Q:どうして相撲なんですか?
「ぐ……ぉぉぉぉぉおおおお……!」
……よし。倒れた。倒れてくれたけれども。
「そ、その。えっと、あっけなかったですね?」
うん。なんか、覚悟決めて殴り合いに入った割には、こう。確かに、何回か反撃はして来たし、痛かったけど、でも二、三発本気で殴ったらあっと言う間に倒れちゃったよこのゾンビ君。いや、手早く終わって良かった、とは思うんだけどさ。あ、今降ろすね。
なんだろう、凄い、肩透かしと申しますか。やり切れないというか。
「あ、すいません、よいしょっと……怪獣大決戦とか思ってましたけどあああ降ろして貰ったのに失礼をすいませんすいません! ゴメンなさい! 三つ編みの網目に角を突っ込むのはおよし下さい! あぁああああ解ける!」
怪獣はこんなに器用じゃないだろう? なぁ君? なぁなぁなぁ? ちょっと角だけで三つ編みを解いてやるからちょっと、大人しくしてなさいね……まぁやらないけど。
「ぬ、抜けた……すいません、失礼なこと言って……あ、三つ編み、ちょっと解けてる」
……ちょっと抜こうとした時にグリグリしちゃったけど。しまったな、尖らせすぎたかもしれない。これからは磨きかけるのは程々にしておこう。
「……このゾンビ、どうしましょうか」
まぁ、回収するしかないでしょう、ねっと。やっぱそれなりには重い。これ担いで山を降りるとなると……あぁ、今日の風呂は大分気持ちよく感じそうだなぁ。
「あ、持って行くんですね……か、軽々と持ってるけど、どれくらい重いのかな……うわぁ、腕だけでも重たい、無理だ」
分からんけど、軽く百は行ってるよなぁ、この重さ。一番デカいツキノワ位はあるんじゃないかな。鍛えて無けりゃ担ぐのもまぁ無理だったよ。さぁ今度こそ山を降りるとしよう。まだ正午過ぎたちょっと後だ、降りるくらいの時間はあるだろうよ。
「ログハウスに戻りますか? 違う? 下の方を指さして……あ、降りるんですか」
そうそう。コレを回収すれば、残りは山岳警備隊と警察の皆さまが何とかしてくれるでしょうし、もう何も心配はないってな。さ、行こうか。
「暗くなる前に、降りられるでしょうか……?」
大丈夫大丈夫。邪魔が無ければ、無事に下りられる、から……?
「……見つけたぞ」
げ、げぇ! さっき追い散らした奴ら! ちょ、また集まんの早すぎないか、そんな恰好で良く山を踏破出来たもんだ。褒めてやるぜリーダーっぽい豪華スーツ……あれ、ちょっと待て。
「り、リーダー、本当にやるんですか!? あんな化け物相手に……ゾンビ野郎やられてますよ!? 彼奴より強いとか無謀取り越して茶番でしょうよ!?」
「手ぶらで、逃げ出して帰ったら背負われているアレよりも顔色が悪くされるぞ。俺の指示に従って動け、こういう時の為に、俺は雇われてるんだ」
よく見たら豪華スーツだけ靴が違う。もしかしてアレ……コンバットブーツってやつですか? バリバリ山歩き対応できる靴だ! ぷ、プロが居る! チクショウリーダーって呼ばれてるのは伊達じゃないのか!
「全員は無理だったが、十人も居れば十分だ。幸い、後ろは崖だ。何とか落とすことが出来れば……殺すのは無理でも、あれを回収するくらいは出来るだろう」
「しくじったら?」
「……アレにねじ切られるとかじゃないか」
いや殺すとかしませんけど。アンタ達みたいな頭がおかしい人達と一緒にしないで欲しいものだが……マジかぁ。この数相手でも、まぁぶちのめすのは不可能じゃないかもしれないけど問題は。
「あ、あわわわわ……! み、見つかっちゃいましたぁ!?」
有馬さんなんだよなぁ……放っておいたら間違いなく人質からの動くなこの娘を酷い目に合わせるぞ、で流れる様に俺が拳銃やらナイフやらでズタボロにされて。ヤバい。
「――女抱えてますけど……どうします?」
「気にするな。どうせアイツが餌にでもするつもりなんだろう。そんなのに気をかまけて死んだら元も子もない。兎に角アレ一匹に集中しろ、死ぬぞ」
……………………ほおおおおおおぅううう? 俺が、彼女を。
「あ、あの。私はそんなこと思ってませんから、う、牛さんてベジタリアンですもんね!」
良し決めた。アイツらの言う通り、怪物染みて暴れてやろうじゃないか。あちらさんはどうも俺が人質も気にしないような鬼畜外道に見えているらしいからなぁあ……決して有馬さんの慰めが止めになった訳じゃない! あ、もう一回有馬さんは木の上に居といてね。
「――いいかっ! 引き付けて、撃つ! 全員、アイツを引き付けろ!」
「「「はいっ!」」」
豪華な服の奴が……拳銃か。銃刀法違反。全く、犯罪行為のオンパレードだな。まぁあんなゾンビ野郎が居るんだから、拳銃くらいは別にどうも思わないけど。でも流石に危ないから制圧するなら……アレからか。
「――ァア!」
「ひぃっ!?」
「つ、突っ込んできやがる!」
「散開しろ! 散れ! 兎に角数を減らされたら終わりだ!」
グハハハハハハ、怖かろう……しかも貴様らが思っているような化け物と違い、牛頭さんは頭脳明晰だ。一番潰すべきは飛び道具だろうよ!
「――? っ!? お、俺を真っ先にっ!? 此奴っ!」
遅い、もう掴んで……山の遥か彼方へ、遠投!
「し、まった!?」
「なんて綺麗な投球フォーム!?」
「言ってる場合か! じゅ、銃持ってんのリーダーだけなんだぞ! 化け物をやれそうな武器が使えなくなったんだぞ!」
これで貴様等は、狩られるのを待つだけの愚かな子羊に過ぎぬ……さぁ、怒りを込めて確実に制圧する。とはいえお前らの様に暴力を振るうばかりの輩とは違う。ただの暴力ではいけない、この国の立派なスポーツで、平和的に制圧しよう。
「な、なんだよ掌を叩いて……! なんなんだよ!」
「足を、あげて……おい、腰を落として、もしかして、アレって」
日本のスポーツとは全く平和なものだ……如何な武術だって、相手を殺すための物ではないらしい。その極みとも呼べるのが……相手を転ばせたり、ステージから追い出す事が勝利の条件となっている、コレだ。
「四股踏んだ……相撲?」
「に、見えるけど……あの、まさかとは思うけどさ」
「アレが……突っ込んでくるの?」
SUMOU……神武不殺、だったか。これさえ使えば、何をやってもまず死ぬことは無いという事だろう。うん。多分そんな意味だった気がする。だから私に殺意はない。
「……逃げろ! 死ぬぞ!」
死なないさ……ただ多分だけど、死ぬほど痛いとは思うけども。ちょおっと手加減忘れそうになってるし。うん。
A:相撲は一番人を傷つけにくい武道だと思ってます。個人的に。