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竜皇女と魔技術師  作者: 凍雅
10/15

竜皇女と魔技術師 10

 天幕に戻ると、魔技術師二人が遺留品である手帳をはさんで、珍しく真剣なやりとりをしていた。

「何か見つけたの?」

 初めて見る真面目な二人に興味を引かれたのか、アルスが問いかける。

「うんっ。クラウス、ここ見てっ」

 ミルラが示す場所を見る。

 死霊術に必要とする魔法力を補うために、魔法生物の骸を使う……?

「貸せ」

 手帳を奪い取り、前後の記述と併せて見ていく。

「アルス」

「何?」

「その銃弾、撃ってもいいか?」

「はぁ!? 何を訳わかんないこと言ってるのよ。魔素が乱れてるからから、下手したら暴発するわよ。それ以前の問題に遺留品だからダメ」

 やはり駄目か。

「では、そのままで中の魔法を判別出来るか?」

「……ホント、魔技術絡むと平気で無茶言うわよね、貴方」

 ぼやきながら、アルスは銃弾を手にする。

「……?」

 怪訝な顔で首を傾げた。

「水と地の……植物育成魔法??」

自分で判別しながら、納得がいかないらしい。

「他には?」

「んと、こっちは……回復魔法、だわ」

 すると、この記述は実行段階にあったということか。

「話が見えないんだけど」

「五月蠅い」

 アルスを無視して手帳を調べる。

「……クラウスのバカ」

「んー、久しぶりに本気になってるわねー」

「あぁ。ああなると、しばらく周りは眼に入らないからな」

 周りがなにやら騒がしい。集中が乱れる。

「私だって仕事なのに」

 アルスのぼやきに、ふと我に返る。そういえば、遺跡の異常の探査が本来の目的だった。 しかし、これが無関係とは思えない。

「三〇分」

「え?」

「邪魔をするな」

 それだけ言って、手帳の内容に集中する。

「……三〇分であれを理解する気なのぉ?」

「だろうな」



「……可能、なのか?」

 手帳を閉じて、考えをまとめる。

 ふと、周りが静まり返っている事に気づく。

 顔を上げると、三人が暢気に茶を飲んでいる。

「あ、お帰り」

 アルスが、カップを渡してくる。

 珍しい事も有るものだ。受け取ろうと手を伸ばしかけ、止める。

「……何をした?」

 湯気が、異常ではないだろうか。

「ちっ、やっぱりひっかからねーか」

「やったっ。さすがクラウス」

「個人的には、ひっかかって欲しかったんだけど」

 ……賭けていたな。

 しかし、いつの間にこんなに馴染んでいるんだ。

「置いておくわね」

 テーブルに置かれたカップの中身は、どう見ても煮立っている。

 これは、怒っているのだろうか?


「で、何かわかったの?」

「大まかにはな。幾つか確認したい事がある」

「何?」

「魔法生物の死骸に、魔力はあるのか?」

 魔法生物。人ではない者で、魔力と知能を持つ者をこう呼ぶ。

 ただ、人間が勝手に名付けただけなので、神に準じる竜帝から、下級の魔力を持つ生物まで含まれる。通常は、本性の他に人の姿をとれる程度の能力が有る者を指し、本人たちは太古の神に仕える種族だったという誇りから「眷族」と名乗る。

「能力によるわね。竜なら血が竜血石になっても、魔力があるわけだし。遺体が原型を留めている方がいいけど」

「では、魔法生物を死霊術で操る事は、可能か?」

「不可能じゃないけど」

 アルスはしばし考え、問い返してきた。

「それって、動かすってこと? それとも支配するってこと?」

 ああ、そうか。死体をただ動かすのと、支配して命令を聞かせるのでは、難易度が全く異なる。

「両方、だな」

 アルスは少し考える。

「動かすだけなら、人間より簡単かもしれないけど、支配は並の魔法術師には、無理」

 アルスの言う『並』はリュドラスの基準なので、一般的には上の中程度に相当する。

「動かすだけなら、花にだって出来るわけだしな」

 ヒースが口ぼそりと呟いた。

 花?

「屍操花か?」

「なに、それ」

 ミルラも混じってくる。

「魔法植物の一種で、死体に寄生するんだ」

「死体に『寄生』? 変じゃない?」

 ミルラが首を傾げる。

「死体の脳に入って、そこから神経に沿って根を張って、死体を動かす。死体がミイラ化して、皮膚の下に根が血管みたいに見えて、根が完全に神経に成り代わったら、頭に花が咲く、って代物だ」

「……イヤな花ね」

 ヒースの説明に、眉を顰めて呟くミルラ。

「そんなものがあるんだ」

「……存在する、ってものの本にはある」

 ヒースはしばし沈黙し、歯切れ悪く、そういった。

「此処に、あるのか?」

 ヒースが無言でアルスを見る。

「あるって事ね。機密事項に引っかかるんでしょうけど、管理者より私の方が上だから。情報は正確にね」

「じゃ、遠慮なく。確かにあるよ。一回採取して報告書も書いた」

「かなり前だろう?」

「あぁ、ここの学舎に入りたての頃だ。その時はまだ『屍繰花』なんて物を知らなかったからな。ただ、頭に花が咲いてるネズミがいて、珍しいから報告したら、学舎も公邸も大騒ぎになった」

 そこで言葉を切って、続けた。

「その時、カクタスも一緒だった。此処以外にあるかは分からないが、存在を知っているなら、死霊術と組み合わせることを考えても、おかしくないだろ?」

 そうか。これで繋がった。


「で、クラウス。まだ何かあるの?」

 いい加減に苛々してきたらしく、アルスが急かしてくる。

「とりあえず、繋がった」

「それで?」

 全く、相変わらず気が短い。アルスの気が立って来ているので、手短に説明する。

「死霊術を発動させるには、魔法力が必要になる。しかし、あの魔技術師には魔法力が無い。そこで、必要な魔力を魔法生物の死体から得ることにした」

 三人、というかアルスの理解が付いて来ている事を確認しながら話を進める。

「リクドの墳墓遺跡なら、かなり古いだろうが、探せば魔法生物のミイラくらいあるだろう」

 リクドの遺跡は、古代帝国の皇帝や貴族の墳墓群だ。皇帝は竜だが、当時の貴族は魔法生物も多かったと聞く。

「しかし、それから魔力を得るには、死体を支配出来ないまでも、動かせなくてはならない。本来なら死霊術を使うべきだろうが、動かすだけでも魔法力が必要になる。そこで、魔法術でも魔技術でもない方法をとった」

「それが、屍繰花か」

 ヒースが呟く。頷いて続ける。

「通常なら、名前は知っていても、探す途中で諦めるだろう。しかし、幸か不幸か、存在する場所を知っていた」

 もし、私が彼の立場でも、誘惑に勝てる自信は無い。

「どうやったかは判らないが、此処から持ち出して、リクドで見つけた物に植えたのだろう」

「じゃあ、あの植物成長促進剤って、その肥料なの? でも、なんで銃弾?」

 ミルラが首を傾げる。

「屍繰花は、支配が行き渡るまでは体表に姿を表さない。だから、体内に成長促進剤を入れる必要があると考えたのかもしれない」

「治癒魔法の銃弾は? 相手を助けたいの? 殺したいの?」

「聖属性の攻撃魔法は高位だから、低位の回復魔法にしたのだろう。不死者が相手なら、回復魔法も攻撃手段に成り得る」

 そこまでは、判るのだが。

「しかし、何故銃弾に込める必要が有ったのかが、判らない。だが、通常、銃弾に適さない魔法を封じ込めた技術は、見事だ」

「そうよねっ。これってクラウシア第四定理とバルニアスの法則応用?」

「ふむ……いや、むしろ第六定理を……」



「いい加減にしなさいっ! この魔導器オタクっ!!」

 アルスの怒鳴り声で我に還る。

「あなた達、今の状況忘れてるでしょう」

 しまった。思わず、魔導器の構造解明に熱中してしまった。

 アルスの魔力の高まりを、魔導器が感知している。これ以上怒らせるのは危険だ。

「……あぁ、すまない」

「う~」

 ミルラは明らかに不満そうな顔をしていたが、アルスに一睨みされると、慌ててヒースの陰に隠れた。

「ごっ、ごめんなさいっ!」

「わかればいいわ」

 口ではそう言いながら、一向に怒りが収まる気配は無い。

「で?」

「あぁ、つまり」

 ……どこまで話しただろうか。

「死霊術を使うための魔力を得るために、魔法生物の死体を使うことにしたあの男は、イースタージで手に入れた屍繰花の種を、リクドで見つけた何かの死体に植え、死体を動かした」

「そこまではさっき聞いた。問題はね、なんでここにいるのか。それと、なんであんな死に方してるのか」

 気が立っているのが伝わってくる。

「移動してきた事に関しては、遺跡の転移施設を使ったと考えるのが妥当だが……」

 遺跡の転移施設の研究は、公表されていない。しかし結論として、強大な魔力がなければ使えないことは、周知の事だ。アルスが、特三並の魔力が必要だと言っていることからも、裏付られる。

 施設を使うには、知識が必要だもと言っていたが、リクドに葬られるような貴族ならば。

「屍繰花に操られた死体に、生前の記憶は有るのか?」

 ヒースに問うと、肩をすくめて見せた。

「ネズミと話せるか?」

「文献に何か無いのか?」

「知能のある生物に寄生したという記述は無い。あるとしたら禁書だろう」

「ねぇ。そもそも、死霊術で死体の記憶を呼び戻せるでしょ?」

 ミルラが言った。

「あぁ、けど、神経系は脳を含めて屍繰花の支配下になるはずだ」

「そうかなぁ? 運動関係の場所だけでいいんじゃない? 花は難しいこと考えないでしょ?」

 そう言う問題だろうか。

「仮にそうだとして」

 今一つ納得がいかないが、

「何故、イースタージに?」

「それは、ローザの墓が此処にあるからだろ」

 ヒースが事も無げに言った。

「死霊術を使うなら、その死体がある場所だろ?」

「で、そこまでいいとして」

 アルスの声が苛ついている。いい加減、議論に飽きてきたらしい。基本的に、頭脳労働には向かないので仕方がないか。

「だから、なんであんな死に方してるのよ?」

 それは、ある程度考えが至っている。

「銃を撃つような状況になったのだろう」

 出来れば、これ以上怒らせたくは無いのだが。

「学生の間で、遺跡に竜がいるという噂があるそうだが」

 ヒースとミルラを見る。

「出所はどこだ?」

「はっきりは分からないけど、日頃から遺跡に入り込んでる人たち。遺跡構造学の専門課程の生徒かなぁ?」

「あの暇な学生たちは、どの辺りまで入り込んでいる?」

「さぁな。でも、さっき崩れてたところの少し先が限度だろう。講義で入れる区画以外は、さすがに特務部が付いてないと行けないな。魔法術を使える奴がいれば別だけど」

「遺跡に宝物があるという噂は?」

「俺が学生の時にはあったから、十年以上前からあるな」

「アルス、さっきの銃はあるか?」

「ああ、これ?」

 アルスが、さっき遺跡で見つけた銃を取り出す。

 それを見た瞬間に、ミルラの顔色が変わる。


「そっ、それ!!!!」

「……これが、何?」

 その剣幕にやや押され気味に、アルスが問い返す。

「R-レッド、しかも試作型!!」

 眼の色が変わっている。

「貸して見せて触らせてっっ!!」

 アルスが、困惑したように、弾倉を開けて弾がないことを確認し、気押されるようにミルラに渡す。

「きゃぁぁぁ。本物だ~。この形~、この鈍い輝き~、素敵~、欲しい~!」

 手にとって、頬ずりしている。

「……別に珍しい銃じゃないでしょう、R-レッドなんて」

 呆れた様にアルスが呟く。

「違うの~。一〇年以上前の初期型と、それより古い試作型は全然違うの~」

 うっとりと銃を見つめる姿は、傍目にも危険人物としか見えない。

 話が通じないと諦めたらしい。アルスが、説明しろとばかりにこちらを見てくる。

「初期型R-レッドは、金属弾銃だが、魔法弾を使っても安定性が高いので、改造用の素体として人気が高い。今一般に出回っているMAやMEも、元は改造銃だったものが量産されて広まったものだ。新規に初期型そのものを作ることは困難らしく、かなりの高値で取引される。試作型なら、一部の魔技術師には垂涎ものだな」

 アルスはいまひとつ腑に落ちない様子だが、体現者が目の前にいるので、納得する気になったらしい。

 私も心が動かないでもないのだが、ミルラのような真似は、流石に出来ない。

「ミルラ」

 いつになく、硬い表情でヒースが呟く。

「ん~、なぁにぃ?」

 意識は完全に銃に向けたまま、生返事を返す。

「その銃を作ったのは、イースタージの学生だ。ローザ・レッジ。カクタス……さっきの死体の恋人で、俺も友人だった」

「え?」

「趣味で作ったものを、教授が自分の研究として裏で売に出したらしい。結果的に、十二年前、銃の密売に絡んだ事件で殺された。教授も、ローザも」

「……え?」

「それは、そのときに隠されたままになったものだろうな」

「……」

 ミルラが、静かに銃をテーブルに戻す。

 流石に、そういわれて銃に酔い続けていられるほど無神経ではないらしい。

「噂の『お宝』の正体がこれだって言いたいのか?」

「恐らく、そうだろう」

「俺には、価値は分からないけどな」

 溜息をついて、銃に視線を向けた。

「で、これは開発初期のもので、十二年前の事件の時のものだって言うの?」

 アルスもしみじみと銃を見る。

「うん。試作型R-レッド。間違いないと思う」

「量産化される前の型なのは、間違いないな」

 私とミルラの鑑定を信用することにしたらしく、アルスは話を進めた。

「壁が崩れてたのは? あと、あの男が死んでたのは、銃の暴発なんでしょう?」

「壁を崩したのは、やや意図的な様子があったから、銃を隠すためかも知れない。ミルラ」

「何?」

「最近、試作型が売りに出されていたと言っていたな。どこで見た?」

「『掘り出し物』で、こっそり見せてくれたんだけど」

 『掘り出し物』は、魔導器やその部品を扱っている店の名だ。

「あんな奴に持たせるのはもったいないとか、価値が分かる人にしか売らないけどまけない、とかぼやいてたから、価値が分からない人間が持ち込んだんでしょうね。誰とは言ってなかったけど……ん?」

 ミルラが言葉を止める。

「もしかして、学生が……?」 

「可能性は高いな。銃の隠し場所で鉢合わせて揉めて、発砲したのかも知れない。壁を崩したのが、どちらかは分からないが」



「で、解説終わり?」

 うんざりとした顔でアルスが呟く。むしろ、これ以上続けるなとその目が言っている。

「一通りはな」

 まだ疑問が残るが、今は止めて置いた方が良さそうだ。

「ただいま戻りました」

 まるで頃合いを見計らったかのように、コハクが戻ってきた。

「リクド魔技術学舎に問い合わせましたところ、研究員カクタス・デセルトは一月前から失踪しているとのことです」

 公邸同士は、魔法術による遠距離通信ができる。それにしても、いつもながら迅速な対応には驚かされる。

「一月か。死んでからの日数を考えると、普通の交通手段では厳しいな」

 リクドからイースタージは、乗り合い馬車を使っても一月近くかかる。

「本人確認のため、遺体を公邸に搬送するよう指示を出しましたが……」

 慌てて走り寄ってくる足音に気付き、コハクが言葉を切る。

「申し上げます!」

 荒い息と共に天幕に駆け込んできたのはルース。

「何が?」

 アルスが短く問う。

「遺体が、消えました」

「……消えた?」

「はい。公邸に搬送するため、安置していた天幕に入りましたところ、姿を消していました。運び出した者も、それを目撃した者もおりません」

 アルスが無言で立ち上がる。大股に天幕を出て行くその後姿を、コハクが追う。

「死体が消えたって、なんでぇ……?」

「どうする? クラウス」

「ここにいても仕方が無いだろう」

 私たちも、顔を見合わせ、アルスたちを追うことにした。

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