史上最悪の想像
『爺ちゃんの叫び声が聞こえたけど、もしかしてもう終わった?』
『い、いやまさかぁ? 幾ら爺ちゃんだって、そんな……なぁ? あり得ねぇよ流石に』
あり得ないあり得ない。そう思いたいけど……いや、あり得そうだあの爺ちゃんなら。なんならトラックと衝突したらトラック側が異世界転生しそうな爺ちゃんだ。その力を遺憾なく生かし、絶望を振りまいていても仕方ないと思う。あの体躯で有象無象を薙ぎ払うその姿、うーん控えめに言っても魔王過ぎる気が。
「ち、チクショウ! 全然振り切れないぞ! どうするんだ!」
「振り切れないだけで追いつかれてもいない。悪い事ばかりを考えるんじゃない。全力で逃げ切る事だけを。考えろ」
うん、まぁ別に距離詰めようとはしてないしな。俺も兄貴も別に。
『このまま案内してもらった方が、拠点に居る人たちも纏めて捕まえられると思うからねぇ。とはいえ、必死になって逃げてるの見るとちょっと可哀そうになるけど』
『まぁ、なんだ。仕方ないんだよ。向こうが悪いんだから』
寧ろ、向こうが悪く無かったらこんな事してないんだから。兄貴も変に罪悪感を抱かずちゃっちゃか俺の仕事を手伝うんだよ! さっさとやるんだよ!
『……しかしこんな山の何処に拠点構えてるんだろうね? 彼ら』
『いっぺんプレハブ小屋立てて来たからなあいつ等。それに比べれば別にここに拠点貼る位はそこまででも無いよ全然』
そう言えばあのプレハブ小屋、。撤去もしばらくは出来ないっていうから、暫く物置として使わせて頂いていますけど、それは良かったんだろうかと今でも思う。まぁ物置く程に別に荷物も持ってないから、ほぼすっからかんに近いが。。
『しかし、これ何処に向かってるんだ本当に』
『見覚えの無い場所なのかい? 君の管理する山だろう?』
『言っておくけどな、山なんて見る場所がちょっと変わっただけで景色が全然変わるんだから、全部完璧に覚えるなんて無理だぞ』
目印で『あ、ここの近くかなー』位に把握してて、その目印の見える角度で大体の場所を把握してるくらいだから、目印も何も分からんこの状況じゃサッパリマンよ? えぇ本当に、ね?
『……と、思ったんだけど、なんか、見覚えがある気が』
『ホラやっぱりあるんじゃないか。全く変に意地悪しないで欲しいなぁ』
いや、コレは多分完全に偶然なんだけど……というか、ここって。この辺りって確かだけど……えっと、まさかとは思うけど。
『これ家の近くじゃねぇか? 気のせいじゃなければ、だけどさ』
『家の近くってハチの? え? ホントに? こんな森森してたっけ?』
『いや、家の近くってだけで正確には家の周りじゃねぇから……それにここの辺りは案内もしてないから知らなくて当然だと思う』
分かった。アイツら馬鹿だろ。よりにも寄って同じ場所に巣を張りやがった。
「しかし、大丈夫なのか!? あんな張りぼての小屋で!」
「大丈夫だ……! 今回は、絶対に負けないように準備もして来たんだ。心身新進の全てを賭けた反抗作戦なんだよ……!」
だったらせめて場所位変えてから反抗して欲しかった。どうして同じ場所に巣を作る。帰巣本能でも持ってのかお前ら、獣かさては。ったく……向こうが無能な分には構わない筈なのに、どうして俺はこんな必死になって頑張って欲しいポイントを探してるんだ!
『まぁ、うん。余りにも相手が残念過ぎると、色々言いたくなるよね。分かるよ』
『分からなくていいよ……こんな良く分からない悲しみの気持ちなんて』
分かっちゃいけない。兄貴はさ、善意の働きが暴走して女の子を引っかけちゃう位で良いんだから……こんな悲壮な応援の気持ちを理解しちゃいけないんだ。
『しかし、その倉庫って荷物も置いてたんだよね。大丈夫かい?』
『置く物はそこまで無かったし、ほぼすっからかんだよ。問題ない』
『あっそう。そこまで被害も無かったって事かい……』
寧ろ被害出てくれた方がさ、怒りを吐き出せるってもんなんだけど、それすら意味が無いって分かっちゃうとなぁ……迷惑っちゃ迷惑だし、正直ぶん殴りたくはあるけど、熱量が足りないまま殴ってもなぁ。なんか、抜ける。気合的な物が。
「いいか! もうちょっとだ! ちょっとだけ頑張れば生き残れる! 気合入れろ!」
「も、もう足が限界ですよ……!」
「アイツらは距離を詰めて来れてる訳でも無い! このままいけば問題無いだろう!」
まぁ合わせて速さも落としてるから追いつかれないだけなんだけどさ。そろそろ付いてくれれば
『まぁこっちは問題残ってるけどねぇ……どうなの実際? そのプレハブ小屋に居るとして。何か困る事はあるの?』
『ない……と、言いたいが。一つだけあるかな』
『なにさ』
『それなりに広いんだよあそこ。倉庫として使う選択肢がある位には、さ……そこにいろいろ詰め込めるし、それ次第では……』
色々想像は出来るけど。まぁ彼奴ら色々危ない事してたっぽいし…あのゾンビとかな。正直何をしてきても余り不思議じゃないというか。
『あいつ等、色々なんか研究してたって警察から聞いた。主に生物学とか』
『へー……それで?』
……これは、あくまで想像だ。想像なのだが。
もし、もしちょっとでも
『生物学的な知識で、万が一俺のクローン軍団とか作られてたら地獄じゃねぇか?』
『ぅわ……やめてくれないかな、そのゾッとしない想像。一瞬考えちゃったよ』
『気味悪すぎねぇかマジで』
もしこの想像が、万が一にも当たったとすれば、あのデカい牛がずらりと兵隊さんみたく雁首揃えてたりするんだろう? いやぁ、マジで洒落にもならねぇよ。心臓が軋んで使い物にならなくなるってんだ。いや、あくまで最悪の想像だからね?
『でもさぁ、クローンなんて非現実的じゃない?』
『まぁジョークだから、あくまで。な。大丈夫大丈夫』
あのゾンビ野郎が居たら、あながち嘘とも言い切れないのがアレだけど……俺も想像したくなかったけどさぁ……一番の最悪の可能性を考えたら、なぁ。
『僕これ以上先に進みたくなくなったよ、一気に……』
「あ、見えたぞ! 辿り着いた!」
『もう辿り着いちまったから、諦めて頂けるとありがたい』
あーチクショウ。変な想像するんじゃなかった……もう、想像だけで精神的に大分ダメージ貰っちゃってる気がする。
想像が実現した場合、一番必要なのは大量の野菜です。




