只管に右
甘かった。触手がデッキに新しく出てくる? そんなんおこちゃまの発想だった温かったんだ! まさか、まさか本体が幹伸ばすみたいに本体を伸ばして突っ込んで来てるとか、誰が予想し得るってんだ!
「――ゥウウウウウ!」
「――ッ!」(カーッ!)
このフカヒレ野郎、さっき思いっきり拳でご挨拶して遥か後方に仰け反ったってのにすぐ戻ってくんな! なんて逞しい鮫だ! っちぃ!
「な、なんか固い音しましたけど、大丈夫ですかお客様!?」
「ォウ!」
「だ、大丈夫なんですね!? 本当ですね!? いや、今オウって言いましたもんね!」
いやそれとは関係ないけど、大丈夫っちゃ大丈夫。殴って押し返せる程度だし、なら掴まっても大丈夫、だとは思うけど……? と、兎に角。この空中を泳いでる……いや泳いでるっていうより、木の幹を伸ばしてるおさかな君をどうするか。
「――いや全然大丈夫じゃないぞ!? なんか居るぞ!?」
コレが何かって? いやぁーおいらにも分からん。寧ろ最悪のこのスットコドッコイな光景を理解したくもないです寧ろ。力でぶちのめして終わりにしたい。終わりにさせてください。
「さ、サメだ! サメが……なんか木っぽい鮫がこっちに来てるぞ!」
来ては無い。留まってる。と言うか来て欲しくない。秒で帰って欲しい。まぁでも来るよねやっぱりぃ! チクショウ、もう一発叩き込んで追い返してやる!
「グヌゥオオ!」
「――ァーン」
――カプ。
「……」
「……」
カプ? なんか、腕に奇妙な感触が……した、気が……ん? おかしいな、俺の腕の先が見えないぞ? さっきまで俺のムキムキなマッチョアームが完全に消えていや違うなコレ完全にかぶりつかれてんなぁオイ!
「――ッ!?」
「ギャアアアアアアアアアアお客様の腕ガァアアアア!? がぶっと! いかれてる、結構ガッツリと! ヤバいです! 危ないですよ!」
いや危ないとかそういう話じゃないよ。まだ腕に感触があるから噛み千切られてないみたいだけども……しかし、がぶがぶされてんなぁオイ。
「お客様早く! 早く腕を……?」
全く、甘噛みしてないで、この……いい加減に、ふん! なんだこの、なんだこの悪い顎はよぉお前は、え? ちょっと、おい。ちょっと、顎開いてそこに大人しくしてろコラ。アァ?!
「く、口に手を突っ込んで、無理矢理に……開こうとしてるのかアレ!?」
「――ヌゥオオオオオオ!」
「――!? ――!! ――!! ――ッ ――ッ!」
どうした? その程度の抵抗で終わりカ? この海のギャング風情が。たかがゴロツキが筋者のミノタウロスに勝てると思っているんだったらお笑いだぜ。オラ、顎放せこの魚類、引き続きちょっと噛んでんじゃねぇぞ! 痒いんだよこのフカヒレぇ!
「――ォオオオオオオ!」
控えめに顎開いてんじゃねぇよ、オラ、諦めてもっと顎開け、必死になって開けよ、顎が外れる位によ! しっかりと! 謝罪の意味を込めて! て、い、ね、い、に!
「す、凄い。まるで粘土も開く様に、ねっとりと、サメの顎が開いて行っている……!」
おし良い子だな。あーったく、ちょっと右腕切れちゃってるじゃないか。消毒キッチリしないと化膿しちゃうなぁ……この野郎なにしてくれてんじゃ! あぁ!?
「――ヌゥン! ウゥン! オォオ!」
右! 右! 左、と見せかけて右! 右! 右! 只管に右ったら右! 狙いは全部鼻先! 泣くまで右! 利き腕の右を徹底的に叩きつけて! 右ぃ!
「す、すげぇ……怪獣大決戦だ……」
「ち、違いますから! 牛頭さんちゃんと人間です! 本当に! アレですから! ボディビルダーと着ぐるみのキャストの二足の草鞋なだけで!?」
徹底的に着ぐるみのキャストにされるのは凄い不本意なんだけど。まぁ気にする前に只管ラッシュラッシュ! オラ! 木くずになって削れるんだよ! と言うかこいつマジで総木製かよ。手が痛いんですけど結構。
「……それにしても、丸太殴っている様なものに全然手を痛めている様に見えないのはどうなんだろう。というか……拳でちょっと削ってるような?」
うーん鼻先がこう、ガリガリ、良い感じで角度を付けたいんだよなぁ。うーん、拳じゃなくてチョップで、良い感じで、ズバッと、良い感じに、こう……
「ちょ、まって!? もう殴ってない! 削りに入ってるぞあの人! 完全になんか、芸術性発揮しようとしてないか!?」
うーん、お前ねぇ、ホオジロザメをメッチャ押し出し過ぎなんだよホント。空想の生物っぽい奴なんだから、ちゃんとこう、既存のサメじゃあり得ない感じをだなぁ。これ、こう、ミサイルみたいに丸みを付けてさ……あるじゃん、ミサイルにギザギザの口書いてあるアレ。アレよ。
「――っ! ――ッ!」
あ、こら暴れんなお前! ちょ、逃げんな! 幹をくねらせるな! この、ええいいい加減諦めて……ん? 何だ、尻尾の方に、何か……?
『――製 NO.――』
良く、見えないぞ、暴れてて……あっ! この野郎! 逃げやがった! クソが! ちょっと鼻先削られた位で! 最近の木工細工は根性が……いや、あのサメは一応生物だったっけか。うん。
「……逃げた」
「あ、アレを追い返すとか、ボディビルダーってスゲェ……!」
いや信じるなそんな言い訳。俺は森林官だって言ってんだろ。まぁ、筋肉鍛えてはいるけどそれだって、山歩きをしっかりする為だっての。
生物を木彫りするとかいう残虐ムーブ




