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竜皇女と魔技術師  作者: 凍雅
4/15

竜皇女と魔技術師 4

「ここはね~、お魚おいしいの~」

 仕方がない事とは言え、研究成果を捨てさせた代償として、夕食を奢る事になった。何故か、当然の様にアルスも付いて来ている。

 地味な格好をしても元の派手さは隠せないアルスと、色々な意味で街の有名人なミルラ。なじみの店で、これでもかと言うほどに、店内の注目を集めている。

 私の立場は、一見すれば両手に花と見えるかもしれない。

 しかし、この二人、最低でも一方の中身を知っている人間ならば、口でも裂かれない限り「奢ってやる」などと自分から言い出す事は無いだろう。

「いいお酒も置いてあるし、ねっ」

 ミルラの笑顔が向けられたのは、私。次ぎに店の主。

 店主は営業用の笑顔を引きつらせ、明らかに財布にされていると判る私をカウンターに招く。

「両手に花だねぇ」

「喜んで替わってやるぞ」

「ミルラに奢るのは、二年に一回くらいでいいよ」

 二ヶ月に一度は、タダ酒を飲ませている店主は苦笑した。

「今なら洩れなく、更に立派なうわばみがついてくる」

「クラウス……言っておくけどツケにも限度があるからね」

 露骨に蒼ざめ、引きつる店主に、包みを渡す。

 カウンターの陰で中身を確認し、驚いたように顔を上げた。

「もし足りなければ後で払う。あの二人の好きにさせてやってくれ」

 店主が更に引きつる。あの包みで足りないかも知れない、この可能性が私には疲労感、他の人間には恐怖を与える。

「……なにがあったか知らんが……。よし。クラウスの分は、奢りにしとくよ」

 あまり有難みのない申し出だ。

「是非そうしてくれ」



 そう答えてカウンターを離れようとし、余りに賑やかな、かの一角に戻るのを躊躇い立ち止まる。

 出来ることならば、他人の振りをしたい。

 既に酒瓶が林を作るそのテーブルには、意気投合したうわばみ二匹。

 少量で酔うくせに、酔ってからが底無しのミルラ。

 酒好きで雰囲気には酔うようだが、そもそも酒に酔うのかどうかが怪しいアルス。

 美女二人のあまりの飲みっぷりに他の客も唖然とし、ナンパしようという男もいない。

 ……いや、近づいて行く男が一人。

「ん? ミルラ、と、アルスさん? 何で一緒に……ってゆーか何だこのビンの山?!」

「あ、ひーすぅ」

「……お前、またそんなに飲んでるのか?」

「えー? きたばっかりだよぉ?」

「あぁ、丁度いいわ。追加、もらってきて」

「あ、はい。アルスさんの頼みなら喜んで」

 通常は女受けする笑顔を返し、カウンターに来たヒースは私に気づくと、あからさまに安堵の表情を浮かべる。

 ミルラの酒代の請求が、自分の所に回って来ないと分かって安心したらしい。 

 店主に追加注文を告げると、苦笑して私の隣に来る。

「いいのか? 折角、両手に花なのに離れて」 

「喜んで替わってやるぞ」

「羨ましいが遠慮しておく」

 この状況でも『羨ましい』と言う言葉が出てくるところが、ヒースらしい。

「そもそも片方俺のだし。破産と引き換えじゃ、割りに合わないだろ?」

「気が変わったらいつでも言え。請求書ごと、熨斗つけてくれてやる」

「……は、ははは……」

 視線を走らせ、ざっとビンを数えて計算したのか、乾いた笑いが引きつっている。

「やっぱりぃ、おとこわぁ、おかねよれぇ」

 そんなやり取りが聞こえたのか、既に呂律が怪しいミルラが呟く。

「あたしもぉ、くらうすにのりかえよっかなぁ~」

「ダメ。私のだから」

「にばんめでいいからぁ」

「だ~め」

 私は物か。



 同じテーブルに付く気にならず、皆が避けている隣の空いたテーブルにヒースと座り、溜息を付く。

「……詳しい事情は聞かないけどな」

 ヒースが、隣の女二人の会話に聞き耳を立てながら呟く。

 蒼ざめるくらいならば、聞かなければいいと思うのだが。

「時々、お前は本当に器の大きい奴だと思うよ」

 おそらく、褒め言葉なのだろう。

「必要に迫られて、な」

 何せ、受け止めなければならない相手は、竜なのだから。

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