牛の見ているモノ、人の見ている光景
『――じゃあ、タイミング合わせてやるぞ! 気を付けるんだぞ!』
『わ、分かりました……しかし、大丈夫なのでしょうか』
大丈夫か大丈夫じゃないかとかどうでもいいんだよ! 何とかする、いや何とかなるんだよ! そんな、誰かの人生滅茶苦茶にしたとかいう重荷を背負いたく無いやい!
「おっ!? おっ!? 動き出したぞ!?」
「なんだ、何が始まるんだ!? 遂に実験体が……見つけたのか!? 突破口を!」
お前が見るのはそんな逆転劇じゃなくて、余りにも馬鹿すぎる茶番劇だよ! 最高の喜劇を見せてやるから、楽しみに舞ってやがれってんだバーカ!
『じゃあ先ずは君から俺に掴みかかって! 後ろの壁ぶち壊すくらい! 一気に!』
『分かりました……全力で参ります! ウォオオオオオオ! 唸れ私の筋肉とパーツ!』
よっしゃ、俺もしっかり受け止め……待って意外にパワー強い! 外の奴らと全然違うぞ流石に! ええい、理性の無い怪物だったりしなくて良かった! こんなんと殴り合いしてたら本当に大けがは必須かもしれない!
『よぉし、俺も合わせて吹っ飛ぶから、そのまま壁破っちゃって! 勢い維持ね!』
『どっせぇぇええええい!』
背中に衝撃、そしてミシリという致命的な音! 来たぜ、このまま壁をぶち破って、そのまま弾丸みたいにとすっ飛ぶくらいの勢いでGO!
「どわあああ!? 壁が、壁が障子紙みたいに!?」
「ここは元は私達が設置した場所だ、問題ない……良いじゃないか、パワフルで!」
コレをパワフルで済ませるのもどうかと思うけど。まぁ別に関係ないし、取り合えず自然な感じで外に出れたから後は場所を移すだけだ。
『それで場所は!?』
『そう遠くない! 場所も覚えてる……俺に取っちゃあそこは因縁の場所だからな』
とはいえ何もしないのも怪しまれるので腕くらいはぶん回して殴りあう……振りくらいはしておく。ハーイ右腕行きますよー。ちゃんと避けてねーよいしょお!
「おぉ、掻い潜った! 凄い、生まれたばかりの身のこなしとは思えません!」
「学習しているのだ! 瞬時に! そしてそれを解析し……自分の実力に変えている! そうに違いない! ははっ! やはり私達の作り出した生物は最強だ!」
別になんて事の無い唯のプロレスなんですけれどもね。俺達のやり取りは聞こえてないでしょうし、そりゃあそう見えても不思議じゃないと申しますか。うーん、なんか詐欺を働いてるみたいで……いや向こうが全面的に悪いんだからちょっと騙すくらいは問題ないか。
「い、移動していきますよ……! 追いかけますか!?」
「当然だ! あの化け物が我々の最高傑作に敗れる様子を見れるのだぞ、見ない方がどうかしているだろう! 我々の頭脳が旧時代の遺物に勝利するという……!」
夢を見るのは人の自由だからなぁ。幾らでも見てれば良いんじゃないか? 自分達の夢がかなう瞬間とやらを……いや夢じゃねぇなコレは、妄念か。
『……思い出すぜ、あの日の事』
急に山に連れてこられた女の子を救出して、そっから山の異変を調査していって……でもってその異変を解決しようとしたら、可笑しな化け物と遭遇して……そして……そうだったなぁ、あそこで暴れた時は、確か有馬さんを木の上に上げて。
『……うーん、こうして見ると、俺はあん時の因縁に最後のケジメを付けようとしてる訳だ。感慨深いなぁなんかそう考えると』
『因縁? ですか?』
『まぁ奇妙な因縁よ。正直こっちとしては言い掛かりも良い所な訳だがね』
ったく、山に始まり山に終わるか? 面白い話だよ……あ、左フック? ハイハイしゃがんで避けますねっと……いいスイング!
『ガッシリ組んでみたりする? 力比べしてますよー的なアピールで』
『あー、いいですね。いっそそのまま力込めて捻じ伏せてくれても大丈夫ですよ』
『しないよ! 手加減するから安心しておけお前は! 牛のお兄さんを信じろ!』
よーし! 行くぞオラァ! しっかり組みに行って……ううんこの滑ッとした感触は何ともお魚肌! しかもちょっとザラッというか、鮫ッともしてるねこれ! 滑ってるのに全然、こう、滑らない!
『くっ、力を抜いてなおここまで屈強……!』
『伊達に鍛えてないからな。生まれたばっかりの赤ん坊には負けねぇ』
こちとら生れ落ちて三十年だ。生まれてまだ一時間も経ってない赤ん坊相手に誰が苦戦するってんだよ。幾ら流暢にしゃべれるって言ったって、経験の差があるってもんよ。
『生まれたての赤ん坊とは、言ってくれますね……!』
『赤ん坊だろうよ……諦めて、全力で手加減されておけよ! 大人の余裕見せてやる!』
全力で手加減されておけってのも変な話だろうとは思うけど。まぁそれは、大人の男性としては当然というか。ただ微妙に向こうさんのパワー強いからそこまで手加減してるって訳でも無いけれど。
「ぱ、パワー比べでも負けてない……!」
「そうだ! やれ、全力で! 叩きのめせ!」
――良し、盛り上がってきたか? じゃあそろそろ……頃合いかっ!
『一気に放り投げるから耐えろよ! 大丈夫だ、崖ギリギリにするから!』
『分かりました!』
無茶な話だとは思う。投げられるのに大丈夫だ、安心しろというのはどう考えても矛盾しているというかまぁ、その辺りはノリと酔狂で!
「な、あの実験体を……軽々と持ち上げるだと!?」
「何という、まだ本気を出していなかったんだ、あの猛牛は……あぁああっ! そんな、百キロを軽く超える実験体を!」
「ええい我々が怯えてどうする! 我々は、我々の化学が勝つことを信じて待て!」
いいや、その機会はもう存在しない! お前らの心を折る流れは出来ている!
『じゃあ、行くぞ!』
『お手柔らかにお願いします!』
考えて置いてやるよ……よっしゃ、盛大に飛んでいけシャークバレット!
「……おい、まさか、アレって!?」
「持ち上げて、構えて……投げ飛ばす、積りなのか……!?」
さぁ、ピッチャー牛頭、振りかぶってぇ……投げましたぁ!
投降しようと思ったらメンテナンスって出てスゴイ驚きました。




