18 初夜のXXトーク
早速、初夜だ。神殿の聖女の部屋で初夜だ。その日の内といえど、早すぎることはない。ことは急がなければならないのだ。聖女に結界を早急に張り直してもらう必要がある。
まず、風呂に入る。全身をくまなく洗う。シャボンを付けて丁寧に。あそこは特に念入りに。ヒゲも剃る。威厳が無くなるが、初めての聖女を不快にさせてはいけない。夜着は白だ。ははっ、少し透けている。誰だ? こんなものを用意したのは……。ああっ、筋肉を楽しむということか。
ベッドに腰掛けて待つ。これって変だな。なるほど、花嫁の不安がよくわかる。でもオレより聖女の方がもっと怖いよな。男に肌を許すのは生まれて初めてなのだ。よく決心がついたものだ。相当な覚悟なのだろう。
三十五になったのか、遠い昔を思い出す。あの娘が十五で、オレは二十だった。神殿で縮こまっていたな。辺鄙な田舎から、賑やかな王都の神殿へ連れてこられたのだ。たった一人で寂しかったはずだ。名前は、そう、アリシアだ。あれから二十年か。その間ずっと聖女で頑張ってくれたんだ。
オレも王太子から王となり、いろいろとあった。一生懸命だったから、あっという間だった。まあ、妃との間に一男一女をもうけたけど、後継者を残すことはオレに与えられた義務の一つなんだ。そう考えると、聖女と一緒か。お互い、国に我が身を捧げ続けたということか。国を維持するって難しい。今夜は二十年分の労をねぎらってやる場だな。
「お待たせしました。王様を待たせるなんて不敬ですね。すいません。
お、おヒゲ、無くなっちゃたんですね。あの日の王太子さま……」
「待ってなんかいないよ。どうだい、若く見えるだろ。アリシア」
「えっ! 名前、憶えていてくださったんですか。久しぶりに呼ばれました。皆さん、聖女様としか言ってくれなくて……。思い出しますね。凛々しい御姿でしたね。あっ、今夜の王様もステキです」
「ははっ、お世辞はいいよ。夫婦なんだから、王様は、よしてくれ。ロバートって呼んでよ。おっ、髪にポインセチア……」
「ふふふっ。毎年、祝祭日に贈ってくださったでしょ。王様……、あっ、あっ、ロバート様でしたね。私の故郷の花をご存じだったんですね」
「まあ、神殿に縛り付けてしまったからな。せめてもの罪滅ぼしだ。安直だよね」
「ところで、今回のこと、何か理由があるのかい。実力行使なんて、よっぽどのことだ」
「……、……」
目頭を湿らせてきたような気がして、そっと手繰り寄せて抱き締める。こりゃあ神経が高ぶっている。なんか喋りたいようだ。じっと待つ。
「さっきも申しましたけど、私、今、三十五なんです。女として最後かなあって思ったんです。
女でいるうちに誰かと、一度でいいから、あんなことや、こんなことをしたいなあって」
ふむふむ。
「それでですねえ、せっかくなら、あのときの王太子様がいいなあって。でも現在、四十におなりでしょ? 五年経ったら四十五。お傍に侍らせていただいても、抱いていただけるかどうか……。四十五と四十。お互い、できるかどうか不安になって……。申し訳ありません。清水の舞台から飛び降りてしまいました。愛人でも、お妾でもよかったんですけど……」
あちゃあ。なんか、ボっと体温が上がった気がした。
かわゆいー! めちゃ、かわゆい。
惚れられていたのか。知らなかった。二十年か。健気だ。健気すぎる。
「そりゃあ、光栄だな。
もう夫婦だ。目いっぱい幸せにするよ。これからずっと二人で過ごそう」
さらに強く抱きしめる。細い身体が愛おしい。しばらくすると、両手をオレの胸に当てて身体を離す仕草をした。落ち着いてきたのかな。少し離れる。
えっ? ニコッとした。
「それでは、お約束ですから、今夜は筋肉を賞味させてくださいね」