表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪役令嬢はヒロインの推し!

作者: ぬいろく

今日は人生最悪の日だと思った。

突然自分語りで申し訳ないのだけれど、私は転成者だ。

もう察しのいい皆様においては分かってるんじゃないだろうか。そう、乙女ゲーム転成である。


このゲームは平民出身のヒロイン(私。名前はジェシカ)が貴族子女ばかりが通う学院に特待生として入学し王子様たちに見初められる、というこれまた使い古されたストーリーだ。

気付いた時はそりゃもう人生薔薇色だと思った。努力が報われることが既に分かっているのだから。

いっそ現代チートで成り上がってやろうとも思ったが、不思議なことに思い出せるのはゲームについてのみだった。


そうして必死で勉強して掴んだ特待生枠だったが学業だけでなく言葉遣いから礼儀作法など、

今まで学んでこなかった分野に苦しみながら必死に食らいつく日々に、「あ、これは無理だ。」と気付いてしまった。

ゲームの私、どうして勉強もマナーもダンスもできた上で恋愛までできてたんだ。

現実の私は勉強とダンスで精一杯だよ。恋愛なんてしてる暇はない。攻略対象?そんなのもいましたね。

唯一、メインヒーローでもあるオリヴィエ王太子殿下が声をかけてくださるが、内容に甘さなんてない。

いいんだ、この学院を卒業できたら就職先には困らないから。


そうして地味にこっそりと過ごしてたのにどうして、どうして私は今、リリアンヌ様の呼び出しを受けているのだろうか。放課後、人気のない中庭に来いだなんて完全に死亡宣告だ。

公爵家の娘であり、王太子殿下の婚約者であるリリアンヌ様は肩書きから分かる通り、この学院の女子生徒ヒエラルキーのトップだ。そしてゲームの悪役令嬢でヒロインにキツイ言葉を投げたり、イジメの黒幕だったりする。そして王太子殿下との婚約も完全な政略で愛はなく、最終的に婚約破棄をされる。ついた呼び名は鮮やかな紅色の髪にかけて苛烈なる薔薇姫。ちなみにゲームよりも実物の方が美人だった。

そんな彼女に目を付けられたら確実に終わる。それはもう、あっさりと私如き平民の人生など儚く散ってしまう。


「ジェシカさん、あなたはどうして呼び出されたかわかるかしら。」


「申し訳ございません、分かりません」


中庭の噴水を背に、腕組みをし仁王立ちしているリリアンヌ様は明らかに機嫌が悪い。

不機嫌な美人というのはどうしてこうも迫力があるのだろうか、と現実逃避をしてしまう。いや、正直呼び出された理由はなんとなくわかっているのだけれど。


「あ、あなた最近オリヴィエ様と仲が良いらしいじゃない。」


ですよねぇ!!いくら冷え切った婚約関係と言われていてもリリアンヌ様という婚約者がいるのだから、王太子殿下に近付くな、というわけですね。当然のことだと思います!なるほど、安心してください。そんな気は毛頭もないことを全力で主張させていただきます!


「そんな滅相もございません!殿下は女性の社会進出に力を入れているらしく、文官にならないかとお声がけしてくださっているだけです。申し訳ないのですが、私に王宮仕えは荷が重いため遠慮させていただいています。」


そう!王太子殿下とは本当に仕事の話しかしていない。攻略方法は知っているが、仕事の話をするイベントなんてなかった。当然好感度も上がってない。何より私はマナーの授業が一番苦手なのだ。王宮勤めなんてできる気がしない。王妃?ぜったいむり。


「荷が重いと言うけれど、あなたは特待生なのだし、オリヴィエ様が声をかけると言うことは優秀なのでしょう?それに貴方がはっきり断らないからオリヴィエ様に声をかけ続けられるのではなくて?」


あぁ眉根を寄せながら呟くリリアンヌ様も美しい…

ですが、どっちの味方なのですか、リリアンヌ様。私に王太子殿下と関わらないでほしいのではないのですか。

どうせ呼び出された時点で終わったのだ。消されるか、よくて学院から出て行くかだろう。だからこそ、覚悟を決めろ、ジェシカ。平民風情の未来なぞ、お貴族様の気分次第なのだからと様々な場面で耐えてきた。最後くらい溜まりにたまった不満をぶちまけろ。あい あむ ヒロイン!


「確かに、確かに私は特待生です。学業成績はこの学院でも優秀でしょう。ですがそれは今まで勉強しかしなくて済んだからなのです。平民にはマナーやダンスや刺繍を学ぶ必要はございません。でも、学院の授業ではそうはいかない。私は、全部頑張って、全部いい成績を取り続けなくちゃいけなくて、その後も王宮仕えでずっと気を張って生きて行くなんて無理!!でも王太子殿下の提案を平民ごときが断れるわけないじゃない!無難に笑って遠慮する以外どうしろって言うのよ!!」


肩で息をする私の勢いに驚いたのか、ぽかんと口を開けるリリアンヌ様。それでも美人ってすごいな。

ってか、終わった。完全に終わった。敬語も取れてしまったし、不敬なことも言った気がする。あぁ許されるなら苦しまずに死にたい。父さん、母さん、親不孝な娘でごめん。


「つまり、あなたはオリヴィエ様が好きなわけではないのね?」


え、そこ?一番気になるのそこなんですか、リリアンヌ様。私結構言っちゃいましたけど、いいんですか。ん?待てよ?


「もしかして、リリアンヌ様は王太子殿下のことはお好きなん「どうしてそうなるの!!」」


つい、こぼれた質問に被せるように叫ぶリリアンヌ様。焦ってる姿がちょっと可愛い。

でも多分可愛いって言うと怒られる。学院で鍛えられた平民の空気読みスキルがそう言ってる。そして同時にゲームや噂通りの人ではない気がしてくる。父さん、母さん、どうやら私、生き延びそうです。


「先ほどの私は随分失礼なことを言ってしまったにも関わらず、王太子殿下のことをおっしゃられたので。ご不快にさせてしまったのであればお詫びいたします。」


「誰が頭を下げろと言ったのかしら。そもそも貴族の教養を平民が一緒に受けているのが間違いなのよ。同じレベルにいないことを学院はどうしてわからないのかしら。オリヴィエ様とも住む世界が違うんだから。っそれよりも貴方のその発想の方が意味わからないし失礼だわ。私が、その、オリヴィエ様を好き、みたいな…」


この人、ただ口調がきついくて言葉が足りないだけの優しい人だ。誰だ、苛烈な薔薇姫って言った人。

今も、居丈高に言ってるけど「頭を上げてちょうだい、平民なんだからいきなり出来るわけないもの。学院はもっと初歩的なところを学ばせるべきだわ。オリヴィエ様にも断れるわけないわね」ってことでしょ?え、なに、美人のツンデレとか推すしかない…

しかも顔真っ赤にしながらどんどん小声になってくリリアンヌ様超かわいい。推せる。はーーーーーー、顔やばい。引き締めよ。


「では、お嫌いなのですか」


「そんなこと言ってないでしょ!…あ。」


えぇ…可愛い。もう可愛いしか言葉が出てこない。ほんと愛のない政略結婚ってなに。リリアンヌ様、王太子殿下のこと絶対好きじゃないですか。ゲームも噂もあてにならないものだな。ようやく、私にとってここが生きている現実世界なんだと実感したかもしれない。私の持っているゲーム知識はこの人のために活躍するんだ。


「リリアンヌ様。私、誓って王太子殿下に懸想などしておりません。その証拠に王太子殿下の御心を必ずリリアンヌ様にお向けいたしましょう。大丈夫です。任せてください。」


「わ、私は別にそんなこと…でもそうね、どうしても貴方がやりたいというならやらせて上げてもいいわ。」


「是非、やらせてください!」


推しの幸せは私の幸せ。

私、絶対にリリアンヌ様に王太子殿下ルートを攻略させてみせます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ