常識的に考えてみよう。
「あの、コレだけ教えて貰って宜しいでしょうか! 牛頭さん! 私、大人しく抱えあげられているだけでいいんですよね!?」
はい。そうです。特に何かをさせる訳じゃありません。あそこに貴方を置いたままじゃ凄まじく悲惨な目に合うかもしれないし。具体的には、まぁ、子供はお断り的な雑誌の様な。まぁそんな感じ? 宜しくない。
「だ、大丈夫なんですね、良かった……で、でもあのゾンビっぽいのは、何処に行ったんでしょうか」
それに関しては足跡も無し。残念ながら手がかりも無し……だからって、あの二人に案内させるっていうのもなぁ……なんかの拍子に逃げ出されても大変面倒な事態になるかもしれないし。
「……あのゾンビ、みたいなのも、こうやって凄い人に抱えられてるのも……全部夢だったりすればいいのになぁ……なんか、ショックすぎて疲れた……」
まぁ、いきなり誘拐され、山の中。そしてあんな怪物を目にして……本当に、大変だったろうに。俺が少しでも、その疲れを和らげて上げられればいいんだけど。
……いや、ちょっとくらいなんかしないと。この子は巻き込まれただけなんだし。
「あ……頭……慰めて、くれてるんですか?」
うん。君はあくまで被害者だからね。大人がちゃんとケアをしないと。ただ豊かな感性を持ってる訳でも無いし、ムサいオッサンだし、撫でるしか知らないんですけども
「ありがとうこございます……これで一番ショックを受けた原因がこの人じゃなければなぁ……凄い登山家っぽい恰好した、おっきな牛さんじゃなければ……」
なんか小さい声でもにょもにょ言ってるけど、なんか大丈夫そうだし、良かった。さてこれで問題に集中できるってもんだ。アレを放置するとなるとなぁ。
「……凄いなぁ、全然止まらない。こういうの慣れてるのかなぁ」
まぁ山の中を走り回って山の環境を保全するのが森林官のお仕事ですから。足腰と体力はまぁ鍛えた、っていうかまぁ元々鍛えられていたというか。牛追いかけて捕まえて取り押さえたこの自慢の体が見込まれたというか。
まぁそんなの伝える暇も無いので頷くだけだけど。
「やっぱり慣れてるんだろうなぁ……あの人たちも、そうなのかな」
いやぁ慣れちゃいないでしょうよ。あんなリクルートスーツに呼吸も遮られるような顔布付けて、間違いなく山を……山を……?
「……え、なんで止まるんですか?」
そうか、慣れてる訳が無いのか。慣れてる訳が無いからあんな格好が出来る。でもあんな格好でも、全然疲れてる様子も無かったし。いやねぇよ。そんなん。
「わぷっ……あ、あの。もう大丈夫ですから、頭撫でて貰わなくても……」
いや、お手柄だよ。俺は慣れちゃってたけども。山で長距離を歩くなんてまぁ無理だ。つまりは……あいつ等は長距離を移動せずに、ここまでたどり着いたって事だろ。奴らの居場所は、間違いなくこの付近じゃないか!
「……プレハブ小屋、でしょうか?」
そのようだねぇ。結構なサイズだ。予想がドンピシャ。ここから出てってあっさりと見つけた。ちょっと冷静に考えれば分かる事だった。息切れもせずに全然歩けているのが可笑しかったんだよなぁ。
「あ、あの壁に書いてあるのって……」
ん? ……『心身新進』、同じ文字か。間違いないな。ここがアイツらのアジトって事で間違いないらしい。よし、写真撮って、山岳警備隊にメールしとこ。ここですよー。
「……誰か出てきますよ?」
お、共犯の方々か? まぁこっちも鍛えてますから、あんな軟な奴らが一人や二人三人や四人いや十人以上いるけど待って流石に多すぎない? 馬鹿なの?
「あ、あっわわっわわ……」
そ、そりゃあ俺だって猛獣ぐらいだったら倒せますし、チンピラの五人くらいだったら大した相手でもないよ。いやでもさぁ、まだまだ全然奥から出てくるんだけど、二十人近く居るじゃないの!? こ、この子を守り抜きながらあの数は……!
「――五番と八番からの連絡が途絶えた。あの怪物の発見報告も無い。餌は既に山岳警備隊が回収した。何が起きたかを考える時間はない。警察が辿り着く前に撤収するぞ」
あーしかもなんか指揮官みたいな方もいらっしゃるしぃ! リクルートスーツじゃなくてちょっと豪華なスーツ着てるし。なんなの、スーツが正装なの? 生真面目なの?
「あの怪物は……どうするんですかい?」
「回収の為の部隊を残す。C班、任せたぞ」
いや、回収はマズいでしょ。再利用とかダメでしょ。確保しないと。
山岳警備隊とか、警察の皆様にアレ任せるのは、流石にちょっと。デカい熊を退治するのにも装備は必要だってのに、熊以上かもしれない怪物相手に備えも無しってんだから被害甚大じゃ済まないぞ。
「……に、逃げちゃいますけど……」
だからと言ってアレを発見できるかどうかも微妙。という事で、今やるべきはアレ等の足を引っ張って回収させない事……つまり、こうするんだよ!
「え、あの、立ち上がってどうしたんですか、あの、物凄い嫌な予感がするんですけれど」
予感的中してると思うよ。大丈夫、君だけは守るから!(ロマンスZERO)
「あの、すいません、コレだけ頷くかどうかで教えてくださいまさかあそこに突っ込むとかじゃないですよねぇえええええええええ!?」
突撃ぃぃぃぃぃいい! 蹴散らしてやろうじゃねぇか! いきなり大声上げてガタイのいい男が突っ込んできてきたら、そりゃあ誰だってビビるだろうよ!
「な、なんだ? この……なんだぁ!?」
「そ、そんな……ぞ、ゾンビ野郎か!? 進化したのか?!」
「アホか! ゲーム脳かよテメェ!」
ええいここでも化け物呼ばわりか! ったく、俺は普通の一般人男性だってのに! 皆して化け物呼ばわり! 今日の分の鬱憤、ここで思いっきり晴らしてやる! うがぁぁあああ!
「っち狼狽えるな! どうせただの着ぐるみ……ま、待て! ちょっと待て! 目がぎょろっとしたぞ!? ウソだろう!? 本当に生きてるのかアレ!?」
「り、リーダー! 逃げた方が!」
オラテメェら! 散れ! 散れってんだ!
おい散らしているのは目を血走らせたミノタウロスです。