雄牛とゾンビでお山で稽古
「……っ……いつの間にか一匹増えてますよリーダー!」
「あ、アイツは……眼の前のちょっとデカい奴じゃない、メスとも違う……! 俺がぶち殺す……奴が、俺の……! 漸く見つけたぞ……!」
何なんだあの熱視線は……俺のファンか? ファンにしては殺意が余りにも溢れすぎている……止めてくれんか? 怖いから。
『どっせい! よっこいしょーのしょっと! どうした? そんなもんかい?』
「ォォォォォォォオウ……」
平和的な解決、とはいうが。この相撲勝負、一体何をどうすれば勝ちなのか負けなのかも全く分からないっていう……平和に相撲取ってるだけだもんね今の所。
まぁでも、その理由は分かりやすいというか。
「と、兎に角ここは時間を稼いで……まだ終わらんのか!」
「まだまだかかりますよ! 何とかあの獣共を遊ばせて置いてください……!」
うーん獣共とは言ってくれる。俺達は単細胞だからこうやって遊んでれば問題ないってか? かー、見た目で判断する奴は嫌だねぇ、これだから本当に。ったく。こっちに利用されてるとも気付かずと来た。お前らが時間稼ぎしてる時は此方も時間稼ぎしてるんだよ。
『つってもまだいけそうにないけどなぁ……こっちチラチラ見てるし』
『ずっと携帯に集中しつつ、周りを気にしてるからね。今仕掛けてもあっさりバレるよ』
『お、おうそうだな?』
そんな具体的な解析はしてませんでしたけど、その通りかと思いますお母様。というかどうした? 余りにも眼光鋭くない? 猛獣みたいな顔してんぞ?
『兄貴が凄い頑張ってるけど、アレは……もしかしなくても素?』
『素だよ。なんだかんだ言って体動かすのは好きだからね、あの子は』
あぁそう。凄い綺麗に投げ飛ばしてらっしゃるからねぇ。楽しいだろうねぇ。
『……兄貴にぶん投げて貰った先に、研究者の方々が居ても事故で済むよな?』
『いっそそれで行くかい? 上手く行くかは分からんけれども』
『そういう事はしないよ! いくら何でも卑怯だと思うからね流石に!』
……目を引いている隙に一気に捕まえる、というのも大分卑怯だとは思うけれどもさ。それはどうなんでしょうか。お兄様。それに関してはスルーなんでしょうか。
「だ、ダメだ……全く勝てない……調整が終わっても勝てるのか……?」
「希望を捨てるな! 俺だって、頑張って諦めたいのを……必死に……!」
ウーンまるでお通夜が如き。それをこれから速攻で取り押さえる積りで今動いてると思うんですけど……それはどうなんですかね。
『――そろそろじゃないかい?』
『母上ってもしかしてド鬼畜外道? イヤ、察してはいるけど……』
凄い動揺してる所に差し込んでいくのは、合理的だし真面なやり方だとは思うけれどもさぁ……もうちょっと、なんだ。色々と気遣いとか何とかせんで良かったの?
『良いかい? こういう勝負はね、あらゆる容赦を投げ捨てて立ち向かうのが基本だよ』
『お、おぅ……流石でございます母上様……』
なんなの? どんな修羅場を越えて来てんの母上。なんでそんな相手を容赦なく叩きつぶしに行っちゃってるの? 正気? 馬鹿なの?
『G野郎とかね、ああいう野郎には僅かな油断でもデカいチャンスよ』
『あ、台所的な知恵なのね……その勘というか、獣みたいな眼光の原因』
ううん、何だろう。ド鬼畜外道かと思ったらこの出所でズゴーである。余りにも酷いというか。もうちょっとシリアスというか緊迫感を維持させて欲しい。
『……まぁ、理論は分からんでもないが。じゃあ、そろそろ縛り上げてくるわ』
『あいよ。タウロォス! もっと派手に投げて、目を引くんだよ! 全力だよぉ!』
『いいや、力任せに投げ飛ばすのは余り美しくない勝ち方だ! ここは退きつつ上手い事土俵外へ躱して送るのが……!』
『なんで相撲に熱中してんの!? 俺の援護は気にしない方向で行くのか!?』
い、いや。相撲として魅せてくれて相手の目を引き付ける……とかの路線ならありっちゃ有りなのか……? 兄貴相撲取りじゃないし、そんな魅せるような試合も出来る訳ないと思うんだけど。
「しかし、あの牛野郎……まともに相撲取ってますね。知能高いんでしょうか?」
「ドクターがデータを欲しがっていたからな。こういう僅かなのも回収したい所だが……ッ!? 僅かに、動いて……?」
『あれ? 予想以上に集中してる? マジで?』
つーか『知能高そうじゃね?』とかいうちょっと聞き方しだいじゃあまりにも失礼というか、『此奴らこんな賢かったのか!?』とかいう、舐めた態度だよねアレは間違いなくさぁ。
『おう上等だゴラ。テメェら目に物見せてやるから覚悟しろ』
悠長に携帯のカメラなんて向けやがって……ゆっくり、すり足で近づくしかないか。ゆっくりと、真っすぐに行ったら、バレるから……ぐるりと大回りするように。慎重に。ってすり足だと俺が相撲みたいだな……
『ずずいっと……ずずいっと……ぬっ!?』
「……ッ!」
あ、あのリーダー野郎……スマホをこっちに向ける役割を放棄して、はいないな。部下っぽい奴に任せて……ええい、ずっとこっちに視線を向けてやがるじゃない。人気者は辛いなぁ!
「……お前から、目を離すかよぉ……絶対に油断しねぇぞ……」
ち、チクショウ。ここまで熱視線を向けられてちゃ迂闊な事出来ねぇぞマジで。ロープで縛りあげる隙なんてねぇか……
「……いや、いっその事……ヨシ」
うん?
「……お前が分からないとは思えない。他の奴がどうかは知らんが、お前は特別だ」
拳銃を取り出して……はっはぁ~ん? そういう事か……軽く奥に向けて振ってるって事は……お前もそういう積りか? もう我慢限界か? 上等だ。先ずお前を初っ端に縛り上げてやるよ。
飛び散る汗! 漂う腐臭!




