三羽ガラスの不良共
丁度、先生共が屋上まで追いつくと、体育教師以外は息を切らして頭を垂れる。
体育教師は怒号を轟かした。
「この不良共が!」
俺は腰にロープを巻きながら、屋上の縁へ寄ると、先生共をおちょくる。
「先生〜やだなぁ、これはみんなを喜ばせるザッツ・エンタメっスよ?」
「何がエンタメだぁあ!?」
「あばよ!」と挨拶だけ残し駆け寄った先生の手が届く前に、俺と相棒は飛び降りた。
校舎の壁に足を着けて垂直に立ち上がって踏ん張ると、壁に向かって屈伸してジャンプ。
宙に浮いてる間にロープを伝い降り、壁に着地する。
窓から顔を覗かせエールを送る生徒達に見守られながら、降下。
「ディノン! クリム! 今日も派手にやったな?」「面白かった!」「次は何やんの?」
すでに俺と相棒のファンとなった生徒達へ挨拶をしながら壁を伝い降りる。
「みんな! 次のショーも派手にやるから、期待してろよ!」
予告をしながら相棒と共に、ラペリングで校舎の下まで降りてきた。
崖から校舎を支える土台の懸崖は、太い木の柱を縦横に組み合わせて、柱同士を固定することで強度を増している。
俺と相棒からしたら、ちょっと背伸びしたジャングルジム。
俺らは猿が木の間を飛び交うように柱の間をくぐり抜け、蜘蛛が糸を伝って降りてくるように降りていく。
足を滑らせれば崖下へまっ逆さまに落っこちるんだ。
最高にスリルがあるぜ。
日頃からエクストリーム・スポーツを嗜んでる俺と相棒からしたら、これぐらいのスリルがないと物足りない。
懸造を通り越すと、その下は岩肌が尖る崖。
岩に腹を付けて慎重に足を突起する岩に乗せながら、手で出張った岩を掴んでバランスを取る。
二人して壁に張り付くヤモリのように、崖に張り付き降りる。
そうしてようやく校舎下の道路に降り立つことが出来た。
崖下の道路には俺ら不良仲間の一員、蝶ネクタイから優等生風を吹かすタロがいた。
「ディノン、うまくいったね!」
メガネをかけたチビで身体が細いタロは、基本的に俺と相棒のパフォーマンスを見るだけのオーディエンス。
金色の髪型が逆さまにしたお椀のようで、キノコがメガネをかけてるように見えるから【キノコメガネ】や、小学生並の身長から【チビ助】の愛称を付けたが、本人は不服のようだ。
三〇メートル上、学校の屋上から頭を見せた体育教師はアリよりも小さく見え、崖下に向かって怒鳴る。
「お前ら~! 悪さばっかりしやがって、ろくな大人にならないぞ!」
「はっ! つまんねえ大人になるよりマシだよ!」
「そこで待ってろ!」
「待てと言われて、待ってたら不良なんてやってねぇよ!」
俺はチビ助を肩に担いで、尻を屋上の先生共に見えるように向け、タロのズボンを強引に下ろした。
担がれ尻丸出しのチビ助は「ひゃあ!?」と、言いながら足をバタつかせもがく。
俺はタロのモチモチした生尻を、太鼓のように叩いて先生共を挑発した。
その後で相棒のクリムと一緒に、洪水から逃げるネズミのように走った。
タロが喚いてうるさい。
「わああぁ!! ディノン⁉ 何で僕のお尻を使って挑発するのさ!」
「お前のケツが叩きやすいからだよ!」
「自分のお尻でやってよ⁉」
「っるせぇな? 俺らの中でお前が足遅いんだから、走るとき担がないと逃げ切れねぇんだよ!」
「じゃぁ、ズボン下ろすのやめてよぉお!」
「ケツだけに難しい決断だな」
「上手くない!!」
§§§
俺ことディノン様が率いるワルの精鋭は二人だ。
相棒のクリムは黒ずくめに大きめのニット帽を、まぶたの上までかぶる少しクセのある奴。
とは言っても親父さんが郵便局に務める平凡な十代だ。
服装から解る通り、あまり目立つことと他人と話すのが苦手なようで、割と暗い印象を受ける。
そのくせ運動神経は抜群。
俺がハマってるエクストリーム・スポーツの唯一の練習相手だ。
むしろ俺よりも危険なことが得意かもしれない。
もう一人がお坊ちゃん服に蝶ネクタイのタロ。
身長は小学生と大差ないチビで、一言余計なことを言う性格が相手の神経を逆なでするから、つい殴りたくなる。
優等生なのでそのままでいれば先生からも良く見られるのに、不良の俺とクリムとつるんでいる。
チビ助のキノコメガネは偉い政治家の四男坊。
勉強が出来て知恵も回り学校ではエリート街道を歩いているはずだが、政治家一族の中では落ちこぼれ。
優秀な兄貴達のいる家では窮屈だったのか、気晴らしで俺らとつるむようになった。