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ユウガな軍神 街獣総力戦  作者: にのい・しち
一章 ことの始まりは優雅に
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聖女の行進

 二対の角を持つ怪物が再び足を蹴り上げ、燃え盛る地を宙に舞い上がらせる。 

 かなりマグマの量が多い。

 街獣ユウガはその宙を舞うマグマ溜まりを全て腹で受けた。

 雲が誕生したかのような蒸気を巻き上げるマグマは、街獣の腹で全部防がれ流れ落ちる。


 一千度もの岩漿(がんしょう)を浴びたにもかかわらず、街獣ユウガはまるでぬるま湯をかけられたように平然としいた。


 街獣の皮膚は鉄や鋼以上に頑丈なのか?

 この過酷な環境に平然としてられる生き物がいたなんて、自分が生きてきた世界の常識が覆された。


 悪魔のような敵街獣は遠距離攻撃が効果が無いと悟り、纏う積乱雲と共にユウガへ立ち向かって来る。  

 その勢いは千の竜巻を合わせたような轟音。

 雲の中から左の腕を突き出し断崖絶壁と見舞うほどの拳が迫った。


 だが、その向かってくる拳はせり上がる大きな手により、阻まれ失速。

 岩礁と岩礁が激しくぶつかり合う音が続く。


 ヒゲクジラの顔をした街獣がトカゲのような手で、悪魔の手首を掴み攻撃を止めた。


 呆気に取られていると世界をノコギリで切断したかのような摩擦音が聞こえた。

 摩擦音は頭上から聞こえるので見上げると、クジラの顔をした街獣が剥き出しにした牙を、擦り合わせる音だった。

 ヒゲクジラに牙は無いと聞いたことがあるが、その牙は野良犬か狼のような狂気に満ちていた。


 これって……歯軋り?

 酷く気が立っているように見える。

 この街獣はブチキレてるってことなのか?


 街獣ユウガは空いている腕を振り上げて敵に向ける。

 目の前で宙に浮く島が動いているような、異様な迫力。

 指が段々と閉じていき拳になると、突き出した拳は積乱雲に呑み込まれ悪魔の二つの角の間、額の辺りに命中。

 ワイヤーで吊るした鉄球をぶつけたような勢いだった。

 

 ユウガが掴んだ左の拳を離すと敵街獣は上半身をのけぞらせ、五歩か六歩か後ずさりしてながらよろけた。


 一連と動作に付属するように避難場所の神社が激しく横に揺れて、避難民が一斉に叫び声を出しパニックにおちいる。

 だが、俺の目の前で鳥居よりも先にいる巨獣を見つめるイノリアは、一切動じることなく歌を奏で続けていた。


 街と同じ大きさの怪物同士の戦いだけで訳がわからないのに、彼女のやっていることも理解を越えている。

 あのは本当にこの世の存在なのか?

 岬で出会った時の彼女は、幽霊のような浮世離れした不思議な魅力があった。

 でも今は人間よりも高い位の存在に思えた。

 そういえば、ボディガードの白装束が彼女を呼ぶ時に言っていた。


 ――――――――聖女。

 

 イノリアが十字架に広げた腕を前にかざし声を甲高くすると、歌声が力強く引く弦楽器(バイオリン)のように震えた。

 それに合わせて貝殻のような街が歪な揺れを起こす。

 一定の感覚で左右の地面が振動する。


 街が、街が歩いてる?

 街獣ユウガが前進する度、その巨体が大きく左右に振られるにもかかわらず、不思議とユウガに引きずられる街の揺れは小さかった。

 街獣と街が別々に揺れている。


 街獣ユウガの肩越しに段々と悪魔の影が迫ってくるように大きくなったが、今は恐怖を感じない。

 むしろこれから先に何が起きるのか、胸が高まりしっかりと眼球に焼き付けようと、より目を見開いた。


 街獣ユウガは鎌首を深くもたげて、敵の懐位置まで潜り込む。

ユウガの半身が沈んだことで、悪魔のような街獣を真正面から見ることになった。


 街獣ユウガは勢いを付けて顔をしゃくり揚げる。

 眼下から地鳴りが徐々大きくなり、大気を轟かせて轟音へと拡張。

 ユウガの頭から口にかけての面積が、敵街獣の顔面に当たる。

突き上げられた衝撃で黄金の空を覆う雲は、波紋状に広がり曇天に大穴を作った。

 余波は地震となり街をぐらつかせる。


 俺はなんとしてでも今の光景を捉えようと顔を真っ直ぐ向ける。

 イノリアは前に放った両手を徐々に空へ上げいき、神からの助言を求めるように天空へ伸ばした。


 聖女が街獣ユウガへ求める次の動きは、岩塊が飛び立ったかのように大きく右腕を上げさせた。

 貫き高く上げた手の先には三日月のような爪が伸びて、黄金の空を突き刺す。

 そして流星のように振り下ろすと積乱雲に隠れた悪魔の肩をえぐり、そのまま鉄壁のような胸板まで土砂崩れのように引き裂いた。


 慄く悪魔へ街獣ユウガは間髪入れず左の腕を持ち上げて、今度は反対の肩から胸までを引っ掻く。


 ユウガの肩越しに攻撃する様を見ているからか、まるで自分が悪魔に向かって猛反撃しているような、爽快感があった。

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