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バッティングハンター  作者: いんじんリュウキ
第1章 卒業後の進路
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ダンジョン探索前夜

 ヴァーベン・ダンジョンはその名のとおり、ヴァーベン村の近くにいるダンジョンである。


 ケーシーの家とヴァーベン村は10キロ以上離れており、到着した時にはすっかり日が傾いていた。


「うちは窓際のベッドに寝るから、もうひとつの方に誰が寝るかは、じゃんけんして決めてちょうだい」


 宿屋の部屋に入るなり、カリンは一方的にベッドの割り振りを決めた。


「兄やんがベッドを使ってください。僕は床に寝るので」


 ボイヤーは当然のようにベッドを譲ろうとしたが、カリンはそれを許さない。


「ダメっ。ちゃんとじゃんけんして」


「ほら、さっさとやるぞ。じゃーんけんぽん」


 タフィが出したのはグー。

 対してボイヤーが出したのはパー。


「はい、ベッドに寝るのはボイヤーに決定。タフィは床に布団敷いて寝てね」


「あの……てっきり兄やんはチョキを出すと思って……えっと、そのぉ……ごめんなさい」


 ボイヤーはものすごく申し訳なさそうな顔でタフィのことを見た。


「飯行こ」


 タフィは足早に部屋を出ると、バタンッと乱暴にドアを閉めた。


「ったく、ガキなんだから……。うちらも行くよ」


 カリンはやれやれといった感じで肩をすくめると、ボイヤーと一緒に部屋を出た。




 タフィたちが夕食の場に選んだのは、宿屋からほど近い場所にある「クスクス」という名のレストラン。カウンター席と4人掛けのテーブル席が3つあるこぢんまりとした店だ。


「とりあえずうちは、ビールと串肉の盛り合わせ、それにタマネギの酢漬けかな。あんたたちは何頼むの?」


 カリンは向かいに座るタフィとボイヤーにメニューを見せた。


「……リンゴジュースとベーコンピザ」


 タフィは不機嫌そうにボソッと言った。


「じゃあ僕もリンゴジュース、あとベーコンオムレツにミートボールの焼き野菜添えにしよう。あ、すいませーん」


 ボイヤーは大声で店員を呼ぶと、全員分の料理を注文した。


「お待たせしました。ビールとリンゴジュース、タマネギの酢漬けです」


 飲み物におつまみと、注文した料理が次々とテーブルの上に並んでいく。


 初めのうちはぶすっとしていたタフィも、空腹が満たされていくにつれて徐々に機嫌が直っていった。


「そういやタフィ、あんたダンジョンのことどれくらい知ってるの?」


 カリンは3杯目のビールを飲みながらタフィに尋ねた。


「どれくらいって……とりあえずアレが生き物だってことくらいは知ってるよ」


「ふーん……ボイヤーは?」


「一応、一通りのことは知ってます」


「へぇ~」


 カリンはいたずらっぽい笑みを浮かべると、タマネギの酢漬けをひょいっと口に運んだ。


「じゃあ、どれくらい知ってるかチェックしてあげるから、ちょっと話してみ」


「はい」


 ボイヤーはリンゴジュースで軽く喉を潤してから、自分が知っているダンジョン知識を話し始めた。




「ダンジョンは生き物である」


 この衝撃的な説が発表されたのは、今から70年ほど前のこと。


 発表したのはブレーズ・ダウンワース子爵。学問好きの貴族として知られ、学会でも存在を知られた人物だ。


 きっかけとなったのは、出入りの織物商であるレーウェンフックとの何気ない会話であった。


「旦那様、最近私、顕微鏡で色んなものを覗いてみることにハマってるんですよ」


「ほぉ、そんなにおもしろいのか?」


「はい。自分の皮膚や織物の糸なんかを拡大して見ていると、おもしろくて時を忘れてしまいます」


「なら、私にもひとつ顕微鏡を作ってくれないか」


「お安い御用です」


 レーウェンフックが作った顕微鏡を手にした子爵は、その性能の良さに驚くとともに、小さな世界を覗き見ることのおもしろさにすっかり夢中になってしまった。


 そんなある日、覗き見る素材を求めていた子爵のもとへ、知り合いの冒険者からダンジョンの壁の一部が届けられたのだ。


「ほっほぉー、これがダンジョンの壁なのか。ぱっと見は土壁にしか見えないけどな」


 当時、ダンジョンは変な生き物などが出現する謎めいた存在と認識されており、詳しいことはよくわかっていなかった。


 子爵は興味津々な様子で顕微鏡を覗き込み、そしてあることに気がついた。


「おや? この土……動いてないか?」


 初めは目の錯覚かと思っていたが、土の粒の位置は見る時々によって、微妙ではあるが確実に変化していた。さらに……。


「なんか粒が大きくなっていないか?」


 これらの出来事を不思議に思った子爵は、幼馴染の生物学者であるリンネに相談した。


「うーん……ひょっとしたら、ダンジョンは生き物なのかもしれないな」


「は? 生き物?」


「あくまで推測だが、もしかしたらダンジョンは粘菌の類なのかもしれない」


 粘菌はアメーバのように動いたり、キノコのような形になって胞子を飛ばしたりするなど、動物的でも植物的でもある性質を持つ、謎多き単細胞生物だ。


「しかし、粘菌って小さいもんだろ。あんなにでかくなったりするものなのか?」


「お前知らないのか、粘菌は合体して巨大化することもあるんだよ」


「本当か、それ。知らなかったな」


「まぁ、わかったのは最近のことだけどな。それくらい、粘菌も謎が多いんだ。だから、粘菌が突然変異してダンジョンになる可能性も十分にあるんだよ。いずれにせよ、研究してみる価値はあると思うな」


「そうか」


 リンネの話に触発された子爵は、本格的にダンジョンを研究することにした。


 壁の一部だけでなく、魔石や宝石といった素材など、豊富な財力を活かしてダンジョンに関するあらゆるものを買い集め、さらに各地のダンジョンも精力的に訪れた。


 そして研究が進んでいくにつれて、子爵はダンジョンに関する様々な謎の答えを導き出していく。


 たとえば、ダンジョンが日に日に大きく複雑になっていくのは、周りの土などを食べて成長しているので。


 また核を破壊するとダンジョンが崩壊するのは、死んでしまうから。


 そしてヒトツメイワやウデエンバンといった不可思議なものたちは、動物などでいえば抗体のようなものであり、それゆえダンジョンの中にしか現れないし、岩や土といった周囲にあるもので体が形成されている。


 このように、ダンジョンが生き物であると考えれば説明できるとして、子爵は自信を持って研究成果を学会に発表した。


 この発表は学会で大きな話題となり、様々な分野の学者がダンジョン研究に関心を抱くきっかけとなる。


 そしてそれによってダンジョン研究は飛躍的に加速。ダンジョンは周辺環境に合わせて自在に体を変化させることのできる特殊変形菌の一種であることなど、様々な生態が世間に知れ渡ることとなったのだ。


 ちなみに、子爵はダンジョン研究の第一人者としてその名を知られるようになった後も、精力的に研究を行い続け、68歳で好奇心旺盛な人生に幕を閉じた。




「……と、こんな感じです」


 ボイヤーは途中小芝居も交えながら、自身の持つダンジョン知識を余すことなく披露した。


「ごうかーく」


 ほろ酔い気味のカリンは、体をグッと伸ばして、向かいに座っていたボイヤーの頭をくしゃくしゃっとなでる。


「くすぐったいですよ」


 そんなこんなで、ヴァーベンの夜は更けていった。

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