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俺の山でデスゲームをするんじゃない  作者: 鍵っ子
俺の乗ってる船でバイオテロを起こすんじゃない。
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幕間:海のバイオテロと言えばアレが出ないと

「……ターゲット、捕捉しました。情報通り、船に乗っていますね」

「しかし、あの船にあっさり乗ってくれてありがたい事だよ。もう少し警戒して乗ってこないと考えていたが……ふふふふふふ」


 男たちは、船のデッキを見ていた。そこに並ぶ職員、誰一人として目もくれず、狙うのはただ一人……デッキに悠々と立つ、人間離れした体格の大男……いや、男、というか牡というべきか。


「山での実験体の性能テスト、忌部老の親戚筋から仕入れていた人体実験の素体、悉く潰してくれたのだ……その報復は、受けて貰わねばな」

「陸上では後れを取ったが、今回は海上だ。勝手も違うだろうよ」


 牛頭八太郎。男たちの狙いはあの牛、ただ一人だった。ここ数か月で、自分達の邪魔を悉くしてくれたこの怪生物に怒りの鉄槌を下すべく、任を受けたのが、彼らと、彼らのチームだ。


「……しかし、大丈夫なのか? アレは」

「大丈夫だろう。映画から着想を得て作り出した、とかジョークをかませるくらいだ。相当に自信があるんだろうよ」

「なるほどな。本当に自信があるならそれくらいは言えるか」


 彼らは、組織から特別な『切り札』を託されて来ていた。あまりにも異質過ぎたせいか些かちょっとこれは……とか思わないでもない二人だったが、開発した男たちの『大丈夫』という太鼓判を信じて、ここまで運んできた。


「まぁ一応は海の暴れ者ではあるからな。仕事をしない、という事は無いだろう」

「万が一俺らに牙を剥こうもんなら死ぬがな俺達。間違いなく」

「スペックが本物なら、そんじょそこらの奴とは桁が違う、だそうだからな。まぁ間違いなく餌だろうよ……まぁ、ちゃんと餌やってれば問題無いだろう」


 そう言って、男たちの片割れが後方を見る。そこにある、巨大な水槽に、世話係が今しがた肉を放り込んだところだったが……五分前も餌をやったばかりだ。何という食欲だろうと思ってしまうのも、無理はなかった。


「……なぁ、俺達本当に大丈夫だろうな。食われないだろうな」

「いや流石に大丈夫だろう……フラグ立てるのやめろよ」

「だ、だってこういうのって、作った側からパックンチョされるのが、定番じゃんか」

「やめろってホント。口に出したら本当になるんだぞ? 婆ちゃんが言ってた」


 ……男二人は、組織でも大分新入りで、昇給をかけてこの任についていた。最悪、アレさえ放してしまえば逃げ帰ってもいい簡単な任務だ。調子に乗って、若干幹部っぽい雰囲気を出していたが、別にそんな事も無いのである。


「そういやアレ、何匹くらい居るんだろうな?」

「はぁ? お前何言ってんだ、三匹に決まってるだろうが」

「なんで?」

「だって開発班が、『三匹以上は、ちょっと……ヤバいから、アレですから』とか言っていたじゃないか。だからそれ以上は……」

「え? あるだけ貰ってきちゃったけど」


 ――思わず、空気が凍った。今、この船はとんでもない爆弾を抱えて居る事に、二人揃って今更気が付いたのである。片方は酷く青ざめ、もう片方は完全に表情が抜け落ちてしまっている。


「……お前ぇええええええ!? 何てことしてくれてるんだこの阿呆が!」

「ど、道理で餌をどんだけ放り込んでも全然満足しない訳だ……! どうする?! 倍近い量入れてみるか!? それで満足してくれるか!?」

「アホか! 根本的な解決になるかこの馬鹿お前! 下手したら次の餌は俺達だぞ!」

「いやだよそんなの何とかならんか!?」

「なんともならんわ! この間抜けぇ! お前が餌になってこい馬鹿野郎!」


 醜い争いと言うのが正に似合いの大喧嘩である。コレが終れば晴れて昇給、という可能性などすっかり忘れて、今は自らの生にしがみ付いて居る、としか言えない。酷い物である。


「……あ、あの、餌は、如何いたします? 倍にしておきます」

「「倍にしておけ! 食われたくはない! 出来得る限り腹を一杯にしておいてくれ!」」

「は、はいっ!」


 しかし生には酷く貪欲だった。餌係が速攻で大量の餌を水槽に投げ入れるのを見てから男たちは、もう一度大喧嘩を始めようとして……溜息をお互いに付いた。


「馬鹿らしい」

「どうせ餌になる時は一緒か……もう速攻で放してしまうか? 出来るだけ近づいてから放せとは言われているが、身の安全には代えられんぞ」

「仕方ないな。死にたくはないし、餌を食い終わった直後に速攻で放つぞ。速攻で逃げるぞ。巻き込まれたくはない。俺だって命は惜しいんだ」


 ――彼らが見つめる先の水槽に……何が居るのかを、彼らはよく分かっていた。下手を打てば速攻で食らい尽くされるというのもよく分かっている。その脅威が倍増としている事が分かった以上、長くアレ等を乗せているのはリスクにしかならない。


「終わりましたよ。ったくとんでもない食欲ですね。漸く満足しましたよ……」

「良し、ならもういいぞ。さっさと放して撤退だ!」

「えっ」


 もう何も考えていなかった。全力で撤退し、安全を確保する事しか考えていなかった。全力で逃げたかった。酷い有様で海の藻屑になるのだけは避けたかった。


「い、いいんですか……?」

「早くしろ! 俺達だって死にたくないんだ」


 その直後だった。目まぐるしく無数の船員が急いで船の上を走り回り始めた。


「おい! ゆっくり降ろせ! 刺激するなよ! 水の中に完全に沈めてから檻を開けろよいいか!? 時間を間違えれば悲惨な事態になるぞ!」


 全員が明らかに緊張感をもって只管に動いている。先ほどとは打って変わって、凄まじい焦り方だ。下手を打てば間違いなく死ぬという、全員の認識がそこにあった。


「お、降り切りました……!」

「良いか、開いた、と思ったら速攻逃げるぞ! 三、二、一……! 急げぇ!」




 暫くしてその付近からは、一隻の船が消え。少し離れた場所に、静かな無人の船が浮かんでいた。その本体を、巨大な、木の様な何かに鋭く貫かれ……ガラクタの様になって。


皆様ご存知、無数の種類が居るアレですよ

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