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ユウガな軍神 街獣総力戦  作者: にのい・しち
二章 邪眼の中の侵略者
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金星の神話

 先生が話を続けると生徒達は、真剣な顔付きになり、耳をそばだてた。


「母なる星を脱した祖先は金星へ降り立ち、それぞれの街獣に住み着くと溶岩の平原により交流を絶たれ、独自の文明社会を構築するようになりました。自給自足で生活をまかない、勤勉に働き経済の発展と民族の繁栄を築きあげて来ました」


 それで俺達が今いる。て言いたいんだろうけど説明が飛び過ぎてて、理解に苦しむ。

 俺の脳は必死で白紙の紙に、芯が折れかけている鉛筆で殴り書きしながら、先生の話を記憶しようとしている。


「ですが神々の生活圏は狭く資源も限られています。いつしか街獣に住まう人間同士の資源戦争へ突き進むのです。灼熱の世界では街獣同士が、本能に従い熾烈な生存競争を繰り広げ、街獣に住まう民族が資源を奪い合う紛争を続けています。それが世界の現実なのです」


 世界の現実――――戦争なんて伝説の話で全部、過去の出来事だと思ってた。

 でも俺達が関係ないと考えていた事は、街の外でいつも起きていて、今、学校で能天気に話を聞いてる間も続いている。


 この瞬間にも誰かが戦争で死んでいるのか?

 正直、そんな話を信じろなんてバカげてるぜ。


 普段から眠くなるような授業する、社会科の先生は口ごもった。

 言いづらそうに口を開く。


「新たな世代の皆さんに、このような話を聞かせるのは気が引けますが、かつてこの街は他の民族を侵略した歴史を持っています」


 侵略の歴史。

 その言葉の重みが急にのし掛かる。

 俺も生徒達もどう受けてめていいのか戸惑った。

 だって今まさに侵略されてるのは、俺達の街なんだから。

 なのに、昔の人が実は同じことをしていたなんて言われたら、混乱しちまう。


「戦時中、学校は軍隊教育でした。当時の若い世代に行った教育は『街の為に戦い、命を費やす』ことです。そうして若い人々を戦闘の前線に送りましたが、今となっては過ちでしかありません」


 先生の話に教室が凍りついた。


 それって街の為に死ねって授業をしてたのか?

 俺の親父は兵隊だったらしいけど、そんなことをガキの頃に学校で教わってたのか?


「戦争が終息へ向かい我が街が、安住の地を見つけ戦争行為を放棄すると、間違った教育を見直し次の世代を教育する為、平和と労働へ勤めました。それが今の皆さんです」


 先生の話は俺達の歴史のダイジェスト版だが、聞いていて長い冒険をしたような疲れを感じた。

 ようやく話が行き着く所に、行き着いた気がした。


「大人が皆さんに街獣や戦争を隠してきた理由、それは我々ユウガのたみが他の人間よりも優れていて、高潔な民族であるというおごりからあらわになった愚行です。故に戦争の象徴となる街獣を忘れることにしたのです」


 クラスは頭の整理が出来ないのか、ほとんどの生徒が目を丸くしてる。

 俺に至っては丸どころか白目になって、頭のてっぺんから煙が出てると思う。


 衝撃のヒストリーで沈黙した教室に、校舎の外から強烈なハウリングが轟く。

 心臓が飛び出そうなほど驚いた。

 今、街に住む人間はこのハウリングに敏感だ。

 初めて外の世界から街獣が侵略して来て、街の軍神ユウガが目覚めて戦った後、"ジャガン"とか名乗る奴らがこの街のスピーカーを乗っ取り、変な宣言をしやがったからだ。


『ユウガ民族よ。聞こえるか? こちらはジャガン・エスニシティである』


 生徒達はどよめき一斉に立ち上がると、激流に運ばれたように窓へ押し寄せた。

 どんなイベントが起きるのか待ちきれない生徒達は、彼方に耳を澄ませる。


 崖に立てられた校舎の下は道路で、様子を見るとちょろちょろ走る蟻が、一斉に止まったように見えた。

 教室と反対に街の通行人は凍り付いたように止まって、スピーカーに時間を奪われる。


『我がエスニシティは貴公の行いを、生命の繁栄を遮る重大な障壁として見ている。二十四時間後、こちらは進行を開始する。阻むのであれば我が街は防衛策を講じるまでだ』


 何言ってやがる?

 それって戦争が始まるってことかよ?

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