16 全部お見通しですわよ
本作品に600字ほど書き足してR18サイトの「ムーンライトノベルズ」へアップしています。スジは一緒です。
【短編集】それぞれの愛欲の果て
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こんな人気のない校舎の裏にお呼び出しになって、どうなされたのですか?
そろそろ私たち、卒業ですよね。王太子であらせられる貴方と、公爵令嬢である私との結婚の準備が始まりますね。
あー、お尋ねするまでもないですね。その婚約を破棄する、と、ここで申し渡されるおつもりなのですよね。
理由は、あの男爵令嬢ですね。彼女との真実の愛に目覚めてしまったってことですね。そして私が嫉妬して、彼女に嫌がらせをしたというのですよね。
そのセリフは「悪役令嬢め。貴様は妃に相応しくない。婚約解消だ」……かしら。
私が嫌がらせ? 私が?
ふふふふふ。そんなこと、高貴な私がするわけないじゃないですか。
ああ、噴水の池に落ちたこと? すぐそばに私が立っていた……。
そう、それは事実です。私は、足を伸ばしていた。それに気づかず彼女がツマズいた。転んで池に突っ込んだ。単にそれだけです。ふふふふふ。私は何もしていません。
階段から転げ落ちた件? またしても私がそこに居た……。
確かにそうですね。私は、曲がり角の所にバッグを置いていた。それに彼女が触れてしまった。バランスを崩して転がり落ちた。それだけです。ふふふふふ。私は全く動いていません。
ダンスパーティーでワインを掛けたこと? 直後に私の持っていたワイングラスが空になった……。
それも事実です。私はグラスを高く掲げていた。じっと動かさずに掲げていた。そこに彼女が余所見をして歩いてきた。結い上げていた髪飾りがグラスに当たった。ワインがコボレて頭から被った……というだけです。ふふふふふ。これも私は何もしていないのです。
なんで、そんな偶然が続くのか、と問われるですか?
えっ? 貴方、聞かされていないのですか? 私が千里眼だってこと。千里眼ですよ。千里眼。近い未来に起こることを正確に予測できる魔力のことです。ほら、我が国の女性は皆さん、持っているじゃないですか。できることは人それぞれ異なり、私は千里眼です。全てというわけじゃあないのですけれど、人生で重要なことなら百発百中です。
彼女が歩いてくるコースは精密に判るから、そこに足を出しておいたのです。死角となるところですね。階段のバッグも、パーティーのグラスも一緒です。
私に言わせれば、彼女は災いに自ら突っ込んできたのです。
カバンにカエルが入っていたことですか? あれは私ではありません。
最初、緑色の彼がお休みだったのは私のカバンの中だったのですよ。私が「きゃ」って可愛い声で驚いてみせたら、お友達の侯爵令嬢が命じてくださいました。「ここに入れた人のところへ戻りなさい」って。そしたら、煙のように消えられました。どこへ行かれたかなんて存じません。
男爵令嬢に「殿下から離れて」と言った件ですか?
それ、婚約者として当然の行いですよね。校舎の陰で、お二人がディープキスを交わされた直後でした。
貴方に「欲望に流されないで」と注意したのは、教材倉庫で初めてドッキングする直前だったでしょ。
すべて千里眼でみえていたのです。想像できなかったですかねえ。
これらのことは全て両陛下に報告して、私の対応は了承をもらっています。
婚約破棄ですか? 私は応じませんよ。婚約は続行して、一ヶ月後には結婚式を挙げます。貴方が拒否なされることを見越して影武者が用意されています。
私は王太子の妃となり、ゆくゆくは王后です。そして世継ぎを産みます。貴方には私の身体に指一本触れさせません。でも、貴方の子どもです。貴方のタネです。でも貴方とは寝床を共にすることはありません。
貴方と男爵令嬢のお二人は今までに二十四回、ドッキングされましたね。千里眼で観ていました。見事な演技でした。で、ここまで注ぎ込んだのに孕まなかったことを不思議に思われませんでしたか? 普通、有り得ません。避妊具を用いられなかったのですからね。
実は貴方のお母様、王后陛下が吐出液を全て回収してくださり冷凍保存されています。王后様は超難易度の魔法を駆使されます。ご自身のお子たちの子種限定なんですけどね。
以後、お二人は、塔に幽閉となります。思う存分に睦み合ってください。でも、孕むことは決してありません。心置きなくドッキングを繰り返してください。
えっ、お前は一生、男に愛されないぞ、ですって?
心配してくださりありがとうございます。
私は、貴方の妹君、王女殿下と、いい仲なのです。王女殿下は某歌劇団の男役もかくやという容姿をされていますよね。王女殿下の魔法は、なんと、男への変身なんです。イチモツも再現され立派に勃ち上がります。快感も充分とのことでした。あら嫌だ。私で試したのではありませんよ。ご自身で……。
いくら百合の間柄といっても、初夜は貴方との結婚式後ですからね。
ただ残念なことに、スペルマはタネなしです。そこで王后様が陰嚢へ貴方の精子を充填してくださる手筈です。陰茎を通して私の子宮に撃つ打ち込みます。
国王陛下が退位されたら、王女殿下が女王に即位されますから心配は要りません。
王子が何人か生まれたら、貴方は、頃合いを見計らってパイプカットされます。万が一、幽閉塔から逃げ出して、あらぬ女性を孕まさないための予防です。
男爵令嬢の魔法は、魅了です。掛かるのは男性限定ですね。しかも条件は、知能指数が八十以下とのことです。よかったですね。お似合いのカップルなんですよ。
あっ! 衛兵さんたちが来られたようです。私がお呼びしました。おとなしく連行されてくださいね。男爵令嬢は既に幽閉塔でお待ちです。今生の別れとなります。長生きしてください。
さようなら。
◆
あれっ? これ、何か変だ! 奥手で素直で心優しい私がこんな大胆な所業に及ぶわけがないのに……。これ、「ざまあ」の魔法だ。きっと転生令嬢に掛けられたに違いない。
一人語りにしてみました。あれっ? 今回も名無しでした。