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竜皇女と魔技術師  作者: 凍雅
9/15

竜皇女と魔技術師 9

 建物を出て、指令部になっている天幕に戻ると、まだ顔色の悪いミルラと、それを支えるように寄り添うヒースが待っていた。

「お帰り」

「大丈夫か?」

 置き去りにされていた爆薬を渡すと、中身を調べ、安堵したような溜息をつく。

「ありがとう。他の人が使ったら危ないから、心配してたの」

 頭は、はっきりしているらしい。

 ミルラは視線を落としたまま、手はヒースの腕にしがみつきながら、言った。

「……あれ、誰?」

 ちらとアルスを見る、小さく頷いたので、話しても構わないのだろう。

「判らない。ただ、見た所、リクドの研究者らしい」

「リクドって、死霊術の?」

「恐らく。最近、変わった魔技術師を見かけたという話を聞いたか?」

 学生達の噂話なら、この二人の方が詳しい。

「……聞かない、なぁ」

「ヒースは?」

「俺も聞かない。ましてリクドだろう? この街に入った途端に学生に取り囲まれるぜ?」

 そう、それだけ、リクドの研究者はもともと人数が少ない。しかも、ましてこんな遠方にいることもなく、見つければ、知的……かどうかはともかく好奇心の強い学生たちの餌食になっているはずなのだ。

「他に、外部の魔技術師を見たという話は? 年齢は、私やヒースと同じくらいだと思うが」

「んー、それもないなぁ」

「待て。俺と同じくらいの歳で、リクド……?」

 ヒースが独り言の様に呟く。

「心当たりがあるの?」

「黒眼黒髪か?」

「眼の色は定かではありませんが、髪は黒で直毛です。肌は変色していますけれどおそらく色白な方でしょう。背丈はヒースさんと同じくらいです」

 コハクが戻ってきた。

「アルス様、遺体と『不審物』の搬出と確認を終了致しました。遺体は冷気の中で、仮に安置しております。二部は引き続き遺跡内部の調査中です。学舎には、身元不明の遺体を発見した事のみ、報告致しました」

「ご苦労」

 アルスに報告すると、コハクは手に持っていた包みを机の上に開いた。

「遺体の所持品です。私共が見るよりも、魔技術師に見て戴いた方が早いかと思いまして」

 コハクは書類を広げ、私に手袋を渡してくる。

「説明をお願いできますでしょうか?」

 確かに、魔技術師らしい、やや特殊な持ち物が多い。

 手袋をはめ、分かるものから並べていく。

「銃は一般的な護身用小型拳銃、魔法弾用のR-レッド-MA。これは銃弾。魔法弾だな。これは学会章、リクドの死霊術学会の物だ」

 銃がある。すると暴発したのは、遺跡にあったものなのか。

 他には護符の類や、小型の魔導器、ペンや手帳など筆記具、財布などで個人を特定する物は無い。

 仕方が無いので財布を開くと、中から記章が出てきた。

「リクドの学章と研究員章、それと……これは何処だ?」

 もう一つも学章の様だが、見覚えがない。

「……塾だよ。魔技術基礎教育塾の塾生章」

 ヒースが私の手元を覗き込んで言った。

「普通、こんな律儀に持ち歩かないけどな。大陸東部協会の塾だ。俺も持ってた」

 通常、魔技術師を目指す子供は、地域の魔技術基礎教育塾に入り、そこである程度勉強してから、魔技術学舎に受験する。しかし、魔技術師としての経歴は学舎に入った時から始まるので、塾章まで気に掛けていなかった。


 ヒースが険しい顔をしているのを気に掛けつつ、手帳を開く。

「研究のメモだな」

 しかし、流石に死霊術は詳しくない。

 ざっと見ただけでは内容は理解できないが、めくっていくと、名前なのか、何かが書いてある。

「ローザ? 女の名前か?」

「……貸せ」

 ヒースが手帳に手を伸ばしてくる。

 アルスを見ると、好きにしろといった顔をしている。

 手帳をヒースに渡すと、食い入るように見ている。

「……死体、見られるか?」

 いつになく真面目なヒースに、驚いた様にアルスが頷き、コハクに案内するよう指示し、自分も立ち上がる。

「クラウスはどうする?」

「そうだな」

 ミルラを見る。

 落ち着いた様だが、独りにして大丈夫だろうか。

 その雰囲気を察したのか、ミルラが言った。

「私なら、ここで待ってるから。気にしないで行って来て」

「じゃあ、ちょっと手帳とか調べてもらえる? 何か身元が分かるようなことが書いてないか」

 アルスの提案に頷き、ミルラは手帳を受け取る。

 内容を見る顔は、論文を読む魔技術師の物になっていた。



 コハクに付いて、遺体を安置した天幕に行く。

 顔を覆う布を外す。

 顔を確認し、ヒースが呻いた。

「……カクタス……」

「知り合い、なのね?」

 ヒースはアルスに頷き、続ける。

「カクタス・デセルト。幼馴染、とゆーか腐れ縁で、塾も同期だった。十年以上会ってないけど、間違い無いと、思う」

「じゃあ、今何をやっているかは、わからないのね」

「一度イースタージに入学したけど、途中でリクドの学舎に編入して……多分、そのままリクドで研究してたと思う。……目的も、あったしな」

 沈痛な面持ちで呟く。

「……ローザに、会えたか?」

 手を伸ばしかけ、腕が無いのに気が付いて、目を見開く。

「腕が!?」

「恐らく、銃の暴発だろう」

「銃? さっき、荷物の中になかったか?」

 アルスを見る。頷くのを確認して、口を開く。

「遺体の近くに、遺跡の壁に銃二〇丁程隠されてい。かなり長い間放置されていたらしい。中身は、試作型R-レッド。もしも、製作当時のものなら、十年は前のものになるな」

「……十年以上前の、銃、だって?」

 ヒースの顔色が変わる。

「どうした?」

「……十二年前の、ものだと、思う」

 声が掠れている。

 十二年前。

 R-レッドが広まったのは十年ほど前の事だ。

 それ以前に、何故、鉱物化学にも魔導器工学にも縁のない此処で、銃が?

 否。

 R-レッドの開発者は。


「レッドクレイ事件か?」


 レッドクレイ事件。

 十二年前、イースタージの鉱物化学の教授レッドクレイが殺害された事件。学生も一人、巻き込まれて亡くなっている。

 この事件以降、イースタージに鉱物化学の専任教員がいないのだと聞いた。

 それだけならば、特に珍しい事件ではない。

 しかし、少し裏の事情に詳しいものならば、R-レッドの開発者が『レッドクレイ』という人物だったこと、その人物が、銃が広まった頃には既に亡くなっていたことを知っている。

 ここで試作型を見なければ、この二つが繋がることはなかっただろうが。

「……それで、死んだ学生が、知り合いなんだ」

 ヒースが呟く。

「ローザ。カクタスの恋人だった。恋人の死が納得できなくて、医学を目指してたのに、死霊術に進んじまった」

 声が震えている。

「何で、今頃……」 

「そう。コハク、リクドに連絡。カクタス・デセルトの在籍と、現在の居場所の確認。行方不明になっているなら、遺体を改めさせて」

「畏まりました」

 アルスの指示を受け、コハクが走り去っていく。

「……死霊術で、何をしようとしていたんだ?」

「ローザに会いたい、って言ってたよ」

「死者に会う、か」

 死んだ人間は還らない。死者を現世に縛り付けようとするのは、生者の独善だ。

「一途、というか、融通聞かない奴だったからな。まして、あんな死に方されたら、忘れられないだろう。まぁ、だからって死霊術に走るのもどうかとは、思うけどな」

 遺体に掛けた布を直し、深く溜息を吐く。

「……イヤなもんだな。知り合いが、こういう死に方をするってのは」

 見ず知らずの人間でも、嫌悪している相手でも、気分が悪い事に変わりない。

「ありがとう。もういい。先、戻るな」

 力無くそう言って、ヒースは天幕を出ていった。少し遅れて天幕を出る。



「身元はわかったけど、どうしたものかしらね」

 そうは呟いているものの、次の行動は決めているのだろう。

「付き合うぞ」

 アルスが振り返る。

「……危ないのよ?」

「今更だろう」

 今まで何度もアルスの仕事に付き合っているが、よく無事でいられたと思う。まぁ、アルスに護られた事も多いのだが。

「いいの? 頼っても」

 頷く。

「荒事は出来ないが」

 私は頭脳労働専門だ。

「それは私の専門だから」

 アルスは穏やかに微笑み返してきた。

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