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05 表:婚約破棄現場へ転移だとよ

似非中世欧州風異世界に転移した。ところがその場面がなんと……。婚約破棄モノをオチョクってみました。それと、純真な高校球児の皆さん、ごめんなさい。もう最初に謝罪しておきます。

あれっ、ボク……、仁王立ちだよね……。


ザワザワとたくさんの声が聞こえる。

視界が徐々に晴れてきた。

目の前に、女の子がいる……。

薄いバイオレットの豪華なドレスは、中世欧州風かな。

ブルネットの髪で顔立ちは……、キリっとしてツンとした感じ、

ああっ! いいなあ。雰囲気が高校の頃に憧れた()にそっくりだ。


むむっ? 右の肘が柔らかいものに当たっているぞ。

オッパイだ! 腕を絡めている。チラッと眼をやると、

ピンクブロンドの髪にパープルレッドのドレス、丸くて可愛い。

うううっ! 庇護欲をソソるー。抱きしめたい!


目の前の子、ブルネットがボクを睨みつけてくる。中腰の姿勢を採るなり、口を開いた。


「ウィリアム王太子殿下、婚約破棄の件、しかと、(うけたまわ)りました。念のため、理由をお聞かせいただきとう存じます。小宅に戻り、我が父に報告いたしますゆえ……」


えっ、ボクの名前はウィリアム? この子と婚約破棄したの?

すかさず、左に立っていた紺色上着にカボチャパンツが応える。八の字髭で、ちょいとトウガタっている。


「マクシミリアン公爵家の令嬢エスメラルダ殿ともあろう御方(おかた)が、この期に及んで見苦しいですぞ。ご希望とあらば読み上げてしんぜましょう。殿下の御学友であらせられるグスタフ男爵令嬢マリエッタ殿への狼藉の数々は……」


 おっ、この子、エスメラルダっていうのか。それと、ピンクブロンドはマリエッタね。あれっ、どこかで聞き覚えが……。そうだ、妹に借りて読んだラノベだ。題名は確か、たしか……、『乙女に捧ぐ永遠(とわ)の誓い』だったか。えっ、これ、その世界なのか? そこへ転移したのか? あちゃあ! 流行(はやり)のネット小説かあぁー。

 ということは、ウィリアムってポンコツ。どうしようもないお馬鹿さんだったはず。男爵令嬢なんて、身分が不釣り合いなのに入れ挙げてしまい、王太子から下ろされるどころか、廃嫡となり辺境へ流される。結局、男爵令嬢とも一緒になれないというストーリーだった。参ったな。こりゃあ、何とかしなければ……。

 ぐるりと見渡すと、誰も彼もがオロオロとこちらの様子をうかがっている。そりゃあ、そうだよね。狼狽えちゃうよね。困るよねえ。

 でも中に、目をキラキラさせて、見物を決め込んでいる者が二名。緑服のお坊ちゃま風と、お仕着せ姿の背の高いメイドだ。こいつら、違う。


 カボチャパンツが読み終わると、ブルネット嬢が高笑いをあげた。


「あはははっ、根も葉もないヨタ話をアゲツラいおって、伯爵家のグスタフごときに糾弾されるなど、片腹痛いわ。虎の威を借る狐めが。いいだろう。その巻紙をこっちへ寄越せ。我が公爵家の総力を挙げて蹴散らしてくれるわ」


 あれっ、滅茶苦茶に威勢がいいぞ。言葉遣いが乱暴。まるで、お江戸舞台の時代劇だ。ラノベでは、こんなセリフではなかったはずだぞ。そうだ! この後に、お忍びで留学中の帝国皇太子が登場して……。だめだ、駄目だ、ダメだー。ボクは、ピンクブロンドの腕を(ほど)いて、


「ねっ、これから話を着けるから今日は大人しく帰ってね」


 そして、大声を上げる。


「この場は解散だ。みんな帰ってくれー。

 エスメラルダ嬢と、そこの緑服のお坊ちゃま、それと背の高いメイドさん、こっちへ来て。

 カボチャパンツ、じゃあなかったグスタフ卿、部屋を押さえてくれ。この三人と話がしたい。至急頼む、直ぐに」


         ◆


 というわけで現在、四人でローテーブルを囲んでいる。扉の外と、窓の向こうには衛兵を立たせて、秘密保持だ。ボクを除く三人はウツムいて動かない。


「なんか、言ってくれ。どうなってるんだ。教えてくれよ。

 とりあえず確認するけど、今晩は王立学園の卒業式だよね。ボクは18歳。そこで舞踏会が開かれていた。その最後に婚約破棄騒動が始まった。そしてここは王立学園の貴賓室。合ってるかな」


 三人が少しだけ(うなず)いた。ただし、黙ったままだ。しかたがない。白状するか。


「ここ、『乙女に捧ぐ永遠(とわ)の誓い』の世界だよね。ボク、さっき、転移してきたばかりなんだ」


 三人とも顔を上げ、目を丸くして固まった。


「日本人で、名前は小山宇一郎、26歳独身だ」


「ぎょえー」


 三人が揃って奇声を上げた。


「私、一ノ瀬江里子です」


「おれは村井健太だ」


「私は橋詰君江よ」


 あー、みんな花畑高校三年、それも野球部のメンバーじゃあないか。どうなっているんだ。


 ボクは、野球部のエースでキャプテン、江里子さんと君江さんはマネージャーだった。進学校なので実力はカラッキシだった。けれど、この健太が曲者で、運動能力はレギュラーに程遠いくせに、理論と作戦立案能力にはトンでもなく()けていた。汚い手も縦横無尽。練習でも試合でも、お飾りの監督を差し置いて、全ての指示を出した。それが上手い具合に当たりに当たって、県大会の準決勝まで勝ち上がってしまった。ボクは、一回戦で敗退して受験勉強に専念したかったのに、迷惑なことだよね。これ以上勝ち進んだら困ると考えて、最後は手を抜いた。疲れてたしね。ノーシードで勝ち上がるって、大変なんだよ。


 このとき、江里子さんが言ったんだ。「甲子園に連れてくって約束したのにぃ」って。「アホか、そんな実力、ハナから無いわい。異世界なら行くぞ」と返した。そんな冗談を言い合う仲で、キャプテンとマネージャーなんだよお。好きだったんだけれど、我慢して受験勉強に励んだ。そしてなんとか地方の国立大学に引っ掛かった。当時は、私立とは学費の差が大きかったからね。うちは貧乏サラリーマン家庭で国公立が至上命令。奨学金をもらえば、下宿代はアルバイトで何とかなるという計算だった。

 一方、江里子さんは、いいとこのお嬢様。都会の私学に入って、そこから交換留学したと聞いた。それで、今、確認したら、そこで地震に遭遇して、建物の下敷きになり亡くなった。と、同時にこちらへ転移して四年目、ここでの年齢は18歳だという。地震の件はボク、知らなかった。ごめんね。あっ、そういえばあの時、「異世界」って戯言を言ったんだっけ。ははっ、実現しちゃったじゃあないか。


 健太は町工場の跡取りで、君江さんは洋菓子店の看板娘。ともに私学へ進んだ。ほんと、羨ましいよ。二人は誰(はばか)ることも無くに付き合っていて、当時からヤっていたはずだ。えっ、何をだって? あれだよあれ、あれに決まっているじゃあないか。そして大学卒業と同時に結婚した。ボクも披露宴に出席したからね。そして、新婚旅行に向かう飛行機が墜落してしまったという顛末だ。悲劇の二人とニュースになったなあ。

 で、この世界では、侯爵家の嫡男に生まれて21歳だって。ボクより年上だよ。この世界の知識と経験はバッチリだ。そりゃあ転移じゃあなくて転生だ。ちょっと時空が歪んでいるね。

 君江さんも転生で、商家の箱入り娘の19歳、行儀見習いとして王宮でメイドをしているんだって。そこで、健太と再会。フトしたことで前世の二人だと判って、すぐにドッキング。でも身分差が障害で上手くいかない。健太が愛妾でどうだっていったら、引っぱたかれたという。そりゃあ前世の倫理観を引きずっているものね。駄目だよ口に出したら。野球部の経験を活かせば、策なんてお手のものだろうに。よく考えろよ。

 他に野球部のメンバーでこっちに来た奴はいないのか、と尋ねたけど分からないという。


 それからボク、ウィリアム王太子はどうかっていう話だ。前王妃の忘れ形見。どうしてボンクラに育ってしまったかというと、家庭教師が新王妃の差し金で躾けや教育でワザと手を抜いたようだって。あのカボチャパンツは現王妃の弟で王太子を操っている。密かにボクを排除し、まだ幼い第二王子の立太子を狙っている。今回の婚約破棄はその一環、マクシミリアン公爵の影響力を削ぐことも兼ねて、一石二鳥。小説の記憶と、三人の情報を加味すると、こんな感じ。

 ははははっ、王太子の中味が入れ替わっちゃったんだよ。ねえ、これからどうなるんだろう。


 まあ、今日は遅い。明日にしよう。解散。

次回で完結します。

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