表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

14 紅:君を愛することはない☆

子爵家へ嫁いだ私は、初夜に夫から愛人の存在を宣言されてしまう。それなら、完璧な良妻賢母になって見返してやろうと決意する。でも相手は誰? まさかとは思うが……。


このお話は、R18要素を1,800文字ほど書き足して、ムーンライトノベルズの次の短編集に追加しています。

【短編集】それぞれの愛欲の果て

https://novel18.syosetu.com/n6723if/

「ボクには愛し合う人がいる」


 これから初夜が始まるというときだった。

 新たに夫となった人の口から、この言葉が飛び出した。私は一瞬、固まった。


 おう、これが流行(はやり)の「君を愛することはない」だな。自分自身が当事者になるとは思いもしなかった。そりゃあ子爵といっても貴族の端くれ。女の一人や二人がいても不思議ではない。私の父も別宅に囲っていて、母に愚痴を聞かされたものだ。だから私は、ハナから覚悟の上だ。

 でも、今、この場で白状しなくてもいいのでは……。初夜の寝室なのだ。


「ただ、外部には決して露見させない。夫としての義務は完璧にこなして、君に迷惑を掛けない。我が家の体面を汚さぬよう、細心の注意を払う。安心してほしい」


 それを安心と呼べるか、という疑問は横に置いて、醜聞に煩わされるのが一番困る。


「一方で、ワガママをいってすまないのだけれど、君にはボクの子を産んでもらう。浮気は絶対に許さない。少しでも素振りが見えたら、君を殺して、ボクも死ぬ。立場がないからね」


 ええっ! 無理心中か! 重いわあ。なんだこれ。


 夫とは半年前に見合いをし、直ぐに婚約を結んだ。家格が釣り合っているし、背丈がほどほどで容姿も整っていたから、家族はもちろんのこと、私に不満は無かった。だから、どちらといえば、月並みな淡々とした結婚といえる。情熱的な惚れたハレたといったものではない。

 まあ、百歩譲って、社会的地位の低い女の私を殺すというのは分かる。姦通罪を犯せば当然だ。でも、自分が死ぬってのが理解できない。単に家名が大事ということのアピールで、脅しなのか。

 もちろん、私に夫以外と“ことをなす”などという欲求、思惑、了見があるはずは無い。邪険に扱われたとしても、これからも無いはずだ。


「それでは、義務として君を抱く。いいね?」


 いいね、などと問われて、はい、嫌です、などと返事ができるわけがない。


「解かりました。よろしくお願いします」


と応えるのみだ。


 私の身体を横たえると、夜着の襟足(えりあし)から手を差し入れてきた。乳房に触れる指は武骨で、さすが剣を握る近衛で鍛えているだけのことはある。器用に乳首を弄りだした。帯紐が解かれて胸がハダケたと思ったら、覆い被さってきた。私は目を瞑り、されるがまま。私は初めてなのだ。

 夫は手慣れた感じがする。娼館などに通ったという風聞は聞いていないから、愛人相手に数をこなして熟練しているのだろう。


 乱暴に扱われると覚悟して。身体を固くする。

 が、そうではなかった。ウナジに始まって、ミミタブ、目頭、頬、口元とユックリ触れていく。クチビルはあくまでも軽く吸われただけだ。乳房を柔らかく包み込み、乳首にはそっと触れる。どこまでも丁寧だ。こちらの反応を確かめつつ一歩一歩を進めてくれる。優しい。いつしか私は快楽の海に浸たっていた。


 気がつくと、眩しい光の中だった。朝だ。朝チュンだ。

 これ、憧れだったんだけどなあ。


 我が身は夜着に帯紐を結んでいる。下履きも完璧だから事後の始末をしてくれた様だ。こちらとしては有り難い。ただ、手慣れ過ぎているという感じがしないでもない。


 本人は、背中を向けて未だ寝ている。

 これからも同じベッドを使うのだろうか。仲の良い夫婦を演じ続けるのだろうか。ご苦労なことだ。


 そっと抜け出す。

 そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。受けて立とうじゃないか。自室に下がり、メイドを呼んで身繕いをしてもらう。屋敷内を巡って、使用人たちがきちんと動き始めたことを確認する。朝食の用意ができると寝室に戻り、夫に声を掛ける。


「旦那様、朝餉(あさげ)は、どちらでなされますか。こちらに運ばせましょうか」


「おお、そんな時刻か。食堂にいく。一緒に摂ろう」


 へぇー、使用人連中に仲の良さを見せつけるつもりなのか。徹底しているな。こっちも闘志が湧いてくるというものだ。

 身支度を手伝う。私だって甲斐甲斐しさのアピールといったところ。みてろよ。


 新婚だというのに登城する。近衛の隊長という役職は厳しいようだ。


「ご帰館は何時(いつ)になりますか?」


「まっすぐに戻る」


 へー、寄り道は無しか。ここ暫くの間だけかな。


 執事は見合いの席で見知っていたから、話しやすい。すぐに打ち解けた。メイド頭と日常の流れを確認する。屋敷中を巡って把握する。この規模なら実家と同じ。隅々まで見当はつく。使用人の顔と名前も覚えられる。


 夫は宣言した通り、夕刻に帰宅した。玄関に出迎え、外套を脱がす。

 あれっ、香水が微かに香る。ほんの僅かなのだが、クソー。これが愛人か。胸がチクリと痛む。気づかぬ風を装おう。夕食も同じテーブル。就寝も同じベッド。ははっ、仮面夫婦か。


 帰館はいつも同じ時刻。香りもいつも同じだ。相手は、屋敷内の使用人ではなくて、外。どこかに囲っているのか。人妻、未亡人? 送り迎えの馬車の御者に探りを入れるが、途中で立ち寄った風は無い。


 私たちの結婚の直前に辞めたメイドがいることを耳にする。夫の身の回りの世話をしていたハウスメイドだ。疑っていることを悟られないように、別々の人物から少しずつ情報を集める。歳は夫よりも二つ上、商家の娘で結婚のための退職だったという。

 どうしても確認したくなって、嫁ぎ先に行ってみた。平民風の衣装を身にまとって少し聞き込みをする。夫婦は円満で、妊娠したようだ。貴族の馬車が出入りしているというウワサは無い。こりゃあ大丈夫かな。


 年末となり、恒例の宮中舞踏会の日となった。夫は近衛の長だから警備の指揮を執らなければならない。ただ、子爵という立場があるので妻である私も登城の義務がある。そして一曲だけ踊ってくれる。それ以外は仕事モードとなり、会場内を行ったり来たり。私は放置される。他の殿方の相手をする気になれないので、会場の隅でただ時間の過ぎるのを待つ。


 あっ、立ち止まって話をしている。相手は女官長だろうか。打ち合わせだと思いたい。あんな凛々しい顔は初めて見た。心がザワザワする。そうか、城内で、ことに及ぶっていう可能性もあるのか。


 宮城の中となると私の想像の外である。

 私は、自分のできることをコナすのみだ。ますます奮い立つ。

 屋敷の使用人たちを把握して、完全に運営する。費用を抑える。貴族社会との付き合い、お茶会、手紙のやり取り、親戚への付け届けと、歯を食いしばって頑張る。


 良妻の次は賢母だ。まず、子どもを産まなければならない。そのためには妊娠する必要がある。夫に精を撃ち込んでもらわなければならない。女としての魅力を上げるために、スタイルの維持と化粧に励む。夫は清楚な感じが好みなので、華美にならない様に気をつける。

 ベッドの上では貞淑ではあるものの感度の良さを演じる。負けるものか。興奮させ、奮い勃たせる、突っ込ませ、発射させる、子種を搾り採るのだ。


 しかし、この面では苦労は無かった。愛人に対して精も根も使い果たしているはずなのに、私との夜も情熱的だった。絶倫なのか。この扱いに悪い気はしない。情人の共有もありかなと思わないでもない。


 しばらくして妊娠し、期待の男の子を産んだ。最大の義務を果たしたのだ.これで外に作った子どもを迎え入れる必要が無くなった。結局、二男一女をもうけた。どうだ、文句はないよね。

次で完結ですが、意外な結末を用意しました。読者の推理は如何に。一応これ、古典的な心理トリックです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう【全年齢版】での同一作者の作品


前世もちのガラポン聖女はノダメ王子にスカウトされる(144分)
転生した先は魔力が存在しない似非中世欧州風異世界。そこで、名ばかりの聖女に当選してしまう。折につけて思い出す前世ニホンの知識を活かして職務に精進するも、お給金をアップしてもらえない。一方、ヘタレな第2王子は、ひたむきな彼女に惹かていく。そんな二人を引っ付けようと聖女の侍女と、王子の護衛がヤキモキ‥‥。◆敵役は出てこず、ぬるーい展開です。完結していますが、侍女と護衛の視点をところどころに追加中です。全体的に理屈っぽくて抹香臭いのは親からの遺伝です。特に17~19話の特別講義は読み飛ばしてください。20話は作者自身の転生願望です。


元気な入院患者たちによる雑談、奇談、猥談、艶談あれこれ ~502号室は今日も空っぽ:ギックリ腰入院日記~(74分)
父が1か月ほど、ギックリ腰で入院したことがありました。その折、同じ病室となった方々と懇意にしていただき、面白いお話を伺えたといいます。父はただ動けないだけで、頭と上半身は冴えているという状態だったので、ワープロを持ち込んで記録したんです。そして退院後、あることないことを織り込んでオムニバス小説に仕立て、200冊ほどを印刷して様々な方々に差し上げました。データが残っていたので、暇つぶしにお読みいただければとアップします。当時とは医療事情などがだいぶ変わっているかもしれません。辛気臭い書きぶりはまさに人柄で、見逃してやってください。題名に込められた揶揄は、整形外科の入院患者は身体の一部が不自由なだけで、他は元気いっぱい。いつも病室を抜け出してウロウロしているといったあたりです。


郭公の棲む家(16分)
里子として少女時代を過ごした女性が婚家でも虐げられ、渡り鳥のカッコウが托卵する習性に己が身を重ねる◆父がその母親の文章に手を入れたものです。何かのコンクールの第1次予選に通ったけれど、結局は落選だったと言っていました。肝心な彼女の生い立ちにサラッとしか触れていない理由は多分、境遇が過酷すぎて書けなかったのでしょう。設定時期は1980年前後です。


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ