表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

スプーンが簡単に曲がる瞬間を見たことがあるかい?

 ゆいは結局、保健室の毛布にくるまって文章を読み進めてしまった。直前の診察からずっと脈拍が早く、顔が赤らんだままの彼女を保健室の先生は心配し、早退をすすめた。本人は体調不良ではないと否定しようとしたが、使用禁止の携帯で18禁コラムを読んでいたことが原因だとは言えず、少し後ろめたい気持ちのまま帰路についた。

 

 いつもより早い娘の帰宅に、リビングの掃除をしていた母は手を止めて尋ねた。言葉を濁した要点を得ない回答に、深い事情があるのだと思って娘と対面し、目線を合わせ優しく言い聞かせた。ポツポツと出てくる言葉を聞くにつれて頭を抱えたくなってくる。


 「携帯で何を見ていたかは置いといて、学校のルールで使用禁止になっているのを知らないわけではないでしょう。緊急時の連絡用であれば学校に持ち込んで良いとなっているの」


 「・・・うん」


 「わかっているのに、なんで触ってしまったの?」


 「・・・どうしても調べたいことがあったから」


 「それはその時に絶対しなきゃいけないこと?」


 涙目になった娘の回答に、母は眩暈がした。


 「・・・ううん。気がついたら触ってた」


 情報が断片的ではあるが総括すると、エッチなコラムを書くお気に入りのライターがいて、暇があれば最新コラムを読んでいる。携帯を触る必要はなかったが、呼吸をするのと同じくらいに無意識に手が動く。


 「エッチな感情を持つことは自然なことです。でもね、ゆいの年齢で大人のエッチな話を読むのは早いともうの。携帯の中身をママに見せられる?」


 「・・・ちょっと、恥ずかしい」


 「これはね、大事なことなの」


 「・・・わかった。私の目の前で見るなら良いよ」


 ひとまず犯罪に巻き込まれてはいないようで安心した。最後に、お気に入りのライターを教えてもらったのだが、どこかで聞いたような覚えがした。


 その晩、家族3人で食卓を囲み、娘が今日の出来事を父に話す。携帯を没収しないでほしいという思いもあったのだろうが、反省しているようで、真っ直ぐに育ってくれたなと父は嬉しくなった。

 コラムの話になると途端に顔色が変わり、ライターの名前が出ると、声を掻き消すほどの勢いで咳き込んだ。

 娘が言い直しても、都合の良い咳が出る。

 だんだんと母の片眉が吊り上がり、父に向ける視線が険しくなる。

 幾度かの茶番を繰り返したのち、母が食事を止め、思い出したと小さく独り言ちた。それから娘を笑顔で見つめてこういった。


 「あなた、食事の後でお話しがあります」


 目は全く笑っていなかった。


 「ねえ、ゆい。いつどこでMr.doMって言うライターを知ったの?」


 「半年くらい前かな。パパの部屋にMr.doMって書かれた名刺が落ちてたの。QRコードがあって携帯で読み取ってみたらサイトに繋がった」


 父の頬に汗が伝う。娘のコップにいるクマが同情的な視線を向けた。クマが父に語りかける。


 「まあ、生きてりゃ色々あるさ」


 父は聞きたかった。


 「そうだとしても、君はスプーンが簡単に曲がる瞬間を見たことがあるかい?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ