて肌がブツブツになるー」


 部屋中の屈強な女子たちから物が投げられた。


「だって、日本男子、幼児語好きじゃん」

「マジで、やめて。無理だから。あんたが幼児語やるなら、私は語尾にニャンつけるニャン」

「ひー、やめんかー。耐えられんー」


 部屋を色んな魔法がうずまいた。ひとしきり、みんなが暴れてから、聖女が言う。


「エロ要員は、エリカでいいよね。同じ日本人だし」

「いやだー、もう日本男子はいやだー」


 エリカは首をブンブン振る。エリカの豊満な胸が、ブルブル震えた。


「ええー、日本男子、いいじゃーん。素直で真面目だし」

「礼儀正しいし。いきなり押し倒してきたりしないし。大体モジモジして、こっちから来るのを待ってるだけじゃん」


「胸元の開いた服さえ着てりゃ満足っぽいし。とりあえず谷間見せて、超ミニ履いてれば嬉しそうだもんね」

「こんな服装で旅に出られるとでも、って感じだけどね。肌見せた服で野営ができるかっつーの」


「なんだっけ、うっすらスケベだっけか?」

「むっつりスケベな」


 エリカは冷静に訂正する。


「それだ。でもいいじゃん。これがさー、ラテン系の国の転移者だとさー、もう、ずーっとグイグイグイグイくるじゃん。仕事になんないじゃん」

「全力で口説いてくるもんね。口を開けば口説き文句だもんね。疲れるよね」


「その点、日本人男子は真面目だもん。きっちり魔物討伐してくれるじゃん。谷間見せてりゃ張り切るしさ」

「教育制度が整ってるから、平均知能が高いしね」


「読み書き計算が全員できるって、すごいよ」

「休みなく毎日討伐でも、文句言わないもんね。社畜魂だね」


 褒められているような、けなされているような、いや、やっぱり褒められている。同胞が異世界人からもろ手を挙げて受け入れられているのは、エリカにとっても嬉しい。でもさ、でもでも。


「いたいけな陰キャの日本男子をダマすのは、もうやーだー」


 エリカは絶叫した。


 エリカは転生者だ。ごく普通の社会人が、死んじゃって、目が覚めたら白い世界にいたってアレだ。そして、転生の神様に「勇者パーティーのハーレム要員やってね」って言われたのだ。


 召喚された勇者の力は抜群で、異世界の問題をサクッと解決できる。勇者をつつがなく歓待するためのハーレム要員が、この世界には必要らしい。

 

 妖艶なハーフエルフで、魔法が使えて、給与も休暇もきっちりあって、同僚も気持ちのいいやつらばっかり。転生できて、よかったなって思っている。だけど、純情で不器用な日本男子をそそのかして、その気にさせて魔物討伐の旅に連れて行くのは、心が痛い。


「だって、茶番なんだもん。全部、演技じゃん」

「あらら、エリカったら。今さら何をウブなことを」

「どうしたのよ。もうディスるのはやめたの? よく吠えてたじゃん」


「お前ら、よく考えろ。日本で陰キャでモテなかったヤツが、異世界に来てモテると本気で思ってんのかーって」


 ねえー。みんなの声が揃う。


「うっ」

 エリカはうなだれる。


「異世界転生して、美人のハーフエルフになって、調子に乗っていた。許してほしい」

「真面目か」


 皆から突っ込みが入る。


「深く考えなくていいじゃーん。今や、異世界転生は日本だけじゃなくって、色んな国で流行ってるらしいじゃない。どの国の子も、ノリノリだもんね。待ってましたって感じだよね」


「元の世界に帰してくれーって泣き叫ばれるよりはさ、いいじゃない。楽しんでもらえるように、こっちも全力で盛り上げようって思えるじゃない」


「まあ、そうなんだけどさ。でもさ、オドオドモジモジしてた子がさ、だんだんスレてきちゃってさ。討伐が終わったら、王都でハーレム作るとか堂々と言うようになるとさ。あああー、ってなる」


 エリカの嘆きは、あまり受け入れられなかった。


「そうなるってことは、元々そういう素養があったってことだから」

「かぶってた猫がはがれたってことで」

「勇者のハーレムだったら入ってもいっかなって女子もいるわけだし」

「利害の一致ということで」

「大人なんだし、いいじゃないの」


 身も蓋も、ニベもない。


「大学生は、日本ではまだ子どもの枠なんだってばー」

「こっちでは成人だからねえ。仕方ないわよねえ」


 ウダウダ言っているエリカを、今回の勇者パーティー仲間が転移陣にズリズリ引きずっていく。


「やーだー」

 往生際の悪いエリカの口に、エリカの長い三つ編みが押し込まれた。つき合いが長いので、みんな遠慮がない。


「さーて、今回の勇者ちゃんは、誰をロックオンするかなー」

 聖女がニヤニヤと、清純という言葉からは程遠い笑みを浮かべる。


 毎回、清純、獣人、妖艶、ちびっ子と、勇者の好みを幅広く受け止められるようなメンバー構成にしているのだ。年齢は、詐称しまくっているので、みんな大分年上なのだが、それはそれ。バレなきゃいいのだ。


 スレまくった女たち。勇者サトシといざ旅をするようになると、徐々にほだされていった。


「歴代一位の健気さ。なんだこのかわいい生き物は」


 野営が多い勇者の旅。慣れていないし疲れるだろうに、朝誰よりも早く起き、焚き火をおこし、湯を沸かしてくれる。


「朝起きてすぐ、温かいものが飲めると、目が覚めるかなと思って」


 なんて、できた子なのー。推せるー。すれっからしの女たち、割とチョロい。


「サトシは、どうしてそんなに気が利くのよ」

「姉がいるんですよ。姉に鍛えられました」


 ああー、なるほどねー。姉って暴君だもんねー。みんなが納得する。

 

 サトシのウブなところも、いいのだ。


「あのー、目のやり場に困るので、胸元と脚は隠してもらえないですか。どうしても、見ちゃうんで」

「あ、はい。変なもん見せて、すみませんでしたー」


 ちょっと頬を赤らめて言うサトシ。全員、即座に肌を隠した。


「ねえねえ、サトシはさ。彼女とかいるの?」

「幼馴染の子がずっと好きだったんですけど。ただの片思いです」


 くうー、帰してやりてー。お姉さんたちは、こっそり涙を拭う。サトシが川で体を洗ってるとき、女たちはコソコソと話し合う。


「ねー、神様にさー、みんなで頼んでみない?」

「サトシを帰す方法があるといいよね。幼馴染と家族の元に帰してあげたいよね」

「じゃあ、ダメ元で、頼んでみよう」


 今まで、召喚した勇者を帰した事例はない。どの勇者も、異世界でハーレムを作るのに夢中で、帰りたいと言わなかったのだ。


 四人で座禅を組み、瞑想状態で神様と交信する。


「えー、テステス。ああ、かみさまー、聞こえますかー」

「サトシ、めっちゃいい子」

「かわいそう。帰したげて」

「いや、もちろんサトシがさ、こっちでハーレム作るってんならいいんだけどさ」

「ハーレムより幼馴染ってなったら、帰してあげたいじゃない」

「うんうん、ああ、なるほどね。わかったー、はーい」


 パチリと皆が目を開ける。


「いけるな」

「うちらの本気、見せるか」

「やったんでー」

「サトシを幸せにー」


 それから、勇者パーティーは、怒涛の快進撃を見せた。魔物を狩りまくり、魔王を倒しまくり、悪しき国王を王座から引きずりおろし、奴隷を解放し、税金の上限を決めた。


 勇者パーティーは、民の大歓声を受けながら、王都に戻る。


「サトシ、おつかれ」

「長旅、よくがんばったね」

「さあ、望みを言いなさい。お姉さんたちが叶えてあげるよ」

「異世界ハーレムか、日本で幼馴染か。どっちがいい?」


 四人は母親のような愛情たっぷりの目でサトシを見つめる。サトシはポリポリと頬をかく。


「えーっと。異世界で幼馴染がいいかな。だって、エリカさんは、エリちゃんだよね?」


 ビィーン エリカの脳みそに、昔々、遊んであげていた少年の記憶がよみがえった。


「ええー、さっちゃんなのー」

「そうー」

「うそー、大きくなったねー」

「エリちゃんは、変わってないね。あ、中身がね。よく、もうやーだーって言ってた」

「ぐわー」


 エリカは頭を抱えてうずくまる。サトシもうずくまって、エリカの顔をのぞきこんだ。


「僕と結婚してよ、エリちゃん。昔、約束したよね」

「したけど、私、めっちゃ年上だよ」

「四つぐらい、なんてことないよ」

「いや、転生してから、かれこれ四百年」

「大丈夫、会えて嬉しい」

「あざといー、うちのさっちゃんがあざといー」


 わーパチパチパチ。目を丸くして眺めていた三人が、泣きながら拍手喝采する。


「おめでとう」

「次元とか世界線とか時間とか」

「色々超越して、結ばれた、純愛」


 推せるわー。珍しく、ハーレムではなくひとりの女性を選んで愛しぬいた勇者サトシ。

 一途な純愛好きの民から、抜群の人気を集め続けたのであった。




2024/7/14頃発売の書籍『断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました 』に、加筆修正した本作が収録されます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
勇者さとし、最後にハーレム落ちだったら嫌だなぁ、とドキドキしながら読ませていただきました。 ‥‥良かった! 純愛だった! さとし最高! ナチュラルに気が利いて優しくて一途とか。夫としてどんなステータス…
[良い点] すごい、400年をサラッと一言で受け入れる勇者すごい。 タイトルは、この後ちゃんと辞めたんですね!神様GJ! [気になる点] 最初ハーレム勇者をザマァするためのドアマットヒロインの話かと…
[一言] めでたしめでたし! 面白かったです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ