人間とはサイズが合わないのよ……
「に、逃げちゃいましたね……というか、追い散らしちゃったっていうか」
うん。それが目的だし。まぁ散らばっちゃえば徒党組んで大暴れとかも出来ないだろうし。まあ山の中では満足に動けないだろうし……いや、迷ってアレに襲われてもマズいけど。今はアイツらに好き勝手させるのも良くないし。
「……入りますか? ここ」
んー……いや、プレハブ小屋だしなぁ。なんか特別な施設って訳じゃあない様に見えるし放っておくべきだろう。でもって追いかけるべきはあのゾンビ野郎なんだが。大本をどうにかしても放った怪物がどうにもなら……なきゃ……待てよ?
「あ、やっぱり入るんですね」
ホントは入るつもりなかったんだけどね……確か、見世物って言ってたんだよなぁ、あのチンピラ二人。だとすれば……当然見世物を見せる為に中継点が必要じゃないかね。カギはまぁ、開いてるか。閉める余裕も無かっただろうし……つーか、狭いな。
「中は……凄い普通のプレハブ小屋ですね。私の高校も、こんな感じの校舎だった時がありました。でもなんか、逆に……怖いですね、普通なのが……」
悪の秘密組織のアジトは絶対にそれっぽくなければダメ、と言う法則も無いし……流石に、アレだけ出ていってまだ居るとかは……少なくとも廊下には居ないけど、警戒だけはしておくか。電気は付いてるから、目的の物があれば問題なく見れるとは思うけども。
「……コード? 牛頭さん、凄いいっぱいコードがありますけど」
コードだと!? 間違いないそれあだっ!? ……角引っかかって、首が、グキ゚って。
「だ、大丈夫ですか? わぷっ……あ、頭クシャクシャしないでください……これは、褒めてくれてるのかな」
うん、首は痛いけどめっちゃお手柄だから多分平気! で、このコードを辿っていけば……見つかるはず、なんだけど。く、下手にコードを見つけちゃったから、踏まないようにするために、余計に、動きづらく!
「……大きな牛頭さんが体を縮めて歩いてるの、シュールだなぁ」
えっと……ここを曲がって、そこの部屋の中だな。オープン・セサミ! ……ちょっと古かったかな? 結構前に漫画で見たから、流行ってると思うんだけど。っとこれだ。
「え、えっと……この部屋って。画面がいっぱいありますけど、モニター室、ですか?」
やっぱりあったか。スピーカーなんざ無許可で設置するような奴らだ。普通に無許可で監視カメラ仕掛けてもおかしくはない……いや、でもこれカメラって感じじゃないな。空から撮影してるし。ドローンか?
「あ、さっきの人達だ」
ホントだ。めっちゃ右往左往してる。後で救出させるから許して……いや犯罪行為のオンパレードを他人の山でやってんだから自業自得かコレは。うん。まぁもう暫くわちゃわちゃしててください。後出来れば戻らないでください。
「凄い一杯ありますね、カメラ……あっ!? ご、牛頭さん! あれ! 左上のモニタ!」
ぬ、左上とな。どらどら……見つけたぞ、あのゾンビ。木の位置とか、あの辺りから考えるとえっと……確か……よし、大体は思い出した。後は、アイツを追いかけるだけだ。
「えっと、アレを指さして……それで、私が抱えあげられてるって事は……追いかけるって事ですよねもう動き出しちゃってるしぃぃぃぃいいいいい……」
ごめんね! 置いて行くわけにもいかないし! しょうがないんすよ! 諦めて抱えられてね! 申し訳ないけど! それにしても体縮めて走るのめんどくさっ!
あー……のびのびと外を走れるって、滅茶苦茶スッキリするね。
「……全然走っても居ないのに、凄い疲れてる気がする……精神的な疲れって、こういうのをいうのかなぁ……うぅ、私ずっと牛頭の人に抱えられてばかりだよ」
ゴメン。でもアレを放置してると危ないし、だからと言って君を何処かへ置いて行くと余計に危ないし……コレが最適解なんだ。だから許しておくれ。っと……この木の感じ。漸くついたか。
「止まった。って事は、この辺りですか、さっきのモニターの場所」
エレースコレクト。後はあのゾンビ君がこの辺りから動いていない事を祈るだけなんだけども。結構時間は経過してるし、絶対移動してるだろう。まぁ近くには居るだろうし、そこまで焦らなくても……
――……ぉぉぉぉおおおおおお
「っ!? ご、牛頭さん! なんか、なんか聞こえました!」
うん。俺も聞こえた。どうやら近場に……いや待てコレ、近場に居たっていうより近づいているような感じがするんだけれども。気のせいかな?
「ぉぉぉぉおぉぉおおおおおおおお!」
あー気のせいじゃなかったかぁそっかぁ良しちょっと待って一旦退散させてね! でもコレ全速力で走っても振り切れっかな!?
「いやああああああ! 凄い! とても必死そうです!」
そうね! 形相とか! なんか、推しを拗らせて三千年とか経ってそうな屈強なアイドル親衛隊染みた、規格外の執着心を感じる! 一切合切を投げ捨てて侵攻して来てる!
「どうして!? どうして追いかけてくるんでしょう!? さっき牛頭さんになんか可哀そうになるくらいあっけなく負けちゃいましたよね!?」
そーねー。力の差を見せつけたつもりだけどねー……いやもうそれを気にするだけの知能も無いのか。それとも、力の差を無視したくなるほどの何かがあるのか……?
「ひぃいっ! 目が合ったぁ!?」
ええい、ゾンビ野郎め。餌でも欲しがってんのか……あ。ゾンビ、お約束と言えばやっぱり……チラッ。
「うぅ……やだぁ……こないでぇ……美味しくないよぅ」
うん。止めとこう。『多分君の事を極上の餌だと思ってるZO♡』とか言ったら多分有馬さん卒倒すると思うし。うん。こういう時には言葉が通じなくて良かったと思うわ。思わず口に出してもまぁ……分からんし。
「――!」
それに、今でも悲鳴上げるんだ。これ以上悲鳴を上げ続けようものなら、本当に野生動物を引き寄せるアラームみたいな感じになっちゃうから。
「うぅ……もうあれ見るのやめよう。怖いものは見ない、見ない、見……な……っ!?」
兎に角、アレを撒かないといけないんだが……引き離せてる気がしないのよな。寧ろ若干距離を詰められている気すらすると申しますか。いやぁご飯への執着ってすごいんだね。うんうん。人も獣も、化け物も。そういう所は同じだよ。言ってる場合か。
「……っ!? う、嘘ぉ!? ご、牛頭さん前! 前!」
前? 前って……んん?
「――っ!?」
し、しまった! こっちは崖だったか……行き止まりだ。ええい、完全に雰囲気に呑まれてどこを走ってるか考えもしなかった!
「ご、ごずさぁん!?」
……逃げられないなら、仕方ない。なんかさっきとは迫力が違うが、もういっぺん相手してやる。あ、有馬さんは木の上に居てね。危ないから。降りちゃダメだよ。
「は、はわわわ……あ、あの! 気を付けて!」
はーい……元々から捕まえる積りだったんだし、ビビってる場合じゃないだろ。覚悟決めて置け、俺。よぉし……覚悟しろよ化け物!
双方の体格差ですが、大体6対4って感じです。