第一話 天に背きし者
長い金髪。透き通る6枚の羽。6枚の翼の天使が夜空に輝く物を仰ぎ見み、静かに一言。
「…あのお方が造った…月と星…この余のすべての物…か…」
6枚羽の天使の深く優しい紫色の瞳には、瞳と同じ深い迷いが見られる。だが彼は、それをひた隠すように静かな光に目を閉じる。
しばらくして、ゆっくり目を開けて…自分の美しく透き通る翼から羽を1枚握り…また、静かに目を閉じる。
そして、自分の羽を迷い無く握り潰すと、6枚羽の天使は自嘲たように小さく笑って言う。
「フッ……答えはもう出ているじゃないか……」
彼は目を開ける。その瞳はさっきまでとは違い、迷いが無いただ真っすぐな鋭い瞳に変わっていた。
そして、天使は迷い無く堕ちることを選んだ。
天使はゆっくり、ただし、迷い無く真っすぐに天界から魔界を見下ろして、そう……堕ちようとしていた…………。
だが、それを阻止した声があった。
「堕天する気か?」
「堕天する気なの?」
同時に話しかけられて彼は弾かれたように振り返ると。いつの間にか背後に4枚羽の男と6枚の翼を背負った女が立っている。
金髪碧眼で4枚の翼を持つ男…ラヒュレイと金髪紫眼で彼の天使と同じ姿の6枚羽の女の天使を見て、目を見開いた。
だが、彼は平坦な声音で言葉を返した。
「そうですよ。ラヒィレイ、ディアナ」
「「そう…」」
ラヒュレイとディアナが同時に悲しく微笑んだ。
「ラヒュレイ、ディアナ私を止めますか?」
彼がさっきよりも、もっと平坦な声音で聞いた。
「そうね…そう、なる…わ…だけど…ッ、私はたった1人の分身を壊すなんて事……したく無い…! だから、だから………っふ…くっ…し、質、問に…っ…答えて…よ…ひっく…エビン……」
「ディアナ…泣くな…」
ラヒィレイにしがみつきながら必死に自分の分身…6枚羽の天使エビンにディアナは訴えながら、紫色の瞳から大粒の涙を流した。
「なにが、言いたいのです?」
それを見ても無表情と平坦な声音は変わら無かった。
「…俺達は…お前がなぜ大罪を犯そうとするのかを知りたい…」
「…そんなこと貴方なら分かっているでしょう? 私は、あのお方が信じられ無くなったからです」
「…重傷だな…。お前は…いつから無表情で取り繕ろうようになったんだ?お前…いつもは感情豊かだったじゃないか…!!」
ラヒィレイが悲鳴のような声で悲しそうに言う。
「さあ?そんなの演技に決まっているでしょう?そんなぐだらな――」
「なんだと!!もう一度言って見ろ!!」
エビンの話しが終わる前にラヒィレイの怒鳴り声がエビンの話しを遮って、片刃の剣が風を切りエビンの上に振り下ろされた。
だが、エビンは避けようとしなかった。
「!?…なぜ避けない!?」
「そうですね。なぜ…と聞かれましても。貴方の性格上私を殺せ無いのは分かっていした。…ですが……貴様のその甘さにヘドが出る!!」
無表情だったエビンの紫色の瞳が瞬時に血の色に変わって、怒気の混められた低い声で怒鳴った。
そう、エビンは怒っていた。
エビンは何も無いところから5本の刀身だけを取り出し、ラヒィレイとディアナに投げ付けてそちら側に気を引き付けておいてさっと踵を返し。天界から素早く真っすぐ魔界に堕ちた。
その背中の月の光を吸収するかのように光る6枚の翼からすべての羽が抜けて、黒くて鈍く月の光を弾く6枚の翼になる様をラヒュレイとディアナは見て絶句。
だが、そのせいで天界のすべての天使が束になっても太刀打ち出来ない強力な悪魔が魔界に誕生してしまった。
「ヒィィィ!!お、おおおお辞めくださいぃぃ!ユヒィリア様ぁぁぁ!!」
屋敷の小悪魔が悲鳴を上げて、首には長いチェーンの先に、6枚羽の天使が彫刻されたペンダント。腰までの長い銀髪と、青紫の瞳の10歳になる男の子…ユヒィリアの腕に抱えられている高価な皿を見て言った。
「そうでございますぅ!ユヒィリア様にそのような事をしてお怪我でもなされたら私どもが公爵様に怒られてしますぅ!!」
「大丈夫だよ!落っことしたりしないから!!」
小悪魔と小鬼が停めようとするのにユヒィリアは元気良く言って、歩き出した。
「あ!」
ユヒィリアの小さな悲鳴と共に、彼の手から皿が落ちた。
パリィィン
「「……!? …ひゃぁぁぁぁぁぁ!! さささ皿がぁぁぁ!!」」
ムンクのような顔になった小悪魔二匹。
「あ…やっちゃった…」
そんな、台所でのやり取りが、廊下に響いて屋敷の主の寝室まで届いていた。
「ん、う〜あぁ!」
魔界でハーベルト公爵と呼ばれているの悪魔が、広い寝室の寝台でじゃ無く、寝椅子で大あくびを1つした後に自慢(?)のパープルの長い、ふくらはぎまである髪をかき上げて起きた。
ついでに、彼の明るい赤の瞳はとても悲しい色になっていた。
しかし、それを隠すように悪魔は首をふって一瞬後には台所まで行った。
「…ユヒィー…サリムとカランのお仕事を邪魔してはいけませんよ?」
悪魔はユヒィリア限定の優しい微笑みと、慈愛に満ちた優しい声音で言った。
「エドウィン兄様!!」
ユヒィリアの表情がパッと明るくなった。
「ユヒィー…何か…言うことがありませんか?」
悪魔…エドウィンが鋭く、かつ優しく言った。
「はい…兄様…ごめんなさい…」
ユヒィリアはしょんぼり頭を下げて謝った。それを見てエドウィンはすっと彼の頭の上に手を伸ばした。
ユヒィリアは叩かれると思って、ぎゅっと目を閉じて体を強張らせる。
しかし、エドウィンは怒ろうとせず、彼の前で両膝を付いてユヒィーの頭を優しく撫でて、優しい微笑みと声音でユヒィーに言った。
「…ユヒィリア良く謝りましたね。ですが、サリムとカランには謝りましたか…? 怪我はしませんでしたか…?」
「あ! …サリムさん…カランさん…お仕事の邪魔してごめんなさい…」
「いえいえ。確かに邪魔でしたけど〜ユヒィリア様! そんなにしょんぼりなさらないで下さい!! それに私達に『さん』はいりません。何せ魔物ですから☆」
小悪魔のサリムが無邪気に笑いながら言った。
「そうございますぅ。私達は皆、ハーベルト公爵様の下僕なのですぅからぁ」
小鬼のカランが可愛くウインクをして微笑んだ。
「そうだけど…」
「ふう…ユヒィリア…言い淀んでないで私の質問は聞いていましたか?」
「あ! うん、兄様! 大丈夫だよ!!」
「くす…そのようですと大丈夫そうですね。」
元気良く手を見せたユヒィーを見て、エドウィンはほっとした。
「うん、大丈夫!! でも、なんでいつもは『ユヒィー』なのに今日は『ユヒィリア』なの?」
しかし、はそんなこと気にしないユヒィリアが無邪気に笑って言った。
「…それは、嫌な予感がするからですよ…?」
バサバサバサ
小さな羽ばたく音が遠くから近づいてくる。
「公爵様!!大変にございます!!」
「…なにが…大変なんです…タアヤ…?」
エドウィンは飛んで来た小悪魔、タアヤのほうを向いて落ち着いた声音で聞いた。
「はっ!はい!!サリマン卿が公爵様に会いたいと言ってやって来ました!? どうしましょう!?」
「ふう…やはり…来ましたか……丁重にお引取…いえ……おもてなし、して差し上げませんと、ね…さあ…ユヒィー人間界のお屋敷に向かいなさい…タアヤ…ユヒィリアを…連れて行きなさい…」
落ち着き払った優しく慈愛に満ちた声音だったがタアヤが見たエドウィンの顔はたいていの魔物が震え上がるほど恐ろしい顔になっいた。
「は、はい!!」
「ちぇ…行かないとダメ?」
「ユヒィリア…駄々をこねいで…言うことを聞いて下さい…ね…」
エドウィンは両膝を付いてユヒィリアの腕を優しく握り、さっきまでの恐ろしい顔をすっと隠して、軽く肩を竦めて優しく「ふふ」と笑って言った。
「ユヒィリア様参りましよう。」
タアヤが軽く促すとユヒィーは軽く唇を噛んで俯いて、首に下げた6枚羽の天使が彫刻されたペンダントを握り閉めて顔を上げて言った。
「分かった…」
渋々だがタアヤに連れられてふわ…と消えた。
エドウィンは2人を見送ると、まるで感情のない仮面をつけたような表情に変わるのと同時に冷たい声音で言った。
「あの忌ま忌ましい蚊をここへ連れて来なさい…!!」
「は・はい!!」
「た・只今!!」
サリムとカランが慌てて『忌ま忌ましい蚊』――こと吸血鬼を呼びに言った。
「チッ…こっちらが大人しくしてたらやったで図に乗りやがって…ユヒィーに手ぇ出そうとしやかって…」
2匹が居なくなったのを確認して1人ぐちた。
それからしばらくして忌ま忌ましい蚊…じゃないサリマン卿がサリムとカランに連れられて来た。
「おぉ!久しぶりだなハーベルト公爵!」
「お久しぶりです。サリマン卿…」
(チッ…ムサイんだよ!貴様の全てが!な〜にが『お久しぶりだな』だクソッタレ!!消えなよ?消えられないなら俺が消してやっから消え失せろ!!)
表面だけ微笑みをたたえているが内心では、ぼろくそ言っている。
「ん?ユヒィリアはどこなんだ?」
「ああ…ユヒィリアですか?彼は今外出しているんです」
(チッ…一々、ムカつくんだよ!! 何でユヒィーを貴様が呼び捨ててんだよ?! 『様』付けろよ! 『様』!! …つか消えてくんねぇ?)
すごい二面性…いや性悪? さっすが魔界の悪魔…と感心しそうだ…。
「そうか〜」
「そうですよ」
サリマン卿にエドウィンは和やかな顔をして言った。
だかは…あえて言わないが…凄まじかった…。
「おや、ユヒィー? おじ様は?」
「あ…お仕事だよ? それよりリクト兄…何、この有様…。それと何してんの?」
リクト兄と呼ばれた黒髪で茶色の瞳を持って、尚且つ美形の18歳の青年が何故か床一面に散らばる羽根をかき集め、こんもりと小さな羽根の山をつくている。
ユヒィリアは沈黙して、ここをこんな有様にした元凶を見た。
その元凶はユヒィリアより1つ下の双子の弟達の兄、アルドナと弟、アーカスがぎゃあぎゃあ言い合って肩より下のさらさらの赤髪を振り乱しながら、羽根枕で殴り合っている。
その瞳は無邪気な青を輝かせて、愛らしい顔がよりいっそう愛らしくなっていた。
しかし、許しがたい事に、また無残にも羽根枕であった物がまた1つ床一面に散らばる。
…とてつもないくらいひどい有様だ…そんなことお構いなしの双子を見て、耐え切れ無いとばかりにリクトが双子の仲裁に入る為に動いた。
「くらえ!アルドナ!枕コーゲキ!うりゃ!!」
ぼっふん
一カ所の床に集めた羽がぶわぁ…と舞って頭上から、ふわ…っと降って来るの見てをリクトは拳をぶるぶる震えさせた。
(うっわぁ〜やばそう…リクト兄ん顔いつもより厳しい顔になってるし…リクト兄、大人しいけど怒ったら面倒なんだよな…ま、しょーがないかたずけてよっと…)
リクトはユヒィーがそんなこと考えている事など気せずに、つかつかと双子に近かずいて行く。
「アルドナ…アーカス。いい加減にしろ!!」
ドスのきいた声で言うとすかさず拳で双子の頭を殴った。
ごつごつ
「つぅ…」
「痛…!」
小さく悲鳴に近い声だった。
「なんで殴られたか分かるだろうなぁ?」
「「はい…」」
「よし。んじゃぁかたずけろ。すぐかたずけろ。」
双子が頭を押さえてかたずけ始めた。
「ユヒィー!後はこいつらにさせておけ。後…ちょっと来い」
「なぁに?リクト兄?」
「あいつらのかたずけがすんだらお茶にしたいから、菓子を作るか買うかして来てくれないか。」
「うん、分かった。んじゃ小麦粉とチョコ買ってこないと…後は…」
「カボチャを蒸して潰しす奴は俺が作っておくから行っておいで」
リクトは優しく微笑んだリクトの顔には怒りの顔は無くなっていた。
それと、アルドナとアーカスがすべてかたずけたのは、ユヒィーがカボチャとチョコのクッキーとチョコケーキ、りんごパイ…双子が大好物すべて作り終えてしばらくしてからだった。
えっと…
初めまして。双葉小鳥です。
…はっきり言って書くことが無いので…
気軽に読んで下さい。としか言えませんが…
とにかく…楽しんで下さい。
短くてすみません。