独身男対カーチャン
『で! あちらのお嬢さんは! 電話を貸して欲しいというからここに連れて来ただけ! なんでかチンピラ絡まれてるOLさんを助けないとか鬼でしょ!?』
『おっしゃるとおりです……お兄様……』
チクショウ爺ちゃんめ、形勢が不利になったと見るやそっこう好々牛の皮被って有馬さんとお茶飲み始めやがって! パワーだけじゃなくて結構老獪何だよこのミノジジイ!
「緑茶、お好きなんですねぇ。私が淹れるの、もうちょっと上手だっらた良かったんですけど……」
『いやぁ、そんな事ないよ……美味いぞぅ、お嬢ちゃんのお茶』
のほほんとしやがって、こっちはずっと正座で反省会だぞ! というか三十人近いチンピラからの理不尽リンチから庇って無双するとか、やっぱりなろう係主人公じゃねぇか兄貴! だからフラグ体質だとか一族で噂になるんだよ!
『全く、僕としてはハチ、君の方が心配だよ。急に名前を変えたと思ったら、こんな若いお嬢さんと友達なんて……あのコミュニケーションしなくてもいいやー、位の君が』
『言っておくが有馬さんは完璧、全く隙も無く友達だからな?』
俺がなんか年下しか狙わないの少女趣味みたいな言い方止せよ。どんなロクデナシのクズ野郎と思われてるんだ俺は。ったく。いや、人によってはそう言う趣味もあるだろうしそれを否定するのこそクズだと思わんでも無いけど……少なくともこの俺の体格と有馬さんはアウトだ!
『本当だろうね。ハチみたいな大人しい子こそハジけると……』
『どんだけ鬱屈した男だと思われてんの俺!? 殴り飛ばして構わんかね!』
全く、最近はむしろ外で積極的に人を助けている位の真人間だというのに! お前本当に舐めるなよ!
「あ、タウロスさん。ありがとうございます。無事会社と連絡付きました」
『それは良かった!』
良い笑顔でサムズアップしやがって……お前本当に後で覚えてろよ。ったく。
「す、すみませんお世話になってしまって。今、タクシーも呼んだので、そちらで失礼させていただきます」
『お気を付けてー』
あ、ご苦労さまでしたー。お気を付けてお帰りクダサーイ……さて。これで漸く、今年のホームパーティに来る面々は揃ったかな?
『まぁ、それは兎も角。ホームパーティは明日だし、その間、ゆっくりしといてくれればいいからさ。今回の事についてでもしっっっかり語りおうぜ?』
『落ち着けよ……い、いや。実は直前でもう一人来ることになって』
『はぁ? 一体誰が……っ!?』
……なんか、ドドドドドドって、スゴイ足音がするけど。嫌な予感しかしない。
『――っしゃぁあああっ! 到着!』
『ウゲェっ!? 母さん!?』
ど、どうしてここに!
『オォ、ヴァシー! もうちょっとかかると思っとったが!』
『急いだのよ! バレたら絶対この子、面倒になるから!』
バレたらッてアンタ。俺の家に来るんだぞ? なんで秘密裏に来る必要があるのか全くもって分からないんだよなぁ!
『言えよ来るって! 初めから! あんたちょっと、常識ってもん知らんのか?』
『来るって言ってもアンタ絶対歓迎しないでしょうが!』
『当然だ、当方迎撃の用意をしてお主を待ち構える所存であるゥ……!』
『母親を迎撃するんじゃないわよこの馬鹿息子』
オオゥ重たい右フックが……! おおブッダよ! 寝ているなら目を覚ましてくださいお願いします、母親が僕に重たい暴力を振るうんです! 告解させてやってくださいお願いします! それはキリスト教では?
「バイオレンス!? ってまた牛さんが増えていらっしゃる!? そしてなんか……おっぱい大きい!? え、っと、女性の方ですか?」
『そうです……』
「頷いているって事はそうなんですか? え、もしかして……お母さん!?」
はい。我が母親です。一族では相当な美人って言われてるのに、その内実はスーパーゴリマッチョな母上様です。ワンパンでお父ちゃんを失神まで追い込むような鬼の様なお人ですよ。
『ってあらぁ!? 本当に女の子の友達作ったのアンタぁ!』
「わ、わわっ!? にゃんですか!? 私どうして抱きかかえられてるんですか!? うわぁスゴイまつ毛! バサアッてしてる! 長い! めっちゃ綺麗!」
あ、ちょ、まだ慣れてない子を俺と同じ距離感で抱きかかえて持ち上げんな! JKは色々繊細なんだぞ! ったく俺だって色々を気を遣っているというのに……ぐ、腹のダメージが予想以上に大きい!
『お母さん! 初対面の人にそんなめっちゃフランクな態度は流石に……!』
『あ、あらそうね! 私ったら、嬉しくなっちゃうとつい色々忘れちゃって! ゴメンなさいねお嬢さん! ホホホホホ!』
「唸ってるだけなのに仕草が……凄い雄弁……! い、いえ、えっと。私は大丈夫です」
大阪のオバちゃんみたいだよね。ギリシャ人なのに。美女タウロスなのに。色々と致命的に勿体ない人だよ本当に……それと。
『で!? その子とは付き合う積りなの!?』
『だからそういう子じゃねぇって言ってんだろうが! 友達ィ!』
会う度に俺が嫁取ってないのを良い事にさぁ、こういう話をするから嫌なんだよ! 一回なんか、勢いそのままに本当に結婚させられそうになったからね! まぁ綺麗なミノタウロスちゃんだったから、ちょっち良かったかなぁ……とか思っちゃったのが不覚!
「……牛頭さんが凄い顰め面をしている」
『あいつはお節介だからなぁ。ハチも母親だから好きではあるんだが・……あ、お嬢ちゃんお茶お代わり頼めるかね。後ジョッキで、っと言うても分からんか』
「あ、やっぱり少なかったですね。ジョッキで持ってきます」
『……察しが良いなぁこの子』
テメェ有馬さんを便利に使ってるんじゃねぇよ! あちょ、母さんこっちに迫ってくんだ馬鹿野郎が! ええい! 止せ! 俺はまだ結婚しねぇって言ってんだろうが!
決して相容れぬ存在同士。




